映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル

2018年05月13日 | 映画(あ行)

スキャンダルを言い繕うこと

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アメリカ人フィギュアスケート女子選手で、はじめてトリプルアクセルに成功したトーニャ・ハーディング。
1992年アルベールビル、94年リレハンメルと、二度の冬季五輪に出場。
しかし、突然暴露されたスキャンダラスな出来事・・・。
そういえば・・・という、記憶にも残るあの実際の事件を映画化したものです。
ただし、本編はそのハーディング自身とその関係者の証言をもとに作られているので、
多分に自分たちに都合の良い話になっているのかもしれず・・・、
「本当かウソかはわからない」
とはじめから注釈が入っているのがミソ。

貧しい家庭に育ったトーニャですが、幼い頃からスケート教室に通い、
全米トップ選手に上り詰めます。
父親はトーニャが小さいうちに家を出て、ほとんど母子家庭で育ったわけですが、
その母親が凄まじい!! 

キビシイのですが、かなり独自の倫理観。
愛情を持ってというよりも単に押し付けのようで・・・。
日本でもそうですが、フィギュアなどでしっかりしたコーチをつけるとなればかなりお金がかかります。
貧乏人には難しい競技・・・。
母親がそれを支えたとすれば、そこは賞賛に値するわけですが・・・。
まあ、この母親にしてこの娘あり。
・・・いや、こうでなければ、娘はとっくに母親に押しつぶされてだめになっていたかもしれません。
勝ち気で強引で、品が悪くて・・・・。
技術は確かだけれどもトーニャのこんなところは審査員からは嫌われていたようです。
人が点数を付けるわけで、そこはどうしようもありません・・・。

さてある時、トーニャのライバル選手、
ナンシー・ケリガンが突如暴漢に襲撃されて負傷するという事件が起きます。
これが、トーニャの関与によるものだった・・・。



本作で詳しい経緯が描かれますが、まことにバカバカしい。
トーニャの元夫が友人に依頼して脅迫状をナンシー・ケリガンに送りつけるだけだったはず・・・
それがどうしてこうなってしまうのか・・・。
これはドタバタコメディの作品だったのか?と、思ったくらい。
でも先に言ったように、このことも本当かどうかは疑わしいのですけれどね・・・。
内容のユニークさと実際上の滑稽さ、本当に「面白い」作品でした。

つまるところ、人の行いはいつでもこんなふうなのかもしれません。
文書の書き換えとか、セクハラ問題とか・・・。
やってしまったことと、その記憶がどうこうという話、
はたから見れば一目瞭然の滑稽な話なのだけれど、
当人は必死で言い繕おうとする・・・
それはトーニャのようなはすっぱ娘でも、高学歴の官僚でも同じなんだなあ・・・

このポスターのマーゴット・ロビー演じるトーニャ・ハーディング。
まさに、イメージピッタリ。


<ディノスシネマズにて>
2017年/アメリカ/120分
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャネイ、ジュリアンヌ・ニコルソン、ポール・ウォルター・ハウザー
ブラックユーモア度★★★★☆
満足度★★★.5


「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す 巻ノ四」夢枕獏

2018年05月12日 | 本(SF・ファンタジー)

この場所、このシーンのために本作はあった。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻之四
夢枕 獏
徳間書店

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そしてもう一通。
玄宗側近の宦官・高力士が遺した手紙には更なる驚愕の事実が記されていた。
その呪いは時を越え、順宗皇帝は瀕死の状態に。
呪法を暴くよう依頼された空海は、逸勢や白楽天、大勢の楽人や料理人を率いて華清宮へと向かう。
そこはかつて玄宗と楊貴妃が愛の日々をおくった場所であった。
果たして空海の目的は―?
堂々の完結。

* * * * * * * * * *

いよいよ完結編です。
かつて、玄宗皇帝と楊貴妃が絢爛豪華な愛の日々を送った華清宮。
そこに集った2人にゆかりの人々が、60年を経てまた同じ場所で邂逅することになるのです。
今はもうかつての面影もなく、寂れて朽ち果てようとしているその場所で・・・。
かつて飛ぶ鳥の勢いで栄華をほしいままにした人々が、今老いて衰えた姿で現れます。
すでに亡き人もいて、でもその人物が死んだ年に生まれた空海と逸勢を配するところが、
なんとも絶妙!!
変わり果てた場所で、変わり果てた姿で再会し、酒を酌み交わす人々。
無常・・・といいますか、
全ては変化していく。
生きるものはいつかは死んでゆく。
空海の掴み取った「真理」がここにあるようです。
憎んでも憎みきれない思いも互いに抱いていた彼らは、
しかし今はもうすべて昇華してしまったよう・・・。


