誰もが未来を信じていた
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先に見た「余命10年」と同じく、藤井道人監督作品ということで。
2008年、東京近郊のある町。
高校卒業を控えた7人の男女。
気があっていつも集まってはわいわい言っています。
それぞれの未来を漠然と夢見ている。
その後
歌手を夢見て上京した者。
家族とうまくいかず、家を出た者。
受験に失敗して、地元で浪人生活に入った者。
できちゃった婚で、結婚を決めた者。
高校を卒業して、早くも道はそれぞれ別々に。
そしてそれからまた数年。
それぞれがそれぞれの道に行き詰まっていて、そのうちの一人は命を絶ってしまう。
もう、彼らの道は行き止まって浮上することはないのか、
また2度と交わることがないのか・・・?
冒頭、みずみずしい萌黄色の田んぼに流れてくるメロディ。
それは柔らかくほんのりと明るい。
そんな田んぼの中の一本道を、高校生7人が笑い合いながら自転車をこいで行く。
いかにも若く、未来はどのようにも開けている、
と予感させるのですが・・・。
そこを頂点として、ストーリーはどんどん沈み込んでいくのです。
自分の歌を多くの人に聴いてもらいたい、そんな夢を抱いたカナ(真野恵里菜)でしたが、
おかしな着ぐるみを着せられてCMソングを歌い、
多少の人気は出たものの、その後自分の歌は歌わせてもらえず、
すぐに飽きられていく・・・。
カナのマネージャーの仕事に就いたキリ(清水くるみ)は、
カナの望みを叶えてやりたくてもどうすることもできず、
また、悪い男に引っかかって貯金を取られ、暴力を振るわれ・・・。
カナと共に音楽をやりたいタツオ(森永悠希)は、しかし上京の手段だった受験に失敗。
親が医師なので医大を目指していたけれど、この先もどうも期待薄。
友人達はそれぞれ前進しているようなのに、自分だけ取り残されたように感じてしまう。
リョウ(横浜流星)は地元の工場で働くけれどやる気が起こらず、物資を盗んでクビ。
上京して特殊詐欺の半グレ集団に紛れ込む。
ところで、地元でできちゃった婚に踏み切った二人は、
最も地道に「親」となり、しっかりと大人になっていきます。
夢を持っちゃいけないというわけではないけれど、
多少「自由」を犠牲にしても得られる幸福はあるわけで・・・。
平凡も、生きる選択ではあるのでしょう。
リョウは、実は高校生の時から人生に夢など抱いていませんでした。
別にやりたいこともナシ。
その場その場で楽しければいいと、そんな感じ。
だから盗みがバレて仕事をクビになっても全然落ち込まず、
特殊詐欺もさして罪悪感も抱かず、すぐに水に馴染む。
まあ、ワルではあるのですが、彼は悩まない。
しょうもないヤツなんですが、結局カナの最後のピンチを救うのが彼だったりする。
まさに、人生色々。
考えてみると、学校時代というのは、将来のそれぞれ千差万別の道を進む者たちが
「同一」でいられる希有な時期なんですね。
それぞれの修羅場を乗り越えて、彼らは再び故郷で出会う。
それはやはり柔らかな萌葱色の田んぼの一本道。
一人欠けているのがいかにも淋しいけれど・・・。
同じ高校の現役高校生達のグループが、笑い合いながら通り過ぎる。
時の流れの郷愁と少しの苦み。
そしてほんの少しの希望。
ステキな作品です。
<WOWOW視聴にて>
「青の帰り道」
2018年/日本/120分
監督:藤井道人
原案:おかもとまり
出演:真野恵里菜、清水くるみ、横浜流星、森永悠希、秋月三佳、富田佳輔、平田満
みずみずしさ★★★★☆
苦悩度★★★★☆
満足度★★★★☆
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