科学では説明のつかないもの
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出版社に勤める樋口晶子は霊能者・由布由良の取材をすることに。
半信半疑ながら、気になることを言われて……。
表題作『艮(うしとら)』のほか
『死神』『時計草』『ドラゴンメイド』の怪異・恐怖ストーリー3作品を収録。
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山岸涼子さんのちょっと恐い話。
一番印象深いのはやはり、表題作「艮(うしとら)」。
「うしとら」というのは、北東の方角を指します。
出版社に勤める樋口晶子は夫と娘、3人家族。
最近家を新築し、育児休業を終えて職場復帰したばかり。
しかし夫は単身赴任になってしまい、娘は病気がちで保育園を休みがち。
つまりは晶子自身も仕事を休まねばならず、非常に心苦しい。
そしてまた、彼女自身も体調が最悪で・・・。
こんな切羽詰まった状況にあるとき、
晶子は仕事でとある霊媒師の所に取材に行きます。
自称・インチキ霊媒師というくらいの怪しげな人物なのですが、
ほんの少しの「みる力」はあるらしく、晶子をみて、こう言う。
「あんたの家、勝手口が“うしとら”の方角にあって、鬼門が開いている」と。
今までそんなことを気にしたこともない晶子ですが、
家に帰って調べてみれば本当に勝手口が北東の方角にある。
まさにこの家に入ってから、イヤなことばかりが起こると思い当たるのです・・・。
作中の晶子は、風水等に闇雲にのめり込むようなタイプではなく、
むしろ合理的な考え方ができる人物。
だけれども、科学的根拠は何もない話であっても、
自らが体験する、この悪いことばかりの連鎖との関係を想像せずにはいられない。
なんだか分かる気がするのです。
私も普段は無宗教、無信心ではあるものの、
縁起やら霊魂やらを全く否定しているわけではない。
ましてや窮地に陥っているときには、
ほんのわずかな光にもすがりたくなるものですしね。
本作ではこれが単に晶子の思い込みではなくて、
実際に「悪しき」ものが家に入り込んでいた、
と言う設定になっているわけですが・・・。
思い込みなのか。
それとも今の科学では説明のつかない何かなのか。
そういうはざまにある本作は、やはり山岸涼子さんの得意とするところ。
好きな一作です。
「艮(うしとら)」山岸凉子 モーニングKC
満足度★★★★☆
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