かつて逸勢が
「楊貴妃は皇帝の妃としてもてはやされ贅沢三昧の暮らしをしていて、
それで幸せだったのだろうか」
と思う場面がありましたが、その答えもここに出てきます。
また、この期に及んでなんとも驚く真相があったりもして、唸らされてしまいます。
まさにこの場所、このシーンのために本作はあった、と言えるのでは?


そして、いよいよ空海は青龍寺に赴き、密教の真髄を学びとります。
そして本来なら20年のところをわずか2年で、日本へ帰国する運びに・・・。
この時、逸勢の取る行動も面白い!!
このあたりは史実なんですね。
実に、興味深い!!
知れば知るほど、凄い人物なんですねえ、空海。
今までがあまりにも認識不足でした。

そして「あとがき」で著者は言います。

ああ、なんというど傑作を書いてしまったのだろう。
いや、もう、たまりません。
ごめんなさい。
どうぞ御勘弁。
自画自賛、させていただきたい。

本当に、手放しの自画自賛。
本作は描き始めてから17年、四誌に渡って連載してようやく完結したということで、
著者の思い入れも相当なものなんですね。
そして私も十分楽しませていただき、この自画自賛も納得。
やっぱり先に見た映画ではこの充足感は味わえませなんだ。
本ならではの醍醐味でありました。

図書館蔵書にて
「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す 巻の四」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★★


僕と世界の方程式

2018年05月11日 | 映画(は行)

数学の才能が全てではない

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自閉症スペクトラムと診断されたネイサン(エイサ・バターフィールド)。
他人とのコミュニケーションが苦手ですが、数学に関してはずば抜けた才能を見せます。
彼を愛して止まずその才能を信じ続けていた父親は、ネイサンが幼い頃に事故死。
以後、母ジュリー(サリー・ホーキンス)が女手一つでネイサンを育ててきました。
母親としてもちろんネイサンの数学の才能は信じ、応援していますが、
食べ物の好みなど何かと気難しいネイサンに振り回され、疲れてもいるのです。

ジュリーはネイサンがまだ小学生の時に、高校の数学教師マーティン(レイフ・スポール)に個人指導を依頼。
やがてネイサンは国際数学オリンピックのイギリス代表チームの一員に選ばれます。
そして台湾でオリンピックのための合宿が始まる・・・。

ネイサンが合宿・・・って、大丈夫?
と、まるで自分の息子のことのように心配になってしまいました。
けれども、それは彼にとって大きな成長の場であるわけなのです。
数学の才能は確かにある。
けれど、同じような才を持った人は他にもいる。
ネイサンがそんな中でのトップというわけではないのです。
だからネイサンはこの合宿のレベルについていけるのかどうか、そういう不安も抱えています。
同じイギリスチームの中にも自閉症らしき少年がいて、彼は言います。

「自分は自閉症だけれど、数学の才能があることを誇りにここまで来た。
でも、ここで成功できなかったら、自分はただの変人だ・・・」と。

それはまた、ネイサンの心境でもあります。
けれど、実はネイサンの価値というのは数学の才能だけではなくて、
無二であるネイサン自身。

そんなことを彼は、ある女の子と知り合うことで気付いていく・・・。
こんなちょっと風変わりなネイサンともしっかり正面から向き合って理解しようとする女の子もステキですよね。
決して数学での成功物語ではない、というところが気に入りました。



<WOWOW視聴にて>
「僕と世界の方程式」
2014年/イギリス/111分
監督:モーガン・マシューズ
出演:エイサ・バターフィールド、レイフ・スポール、サリー・ホーキンス、ジョー・ヤン
少年の成長度★★★★★
満足度★★★★.5


ホース・ソルジャー

2018年05月09日 | 映画(は行)

近代戦の中を駆け巡る騎馬兵

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9.11同時多発テロ直後の、アメリカ陸軍特殊部隊(グリーンベレー)隊員の活躍を描く実話を映画化したもの。

