映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ムーンライト

2017年04月02日 | 映画(ま行)
自分らしくあろうとすること



* * * * * * * * * *

アカデミー作品賞の受賞作。
私は「ラ・ラ・ランド」本命と思っていたので
ちょっとがっかりしたのだったのですけれど、
いやいや、本作は受賞も当然と納得してしまう、力のある作品でした。


マイアミの貧困地域で育つシャロンを、
少年期、ティーンエイジャー期、成人期とそれぞれに俳優を替えて描きます。


少年期のシャロンは「リトル」と呼ばれるほどに体も小さく、内気です。
いじめられっ子。
母と二人暮らしですが、その母は麻薬常習者で、ろくに彼のことを構いません。
しかし、ふと知り合った麻薬ディーラーのフアン夫妻が、
何かと彼のことを気にかけて、世話をしてくれます。

フアンはこんな商売をしていますが、なかなか世話好きで大きい人物。
「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな。」
こう言うフアンを、シャロンは父親のように信頼します。
また、いじめられっ子のシャロンに唯一親しく接してくれるケヴィンという存在もいる。
けれども、シャロンは自分自身なんだか他の人と違う事に気が付き始めています。
どうしてこんな風にいつもイジメの標的になってしまうのかという理由・・・。



彼はいわゆる性的マイノリティなんですね。
自分とは何者なのか。
普通でもそういうことを考え始める年ごろ、
彼にはとても重い問題です。



さて次には高校生のシャロン。
相変わらず線が細くて、いじめの対象。
けれどもある夜、海岸ではじめてケヴィンと互いの心を触れ合わせます。
シャロンの中ではもう友人以上の感情をケヴィンに抱いている。
ところがその翌日、思いもよらない事件が・・・。



この事件がシャロンを大きく替えてしまうのですね。
最後に登場する成人のシャロンは、別人のように筋骨たくましくなっています。
彼は本来の自分を隠すために、体にも心にも鎧をまとってしまった。
もう誰にも弱々しいとか、変わっているとか思われないように・・・。



なんというか本作、黒人でも男でも、ましてやゲイでもない私のようなオバサンでも、
シャロンの感情にすごく引きこまれ、共感を覚えてしまうのです。
自分が自分らしくありたいと思うこと。
人を好きになること。
それは誰もが持つ感情で、そしてそれは生きることの全てなのかもしれません。
ラストで月の光を浴びて青く光る少年のシャロンが映し出されます。
生きることへの賛歌でありましょう。


映画力あり! 
最近のアカデミー賞の作品賞は、
なんだかもったいぶって大上段に構えた作品が多かったので、
だからこそ「ラ・ラ・ランド」が逃したことを残念に思ったわけですが、
本作は理屈抜きでストレートに心をわしづかみにする秀逸な作品でした。
同じ目を持つ3人の俳優を探しまくったというのですが、見事に成功しています。

「ムーンライト」
2016年/アメリカ/111分
監督:バリー・ジェンキンス
監督総指揮:ブラド・ピット
出演:アレックス・ヒバート、アシュトン・サンダース、トレバンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、ジャネール・モネイ

アイデンティティ探し度★★★★★
満足度★★★★★


最新の画像もっと見る

コメントを投稿