映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

最初の人間

2014年09月09日 | 映画(さ行)
アルジェリアの過去、そして今



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原作はノーベル文学賞作家アルベール・カミュの遺稿です。
氏の没後30年以上を経て発見され、
未完のまま1994年に出版された自伝的作品。
・・・などという背景を何も知らずに私は見ましたが、
十分に魅力的な作品でした。


1957年夏、年老いた母を訪ね故郷アルジェリアに戻った40代小説家のジャック・コルムリ。
その時のアルジェリアは
フランスからの独立を求めるアルジェリア人とフランス人との間で紛争が絶えなく、
テロ活動もあるなど、不穏な空気が渦巻いています。
母の家に落ち着いたジャックは、
この街で過ごした少年期のことを回想するのでした。



彼が生まれたばかりの頃に戦死した父。

身勝手で厳格な祖母。

陽気な叔父。

自分を見出してくれた恩師。

そして、友情は結べなかったけれど印象的なアルジェリア人の級友のこと・・・。



家は貧しく、家族はみな文盲であったのに、
教師がジャックの才能を惜しみ、進学を家族に説得してくれたのです。
仏領アルジェリアというこの地が自分を形作ったことを
ジャックは再確認したのだと思います。

だからこそ双方が憎しみ合うことに心を痛めなければならなかった。
長く故郷を離れていたからこその思いなのかもしれません。
貧しい家に生まれたものの、今や世界的に名の知れた作家にまでなった自分。
そんな自分に何ができるのか。

過去と現在。
フランスとアルジェリア。
地中海の明るく輝く太陽のもとで、思いを巡らせていく・・・
異国の「故郷」に、いつしか私自身も思いを巡らせます。
良品です。



最初の人間 [DVD]
ジャック・ガンブラン,カトリーヌ・ソラ,マヤ・サンサ,ドゥニ・ポダリデス
紀伊國屋書店


「最初の人間」
2011年/フランス・イタリア・アルジェリア/105分
監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
原作:アルベール・カミュ
出演:ジャック・カンブラン、カトリーヌ・ソラ、ドゥニ・ポダリデス、マヤ・サンヤ

地域の内情度★★★★☆
満足度★★★★☆

プロミスト・ランド

2014年09月08日 | 映画(は行)
少女に教えられたこと



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アメリカの田舎町、マッキンリー。
不況にあえぐ農場主からシェールガスの掘削権を買い上げる
エネルギー会社のエリート社員、スティーヴ(マット・デイモン)。
この街の仕事も簡単にケリが付くはずでした。
ところが、ある老教師が住民投票を呼びかけたことから、
次第に苦戦を強いられるようになっていきます。



そもそもスティーヴは自分の仕事に誇りを持っていました。
こうして貧しい町にお金を落とすことで
町が豊かになり、住民の幸福につながる。
そう信じているからこそ、これまで業績を積んでこられたのです。
それは自分の出身した小さな町が、
中心となっていた工場の閉鎖によりすっかり廃墟になってしまったという
体験によるものでもありました。
ところが、ガスの掘削によって環境汚染が引き起こされるという話が広まっていきます。
環境活動家があらわれ、以前自分の住んでいた町で牛が死んだ
・・・などと吹聴して歩きます。
会社からはそんな話を聞いたこともなかったスティーヴは、
戸惑い、自身の仕事への信念や情熱が揺らいで行くのですが・・・



本作は企業の環境破壊を決めつけ、
断固反対するという立場はとっていません。
結局住民投票でどうなるのかの結果も出ていません。
ただ言えることは、
目の前の大金に目が眩んで、結論を急ぎすぎてはいけないということ。
じっくり時間をかけて論議し、住民が自ら答えを出さなければならないのだ、
ということです。



大変不幸なことではありますが、
原発を受け入れた町の末路の一例というのを
私達も目の当たりにしているわけで、この町の話も他人事ではありません。
現代社会に一石を投じる良作です。



25セントのレモネードを売る少女に
「誠意」を教えられる終盤のシーンがよかった。
住民投票を呼びかけた教師も、
何もスティーヴに悪気があったわけではありません。
住民が豊かになることを止められるものでもないし、
しかし、本当にいいことずくめの話だとも思えない。
少し慎重に考えた方がいいのではないか
という問題提起。
いつしかスティーヴも彼に共感していくわけです。
しかしそれはこれまでとこれからの自分の人生にも関わること。
そうではあっても自分の心に素直になることも大切ですね。