対テロ戦争最前線部隊に志願したミッチ・ネルソン大尉(クリス・ヘムズワース)は、
わずか12人でアフガニスタン、テロ集団の拠点マザーシャリーフ制圧の任務につきます。
反タリバンの地元勢力を率いるドスタム将軍の協力を得ることになるのですが、
考え方が根本から違う彼らと共同戦線を張るのがまず一苦労。
そして山岳地帯のこの地では、馬こそが武器と言われ、
隊員の殆どが乗馬経験のないところではありましたが、馬で移動をすることに。
12人対敵勢力5万人・・・。
ほとんど生還は難しいとの覚悟で、彼らは出発します。

いくら銃撃戦でも相手が5万人では難しい・・・と、思えるのですが、
空爆の力を借りるので、あながち無理ということではありません。
今ならドローンがありますが、
この当時は、肉眼で敵の位置を確認し空軍に指示を送る必要があったのです。
だから彼らは、より敵地に近い危険な場所まで行かなければならなかった。
いきなり空爆というのはズルいのではないかと、
私などは浅はかにも思ったりするわけですが、戦争にズルも何もないですね・・・。
そもそもこのときは、9.11テロの直後で人々はみな、憎しみにも燃えていましたし・・・。
相手方も投降と見せかけて自爆テロを仕掛けてきたりするので、
これはもう、ズルしたほうが勝ちなんです・・・。


しかし、そんなことを思いつつも、騎馬隊はかっこよかったのです。
敵方には戦車もあるのに、そんな中を騎馬隊が駆け巡る。
勇敢な兵士たちの姿に、つい胸が熱くなってしまう・・・。
製作側の意図にうまく乗せられてしまいました。

ネルソン大尉は実はその時まで実戦経験がなかったのです。
そんなところを見透かされて、ドスタム将軍に言われてしまう。
「人を殺したことがないヤツは信用できない。」
確かに、そこではなんとなく柔和な目の、クリス・ヘムズワース。
けれど、やがて嫌でも銃撃戦が始まります。
はじめての戦闘の場を踏んだ後の、彼の目。
当然意識して演技に臨んだと思うのですが、この変化が実に見事でした♡
結構見ごたえがあります。



ニューヨークのグランド・ゼロ後に、この特殊部隊の偉業をたたえた騎馬兵の像があるそうで・・・。
知りませんでした。

<ディノスシネマズにて>
「ホース・ソルジャー」
2018年/アメリカ/130分
監督:ニコライ・フルシー
製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:クリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、マイケル・ペーニャ、ナビド・ネガーバン
苦戦度★★★★★
満足度★★★★☆


「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ三」夢枕獏

2018年05月08日 | 本(SF・ファンタジー)

色即是空 空即是色

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻之三
夢枕 獏
徳間書店

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安禄山の乱の折、長安の都を落ちのびた玄宗皇帝は、
臣下の反乱を抑えるため、愛する楊貴妃を処刑せざるを得ない状況に陥った。
しかしそこに現れた胡の道士・黄鶴は、驚くべき提案をする。
それは、尸解の法を用いて楊貴妃をいったん仮死状態にして難を逃れ、
そののちに倭国―日本に連れて行き、ほとぼりをさますというものだった。
しかしこの案は、恐るべき結末を迎えることとなった…。
遡ること四十数年前。
晁衡こと安倍仲麻呂が詩仙・李白苑に遺した手紙に記された、身の毛もよだつ顛末。
空海は、倭国の言葉で記されたこの手紙を、柳宗元のために読み下す。
一方、青龍寺の恵果のもとにも、妖しき影が現れ…。

* * * * * * * * * *

さていよいよ第三巻目。
前巻で、楊貴妃の墓所を暴き、なんとその棺の中が空であったことの謎が、
いよいよ解き明かされます。
それは楊貴妃の死の場に立ち会った、ついに日本に帰ることのなかった今は亡き阿倍仲麻呂が
李白に残した手紙に記されていたのです。
驚愕の真実・・・。
実は楊貴妃は死んではいなかった?! 
では、今は一体どこに?
その場に立ち会った道士・黄鶴とその2人の弟子、丹龍・白龍がその秘密を知っている?
まさに身の毛もよだつ顛末。
物語は、こうでなくては・・・。


