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「東京自叙伝」 奥泉光

2014年09月19日 | 本(その他)
破滅の物語

東京自叙伝
奥泉 光
集英社


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明治維新から第2次世界大戦、
バブル崩壊から地下鉄サリン事件に秋葉原通り魔殺人、
福島第1原発事故まで、
帝都トーキョウに暗躍した、謎の男の無責任一代記!
史実の裏側に、滅亡する東京を予言する、
一気読み必至の待望の長編小説!!


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不思議な小説です。
主人公は「東京」。
東京の「地霊」がその時々に、いろいろな人物の意識に入り込み、
東京の暗部の歴史づくりに加担していく。
特に明治維新以降、東京の歴史すなわち日本の歴史でもある。
東京という"場"の意識のようなもの。
それが人ばかりでなく時にネズミであったり、猫であったり、
同じ時に幾つもの個体に乗り移っていたり・・・変幻自在。
しかしその性格は、かなり冷淡で無責任、
どうにも共感の持ちようはありません。
無論、それは人ならぬ、霊のことであるわけなので、
当然なのかもしれません。
物語はほぼ明治維新の頃から始まりますが、
東京の地は、はるか有史以前からそこにあったわけで、
このような時の流れの中で、人一人の命など取るに足りないというのは、
そうかもね・・・とも思える。


「なるようにしかならぬ」というのが東京という年の根本原理であり、
ひいては東京を首都と仰ぐ日本の主導的原理である。



痛切ですが、的を得ている気がしてしまいます。
あるときは関東軍の参謀。
あるときはヤクザ。
またある時はバブルの女王・・・
何かしら時代のエポック的なところには必ず"彼"がいる。
「なるようにしかならぬ」と嘯きながら
「平和」ではなく、炎や混乱を希求し・・・


しかし考えてみれば、現実では地霊ならぬヒトがすべての災厄を巻き起こすわけで、
本当に冷淡で無責任なのは人間自身であるわけです・・・。


本作、奥泉光作品でも「神器」に繋がるものと思われますが、
私としてはやはりクワコーの方が好きかも・・・。

「東京自叙伝」奥泉光 集英社
満足度★★★☆☆