映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ペットのアンソロジー」 近藤史恵他

2014年09月28日 | 本(その他)
生身の犬のぬくもり、息遣いが・・・

ペットのアンソロジー (光文社文庫)
我孫子 武丸,大倉 崇裕,汀 こるもの,皆川 博子,大崎 梢,近藤 史恵,森 奈津子,太田 忠司,井上 夢人,柄刀 一
光文社


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「ペット」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?
愛犬家としても知られる作家・近藤史恵氏が
「この方のペット小説を読んでみたい」
と思った作家に執筆を依頼。
盛り沢山な作品が揃いました。
登場するのは犬、猫から爬虫類、鳥まで、
中身も涙なくしては読めない作品から爆笑必至の作品までと、多種多彩。
小説のなかで、生き物と寄り添ってみてください。


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先に「和菓子のアンソロジー」を読んで、痛く気に入ってしまったので、
同シリーズの本作「ペットのアンソロジー」も読んでみました。
近藤史恵さんがリクエストした執筆陣は、
我孫子武丸、井上夢人、大倉崇裕、太田忠司、
近藤史恵、柄刀一、汀こるもの、皆川博子、森奈津子。
ペットといえばつい「カワイイ」だけになりがちですが、
さすがにこの方々、そう単純ではありません。


冒頭、森奈津子「ババアと駄犬とわたし」は、
隣家に住む、人の迷惑お構いなしのクソババア(失礼!)を忌々しく思っていた私が、
その飼い犬である何もかまってもらえず薄汚いハスキーを通じて、
ほんの少し気持ちを歩み寄らせていく・・・というストーリー。
イヤ、こんな犬でもやっぱり愛おしく思えてしまう私も、
とにかく犬好きなんですよね。


ペットと言っても、カワイイものばかりとは限らない。
汀こるもの「パッチワーク・ジャングル」は、なんと爬虫類です。
トカゲとかヤモリとか私にはよくわかりませんが、
とにかくそういうものを愛する(?)人はいて、
でもなんとなくオタクっぽいですよね。
本作はそういう人を夫に持ってしまった、妻の視点で語られています。
夫のそういう趣味を全否定はしていなくて、
まあ、しょうがない・・くらいのところ。
この夫婦の関係性が結構気に入ってしまいました。
恋人ではなく、夫婦。
実にそういう味わいがあります。
実は私、この方の本を読んだことがないと思うのですが、ちょっと興味が出ました。


異彩を放っているのが井上夢人「バステト」。
古代エジプトで女神とされていた猫の姿をしたバステト。
黒曜石でその姿を模した置物にまつわるストーリーです。
自殺願望を持つ主人公が、
何やらラブストーリーに発展するのか?と思った刹那、
実に意外な結末!! 
いやはや、唖然とさせられます。


私は、やはり犬を描いた作品に心惹かれました。
ラスト近藤史恵「シャルロットの憂鬱」に登場する犬には、
もっとも生身の犬の息遣いやぬくもりを彷彿とさせられました。


シリーズの3番目「本屋さんのアンソロジー」も、いよいよ外せなくなりました!!

「ペットのアンソロジー」近藤史恵他 光文社文庫
満足度★★★★☆