また、本巻には空海の考えるこの世の成り立ちについても触れています。

色即是空
空即是色

「般若心経」では、この宇宙は五蘊(ごうん)からなるとしています。
すなわち、色。受。想。行。識。
色というのは物質的な宇宙すべてのもの、存在。
その他の4つは人間の側―この宇宙を眺める側に生ずる心の動き。
つまり、
「存在というのは、その存在そのものと、それを眺める心の動きがあってはじめて存在する」
と言っています。
そしてその上、それらはすべて空であると・・・。
何というダイナミズムーーーとは著者の弁ですが、
まるで不意に宇宙にほおり出されるような気がしますね。

さらに空海は友人逸勢にこんなふうにも言います。

「人は老い、死んでゆく。
何者もこの地上にとどまることはできぬ。
哀しみも、天地の法を知ったからといって、消えるものではない。
それをはっきりと知ることによって、人は哀しみの前に立つことができるのだよ。
哀しみすらも、輩(ともがら)として、それを受け止めることができるのだ。
逸勢よ。安心するがいい。
哀しみすらも、永遠には続かぬ。
それを知ることによって、人は、哀しみと共に立つことができるのだ」

しみじみ来ますねえ・・・・

図書館蔵書にて
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻の三」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★☆


風立ちぬ

2018年05月07日 | 映画(か行)

風立ちぬ。いざ生きめやも・・・

風立ちぬ [Blu-ray]
山口百恵,三浦友和,芦田伸介,河津清三郎
ホリプロ


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山口百恵文芸シリーズの続き、第5弾です。
あれ? 今まで3つ見たから、第4弾ではないの?
第4弾は1976年「エデンの海」というものなんだけど、
これには三浦友和さんが出演していなくて、だからこの度のWOWOWの特集にも入っていなかったわけ。
だから、一つ飛ばして第5弾。
なるほど~

さて、舞台は昭和17年。
軽井沢にある水沢欣吾(芦田伸介)の別荘には、学生たちが集まり賑やかです。
欣吾の一人娘、節子(山口百恵)目当てに来るものもいるようです。
その中のひとり、結城達郎(三浦友和)も密かに節子に思いを寄せています。
その節子に、お見合いの話があるのですが、達郎に想いを寄せている節子は乗り気ではありません。
そのお見合いの日、学生たちはお見合いの邪魔を決行。

節子は達郎に言うんだね。
「この先も、あなたに何度でもお見合いの邪魔をしてほしい・・・」
互いの思いを通じ合わせる2人だけれど、戦局が悪化するその頃、徴兵猶予となっていた学生も、
徴兵の対象になってしまったんだ。
いつ戦争に行って命を落としてもおかしくない自分では、節子に結婚を申し込むこともできないと思う達郎は、
別れを決意するんだね・・・。
しかしそんな時、節子はすでに病に犯されており、次第に衰えていくのでした・・・。


・・・という、いつも君が嫌いだと言っている病気の女の子のストーリーだったね。
でも初めの方で、私はちょっとホッとしてしまった・・・。
何で?
いや、節子も達郎も暮らしは裕福で、とりあえず「貧困」はないからさ・・・。
その発言も問題あるような気がするけど、確かに貧乏は気持ちを惨めにするもんねえ。
とりあえず、貧富の差とか身分の差が障害にならないというだけで、少し救われるんだよ。
でも本作は戦争と病が愛を引き裂くわけで・・・。
最後の方では達郎が療養所の節子にずっと付き添うでしょう?
あれなんかも、お金持ちだからできることだよね・・・。
生活に追われていたら、療養も何もあったものじゃない。
というところで若干反発を覚えたりもするわけで・・・。
貧乏でもダメ、金持ちでもダメ・・・って、めんどくさい人だね、あんた。
へへへ・・・。スミマセン。


風立ちぬ。いざ生きめやも。・・・
私はむしろ、節子が亡くなってしまった後の達郎の心境に、
この言葉が寄り添うような気がする・・・。
愛する人は去ってしまったけれども、それでも自分は生きていかなければならない・・・って感じかな。

 

今、やはりこの物語が古めかしく感じられるのは、
節子の生に、方向性が感じられないせいかもしれないね。
そうだなあ・・・。
彼女の夢は達郎のお嫁さんになることだけだもんね。
今なら、本当は自分でもっとやりたいことがあった・・・というストーリーになるだろうね。
当時はこれが限界かあ・・・。
1976年でも?
まあ、そうなのかも。