ところでこの町のいわば「まちおこし」のヒントは
結構初めから提示されていましたよね。
牧場で可愛らしい馬を増やして、
そうして人を呼びこむ方法を考えていけば・・・
しかしそれはまた、別の話。
アクションなしのマット・デイモンもよいものです。

「プロミスト・ランド」
2012年/アメリカ/106分
監督:ガス・バン・サント
脚本:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー
出演:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー、フランシス・マクドーマンド、ローズマリー・デウィット、スクート・マクネイリー

問題提起度★★★★★
満足度★★★★☆

「銀の匙 12」 荒川弘

2014年09月07日 | コミックス
頑張れ、副社長!!

銀の匙 Silver Spoon 12 (少年サンデーコミックス)
荒川 弘
小学館


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いよいよ、将来への方向性を見出し、エゾノー2年となった八軒。
目指せ、起業家!
しかし、投資をあてにした企画書はそう簡単には通らない。
・・・何しろあの怖~い人が相手ですから・・・
ビビリます。
何しろまだ高校2年。
でも八軒は卒業してからなんて思わないのです。
思いついたらできることからやればいい。
そういう自由で思い切りの良い発想は、
この一年間で身につけたのでしょう。
そして八軒は、なんと就職浪人の大川先輩を社長に据え、
自身は副社長となる。


大川先輩は、たまにいいことを言うんですよね。

「他人様の金をアテにしないで会社を起こす!!
まずは自分の責任の範囲で豚を売る。
波に乗ったら名刺と肉と業績記録持って
おやっさんに売り込みに行け!! 
んで出資ぶんどってこい!! 
親子とかでなく仕事してる一社会人として
堂々とやりあってくるんだよ!!」


カッコイイ!!。
ホントにどうしてこれで就職できなかったのか謎ですが、
まあ、八軒と組んでこの仕事をするために就職しなかったわけですね、はい。


将来へ向けて、それぞれの道を歩み始めているエゾノーのみんなに刺激され、
駒場くんも思うところがあるようです。
彼は飛行機に乗って、一体何処へ行くのでしょう?? 
う~ん、気になります。


八軒の2年目はさくさくと進みます。
馬術部に可愛らしい後輩もできて、
何も知らなかった自分の一年前を思い出す。
本当に、この1年で八軒もすっかり逞しくなりました。
本格的に農業のあり方へ踏み込んでいくこの辺りからは、
多分もうエンタテイメント的映画には不向きになるでしょう。
でも本ではまだまだ楽しめそうです。


広い牧場で自由に育った放牧豚・・・。
私も出資したいくらいです・・・。
いわば北海道の農業をプロデュース。
若い発想と人脈を駆使して、頑張れ八軒!!

「銀の匙 12」荒川弘 少年サンデーコミックス
満足度★★★★☆


アナザー・プラネット

2014年09月05日 | 映画(あ行)
もう一つの地球の自分

アナザー プラネット [DVD]
ブリット・マーリング,ウィリアム・メイポーザー,ロビン・ロード・テイラー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


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ある日空にポッカリと浮かぶ、地球にそっくりな星が出現。
そんな設定から始まるSF作品ですが、
これは純粋なSFというよりも、もっと人の内面を描いた作品なのでした。
先日見た「ザ・イースト」の製作・脚本・主役を務めていた
ブリット・マーリングが
同じく脚本を手がけ、主演を果たしています。
(こちらのほうが先)。
本作は日本では劇場公開はなかったのですね。
いい作品なのにな。残念。


17歳でMITに合格し前途洋々だったローダ(ブリット・マーリング)。
ある夜酒気帯び運転による事故で、妊婦と幼い子供を死なせてしまいます。
4年の刑期を終えたローダは、謝罪のため被害者家族のジョンの元を訪れます。
彼は妻子を失い、生きる意欲をなくし自堕落な生活を送っていました。
家も荒れ放題。
ローダは自分のことを言い出す事ができず、
清掃業者と偽り、家の清掃に通うようになります。
一方、空に浮かぶ地球そっくりな星には、
現在の地球と同じ人間が住むもう一つの地球であることが判明。
ローダはその惑星に向かう第一陣のメンバーに選ばれるのですが・・・。


