映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ブラック・スワン

2011年05月19日 | 映画(は行)
痛みと生理的嫌悪



             * * * * * * * *

バレエにかける根性物語・・・かと思いきや、そうではなくミステリアスな作品。
ナタリー・ポートマンが第38回アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。
ニューヨークのバレエ団に所属するニナ。
彼女は元バレエダンサーの母と共に
人生のすべてをバレエに注ぎ込んでいます。
そして、「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが。



ニナは、おとなしくまじめな優等生タイプなのです。
これまでハメを外したことがない。
その生硬さは、多分に母の過干渉で威圧的な接し方に起因するように見受けられるのですが。
彼女は白鳥ならばとても美しく繊細に踊ることができる。
でも、ここでは黒鳥をも演じなければなりません。
黒鳥はいわば魔性の存在。
邪悪・官能・・・、ニナのイメージからはほど遠いものです。
しかし、何とかその本質を演じたいと悩み苦しむニナは、
次第に現実と妄想の境界、
狂気の淵へとさまよい始める。


その“邪悪”な何者かは、どこかから忍び込んできたものでしょうか。
それとも、もともと心の奥底に潜んでいたものなのでしょうか。
私たちの中にもきっとある二面性を考えずにはいられません。
廊下ですれ違う、もう一人の自分。
鏡の中の、自分と異なる動きをする虚像。
それだけでも気が変になりそうで、怖いですね・・・。



ここには、彼女の父親は登場しません。
彼女の母が若い頃にニナを身ごもり、それでバレエダンサーの道を断念した、
ということのようなのですね。
問題の根っこは、この母のゆがんだ異性への感情。
そして、そのことから来るさらにゆがんだ母子関係なのだろうな。
それから、背中の傷、爪からの出血等の執拗な自傷の描写。
血液は私たちの命をつなぐものでありながら、
私たちの体外に出るや否や、
禍々しく穢れたものに変貌するのは何故なのでしょう。
さらにはTVのCFにも使われていましたが、
ニナが自分の体から黒い羽根を抜くアップのシーン。
いやはや、どうにも生理的嫌悪をさそいます。
本来、芸術的で美しいバレエの世界に、
この痛みと嫌悪感を塗り込んで仕上げたというところに
何ともいえない凄みがあります。



この、苦悩と狂気の中で迎える舞台の初日。
結末は是非映画でご覧あれ!

2010年/アメリカ/108分
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー


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