<WOWOW視聴にて>
「風立ちぬ」
1976年/日本/94分
原作:堀辰雄
監督:若杉光夫
出演:山口百恵、三浦友和、芦田伸介、森次晃嗣、松平健

純愛度★★★★☆
満足度★★★☆☆


君の名前で僕を呼んで

2018年05月06日 | 映画(か行)

みずみずしくも情熱的な二人の夏

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アカデミー賞脚色賞(ジェームズ・アイボリー)受賞作品。



舞台は1980年代イタリア。
家族とともに北イタリアの避暑地に来ていた17歳少年エリオ(ティモシー・シャラメ)。
そこへ大学教授の父から招かれた大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)がやって来て、
共に一夏を過ごすことになります。
エリオはオリヴァーに特別な思いを抱くようになり、次第に接近してゆく二人の心。
みずみずしくも情熱的な二人の夏が始まります。

もろに同性愛の物語なのですが、こんなにも気色悪さを感じない作品も珍しい・・・。
イケメンで長身、金髪のアメリカ人青年がやって来たその日・・・、
何やらときめきを感じてしまうエリオ。
けれど二人の交流は極めてゆっくりと、おずおずと始まります。
自転車で出かけたり、泳いだり、パーティでダンスをしたり・・・。
ひたすら明るい陽の光と共にあるバカンスの倦怠・・・。
欧米の夏休みは長い!
何しろ舞台は整っています。



オリヴァーを年上の女性と置き換えても、十分ストーリーとしては成り立つのですが、
それよりももっと美しく感じられてしまうのは、その貴重性ゆえか。
異性間なら当然の出来事だけれど、
同性間でこのように互いに求め合うというのはやはり稀ですもんね。



年上のオリヴァーが常にリードする立場で、
彼はそういうことにまっさらなエリオをことさら巻き込まないように、距離を保とうとします。
でも、エリオのほうがそれでは耐えられなかった。
そして、一夜をともにした後に、
オリヴァーのほうが少し臆病な様子を見せるあたりが、なんともステキなのでした。
君の名前で僕を呼んで。
・・・つまりは君は僕で、僕は君である。
一心同体。
こんなふうに思える相手に巡り会えたことこそが奇跡です。



エリオの父親は二人の関係に気付くのですが、そのことを咎めたりはしません。
このような出会いがそう簡単にはない奇跡であることを知っているから。
いやあ・・・ここまで理解ある親って凄い。
実は本作中で一番驚いたところ。
さすが大学教授。リベラル。



なんだかねえ・・・BLってさほど憧れたこともありませんが、
この度ばかりはロマンチックを堪能した感じでした。
この2人がまた美しいですしね・・・。
これがじゃがいもみたいな少年とお腹の出た中年男なら、やっぱり全然見たくないですもんね。
は~・・・。


<ディノスシネマズにて>
「君の名前で僕を呼んで」
2017年/イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ/132分
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:アーミー・ハマー、ティモシー・シャラメ、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール
BLロマン度★★★★★
満足度★★★★.5


「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ2」夢枕獏

2018年05月05日 | 本(SF・ファンタジー)

楊貴妃の死の秘密

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ2
夢枕 獏
徳間書店

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劉家の妖物が歌った詩が、李白の「清平調詞」であり、
それはこの時代を遡ること約六〇年前、玄宗皇帝の前で、
楊貴妃の美しさを讃えるために歌いあげられたものである―。
それを空海に示唆したのは、白居易という役人であった。
当時、李白はこれをきっかけに玄宗の寵遇を得たが、
それを妬んだ宦官の高力士の讒言により、後に長安を追われることとなったという。
それを知った空海は、楊貴妃の墓所がある、馬嵬駅に赴く。
劉家と綿畑の怪は、安禄山の乱における楊貴妃の悲劇の死に端を発すると喝破した空海は、
貴妃の墓を暴くことを決意する。
墓の前で、空海は白居易―のちの大詩人・白楽天と初対面する。
白は、詩作の悩みを、空海に打ち明けるのだった…。