あの地球とそっくりな星に、もう一人の私がいる。
あちらの自分がこちらの私を見たらどのように思うだろう。
「思うような道を歩んでいるか? 
間違ったことをしていないか?」
・・・作品中でも言っていました。
それは何もあちらの地球の自分ではなくても、
私達は無意識のうちにいつも自分にそのように問うているのではないか?と。
だから実は空に地球が浮かんだりしていなくても、
私達はこの胸の中にいつも別の地球を浮かべているのかもしれません。


自分の人生に後悔しか見いだせないローダが、
「別の地球」に憧れ、行ってみたいと思うのは無理もないことでした。
でもそれはやはり、「同じ」自分がいる地球なのではないか・・・。
ラストのほんのワンシーンが
実に雄弁にいろいろなことを物語ります。
それは非常に苦いのですが、それゆえにちょっと忘れがたい作品になったと思います。


私、もう一つつまらぬオチを考えつきました。
そっくりのもう一つの地球上の人々は、
やはりこちらと同じことを考え、実行する。
双方全く同時に探索船発射します。
そのコースまでもが対称的に同じなので、中間地点で衝突してしまう。
何度やっても同じ結果になってしまい、結局互いの星に行き着くことはできない。
・・・漫画的にすぎるかな???


ところで原題はAnother Aarthなのに、
なぜプラネットにしたのでしょう? 
もう一つの地球。
さにそのものずばりの題名なのに。


「アナザー・プラネット」
2011年/アメリカ/93分
監督:マイク・ケイヒル
脚本:マイク・ケイヒル、ブリット・マーリング
出演:ブリット・マーリング、ウィリアム・メイポーザー、ロビー・ロード・テイラー、クマール・パラーナ


LUCY ルーシー

2014年09月04日 | 映画(ら行)
生命の証



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台北のホテルでマフィアの闇取引に巻き込まれてしまうルーシー(スカーレット・ヨハンソン)。
彼らは人間の体内に薬物を詰め込んだ袋を埋め込み、密輸しようというのです。

そんなこととはなんの関わりもないルーシーでしたが、
つまらぬことから引き込まれ、無理やり袋を埋め込まれてしまうのです。



罠にかかる寸前のネズミ。
ヒョウに襲いかかられる寸前のカモシカ・・・。
そんな映像が挟まれるのがユニーク。
普通ならそうなる寸前に救い主が現れるのですが、
ここでは哀れルーシーは彼らの餌食になってしまう。
そしてさらに悪いことには、その袋から薬物が彼女の体内に漏れだしてしまうのです。
そのことでルーシーの体内でとんでもない変化が・・・!!


普通の人の脳はその10%しか機能していないそうなのです。
ところがルーシーの脳はどんどん覚醒を始め、
超人的な力が開放されていきます。
たった一人の脳が100%機能したからといって
ここまで超人的なことができるとはとても思えない・・・
というのが正直なところではありますが・・・。
それでもルーシーが力を発揮していくのはちょっとカッコイイ。



「人類を救うのか、滅ぼすのか?」
という文言がポスターにありますが、
なんだかちょっと違うような気がします。
ルーシーは次第に感情をなくしていくとはいえ、
初めから一般の人を傷つけるというような意図はなかったですよね。
ノーマン教授(モーガン・フリーマン)にコンタクトを取ったのは、
彼女の溢れ余る頭脳をどうすればいいのか、教えを請うためでした。

「知識を残し、伝えること」
それこそが生命の証なのではないかと教授は言うのです。
その後のルーシーは、だからその目的のために突っ走る。
人類を滅亡させる意図などなかったと思えるのですが・・・。


それにしても空中を飛び交う電波まで見えるのだったら、
うるさくて仕方がないでしょうに・・・。
それだけでも気が狂いそうな気がしますが、
100%全開の脳は、瞬時にそれぞれを理解し、
本当に必要な物だけをより分けられるのだろうな・・・。
そのへんまではまだ分からなくはないけれど、
どうして時間をさかのぼったりもできるのかはよくわからない・・・。
それとも、それはあれでしょうか。
現在の身の回りのすべての情報から過去を推測し、
あのような完璧な映像で自分の中に再現できる、
ということなのかもしれません。
ルーシーは、もはや「神」でした・・・。



彼女が最後の命を燃やして残したデータが、
今後どのように活用されるのか、されないのか・・・、
実は私はそれが逆に災いの種になるような気がして仕方ありません。
私達がその「知識」を得るには、まだ早過ぎるのです、多分。
・・・などと考えたら続きの物語ができそうですね(^_^;)