* * * * * * * * * *

沙門空海、第二巻
白居易はいよいよここで登場します。
唐の都でここのところ起きている変異は、何か楊貴妃のことと関連している、
と睨んだ空海は、楊貴妃の墓所がある馬嵬駅へ。
かつてこの地で、楊貴妃は悲劇の死を遂げたわけです。
まさに、傾国の美女と言いましょうか、
玄宗皇帝があまりにも楊貴妃に夢中になり政を疎かにしたために、
反乱が起き、挙げ句の処刑、ということになります。
しかしこの時の楊貴妃の「死」には重大な秘密があり、
それは後に阿倍仲麻呂の遺した文書で明かされますが、
ここではまだ、謎のまま。


ところでこの時楊貴妃はうまく生き延びて日本へ渡ったという説もあるそうです。
義経伝説とも並び、ロマンがありますねえ・・・。


さて、空海らの一行が、そこから1000年以上前の始皇帝の墓所を守るためにうめられた俑(人形)を
掘り出すシーンも描かれていまして、なんとも壮大な気分を味わいました。
その穴を掘り始めたそばで、空海らが車座になって座し、
酒を酌み交わしつつ詩を吟んでいる・・・という光景がまた、印象深い。
すごい人ですねえ・・・この空海。


また、この頃の長安には日本からだけではなく近隣の様々な国の人々がやって来て住んでいたということ。
ペルシャ、アラビア、インド・・・
人口の百分の一が外国人で、宗教もバラバラ。
けれどその宗教で差別されることはない。
外国籍の人間でも優秀で科挙の試験に通りさえすれば役人となることが出来て、
政治の中枢まで登ることも珍しくはなかったと言います。
この国際都市で、空海は密教をより深く知るために多くの言語を身につけ、
その好奇心に任せて厄介な出来事にも立ち入っていく。
興味深く、痛快な物語。
さらなる謎は次巻へ。


図書館蔵書にて
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻のニ」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★☆


赤ちゃん泥棒

2018年05月03日 | 映画(あ行)

親としての責任に目覚めるとき・・・

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コーエン兄弟の手がけた作品。
未見でした。


ハイ(ニコラス・ケイジ)は強盗稼業をして刑務所に何度も出入りしていたのですが、
そこに勤める女性警察官エド(ホリー・ハンタ)に一目惚れ。
きっぱりと足を洗って、ついに結婚しました。
ところがいつまでたっても子どもに恵まれません。
妻の方に不妊症状があることがわかります。
すっかり生きる意欲をなくした妻は、警察の仕事もやめてしまいます。
そんな時、2人はある大富豪の家に五つ子が誕生したことをテレビで知ります。
5人もいるのなら、一人くらいいなくなってもいいだろうと、
2人は五つ子のうちの一人を誘拐してしまうのです。

五つ子ということはつまり、不妊治療の末にようやく授かった赤ちゃんなわけです。
一人くらいなくてもいいだろうと思うのは勝手な思い込み・・・。
が、そう思ってしまうくらい2人は赤ちゃんが欲しかったんですね。
ところがまあ、コーエン兄弟の作品なので、
シリアスな誘拐ドラマにはならなくて、ドタバタコメディになっています。
この二人の元へ、夫のムショ仲間が脱獄して現れたり、
赤ちゃん探しの賞金稼ぎが現れたりのてんやわんや・・・。

ものすごく子どもが欲しいと思っていたにもかかわらず、
いざ一人の赤ちゃんを自分の子供として育てようとする時、
その責任の重大さに、ハイは青ざめてしまうのです。
そんな感情は結構リアルで、よく分かる。
そんな思いを踏み越えて、ようやく人は「親」になるのだなあ・・・。

そして本作中、この赤ちゃんが終始機嫌よくてニコニコなんですよ。
カワイ~。
この赤ちゃんの前では誰もが優しくいい人になってしまうようです。
楽しめました。


ニコラス・ケイジが若い!! 
ハイの上司の妻役がフランシス・マクドーマンド。
で、この方、ジョエル・コーエンの奥様・・・。
なるほど。
「スリービルボード」の記憶が新しい。


<WOWOW視聴にて>
「赤ちゃん泥棒」
1987年/アメリカ/94分
監督:ジョエル・コーエン
製作:イーサン・コーエン
出演:ニコラス・ケイジ、ホリー・ハンタ、ジョン・グッドマン、ウィリアム・フォーサイス、フランシス・マクドーマンド


馬を放つ

2018年05月02日 | 映画(あ行)