「LUCY ルーシー」
2014/フランス/89分
監督・脚本:リュック・ベッソン
出演:スカーレット・ヨハンソン、モーガン・フリーマン、チェ・ミンシク、アムール・ワケド、ジュリアン・リンド=タット

斬新さ★★★☆☆
満足度★★★★☆

そらのガーデン

2014年09月03日 | インターバル
都会のオアシス



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(ホームページより・・・ご紹介)

「そらのガーデン」は、環境保全活動の一環として、
屋上を緑と憩いのある魅力的な空間にしたいとの想いから生まれたガーデンです。
寒冷地の北海道では、本格的な屋上庭園は前例がなく、
「そらのガーデン」が初めての試みとなりました。
また、「そらのガーデン」は、富良野の“風のガーデン”を手掛けたことで知られる
“上野ファーム”上野砂由紀さんの監修による、
国内でも珍しいグラス(草)ガーデンです。
北海道の風土に適した宿根草を中心に、
多種多様な草花がちりばめられています。
天空~そら~にひろがる草原の中で、四季折々に表情を変える、
草花の彩りをお楽しみください。


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この、「そらのガーデン」は、札幌の街のど真ん中にあります。
というのも、お恥ずかしい話、
私ももつい最近知ったのですが・・・。



中央区北5西2、札幌駅直結「エスタ」の屋上(11階)
さわやかな緑が広がっています。

8月も半ばを過ぎた日曜日。
開場まもない時間だったのですが、なんとそこには誰もおらず
私一人の貸し切り!!
心地よい風が吹き、自分のいる場所を忘れそうです。

癒されます。



近所のオフィスに勤めているのだったら、
お昼休みにここでお弁当を食べたりするのもよさそう。
ちょっとしたテーブルなども用意されています。





時期によって咲く花も違うと思うので
またそのうち訪れてみたいと思います。
(実はよく行く映画館も近いので!!)







ビアガーデンも好きだけど、
ホンモノのガーデンも、もっと好き!!

パリ猫ディノの夜

2014年09月01日 | 映画(は行)
パリの夜の冒険



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ふだんあまり馴染みのないフランスのアニメですが、
これがすこぶるオシャレで面白い!!



パリ。
女性警視ジャンヌは一人娘のゾエと暮らしています。
少し前に夫はギャングのヴィクトル・コスタに殺されてしまい、
ゾエはそのショックで失語症になってしまっているのです。
さてこの家でかっている猫・ディノは
夜な夜などこかへ出かけていきます。
実は近所に住んでいる宝石専門の怪盗ニコのところに行って、
アシスタント(?)を務めているのです。
パリの夜、屋根から屋根を渡り歩く、身軽な怪盗ニコ。
ある夜、ゾエはディノが毎晩どこへ行っているのか確かめたくて、
ディノの後を追い部屋を抜け出します。
ところが途中、ギャングのコスタ一味と遭遇。
追われる身となってしまいますが・・・。



パリの夜、というのがもうなんだか心浮き立ってしまいますが、
ストーリーはサスペンス。
けれどもアニメだけあって、
キャング一味の子分たちはお馬鹿ばかりで笑ってしまいます。

いばりんぼのボス・コスタは、
しかし、ただ威張っているわけではなくて
意外なほどに体力もあり身軽!! 
ゾエを助けることになるニコも苦戦するのです。





猫ディノはかわいいとは言いがたい顔つきですが、
そのしなやかな動きはやっぱり猫。
屋根から屋根へとびうつることなんか、ワケもない。
人に媚びないようでいて、
ゾエの腕の中にするりともぐりこんで甘えたりするところもあって、
猫の魅力満載。



「ナイロビの巨像」を狙う、コスタ。
警視の動きを見張るためのスパイ。
ニコを追う警察の動き。
失語症のゾエは・・・。
互いに独り身のジャンヌとニコは・・・。
張り巡らされた伏線がぴったり噛み合って心地よい。



夜の動物園にノートルダム寺院。
そういった舞台仕立ても、ワクワク感を高めます。
オススメです!!

パリ猫ディノの夜(DVD)
ベルナデット・ラフォン,ドミニク・ブラン,ブルーノ・サロモネ,ジャン・ベンギーギ
日本コロムビア


「パリ猫ディノの夜」

2010年/フランス/70分
監督:アラン・ガニョル、ジャン=ルー・フェリシオリ
脚本:アラン・ガニョル
声:ベルナデット・ラフォン、ドミニク・ブラン、ブルーノ・サロモネ、ジャン・ベンギーギ