失われゆく文化への挽歌

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キルギスのアクタン・アリム・クバト監督及び主演作品。
といってもこれまで私には馴染みがなかったのですが・・・。
そもそも、キルギスってどこだっけ?という程度で、お恥ずかしい限り。
中央アジアにある国で、
中国、タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタンと接している・・・と、
なんとなくイメージはつかめました。
住んでいるのはアジア系の人々なので、本作の登場人物たちも日本人にはとても馴染みやすいです。
でも彼らの先祖は騎馬遊牧民なので、風土や文化的には日本とは大違い。
その、キルギス伝来の文化こそが、本作のテーマであります。

時代設定はパソコンもある現代。
村人からケンタウロス(アクタン・アリム・クバト)と呼ばれる男がいて、
妻とまだ幼い息子の三人で慎ましく暮らしていました。
彼は、騎馬遊牧民を先祖に持つキルギスに古くから伝わる伝説を信じていました。
その伝説ではこんなふうに言っています。
「昔、馬は人の翼だった」
いつも馬は人とともにいて、人が自由に生きるための翼を馬が与えてくれていた・・・。
しかるに、現代、馬は人の金儲けの道具に成り果てているのではないか・・・
作中で、ケンタウロスの思いを具体的に述べるところはないのですけれど・・・。
そんな気持ちが高じて、ケンタウロスは夜な夜な馬を盗んでは野に解き放っていたのです。
馬の盗難が続くので、馬主も見過ごしてはいられなくなり、
やがて犯人探しが始まります・・・。
現代の利器・監視カメラであっさりケンタウロスは捕まってしまうのですが・・・。

本作は失われつつある伝統的なキルギスの文化への挽歌なのだろうと思います。
今更、ケンタウロスがどのように頑張ってみても、
それはもう取り戻すことが出来ないのかもしれない・・・。
それを悼みながら歌う・・・。

ケンタウロスの妻は聴覚障害なのですが、
彼は並み以上に彼女を愛しているように見受けられます。
そして無類に優しい彼は、よそでも他の女性にも優しい。
ところが、残念なことに人々はそんなことでも勝手に邪推してしまうのです。
ケンタウロスは浮気をしている・・・と。
人々のこんな心根も、ケンタウロスにとっては失われた物の一つに思えたでしょうね。

今更ですが世界は広いです・・・。
いたるところに人々は暮らしていて、それはその地の風土や文化と深く結びついている。
欧米の作品を見ることが多い私は、
ついこうした本当の意味での「世界」を見落としがちのような気がします。
けれどもインターネットなどの情報技術の発達により、どんどん世界はグローバル化されていって、
どこも同じになりつつあるのではないか・・・
まあ、日本もそうですけどね・・・。
ちょっと渋いですけれど、味わいのある作品です。


<ディノスシネマズにて>
「馬を放つ」
2017年/キルギス・フランス・ドイツ・オランダ・日本/89分
監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ヌラリー・トゥルサンコジョフ、タアライカン・アバゾバ、イリム・カルムラトブ

文化を考える度★★★★★
満足度★★★.5

 


「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ1」夢枕獏 

2018年05月01日 | 本(SF・ファンタジー)

空海の、唐における怪異との対峙

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ1
夢枕 獏
徳間書店

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盟友・橘逸勢らと共に、遣唐使として長安に入った若き僧・空海。
密教の真髄を「盗みにきた」と豪語する空海は、
ありあまる才で多くの人を魅了していく。
一方長安では、奇怪な事件が続いていた。
役人・劉の屋敷に猫の化け物が取り憑き、皇帝の死を予言したという。
噂を聞いた空海と逸勢は、劉家を訪れ妖猫と対峙することに。
その時から2人は、唐王朝を揺るがす大事件にかかわることになる―!
中国伝奇小説の傑作ここに開幕。

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先に見た映画「空海 美しき王妃の謎」をもっと楽しみたくて、
原作を読むことにしました。
全4巻。
かなりのボリュームですが、会話文が多いので意外とスルスルと読めてしまいます。
まずは一巻目を読んで、なるほど映画はかなりのダイジェスト版であった、
ということがわかります。

映画では、常に空海と行動をともにするのは白楽天でしたが、
本巻では橘逸勢(たちばなのはやなり)という、
空海と共に日本からやってきた青年です。
遣唐使の道のりというのは想像以上に厳しい。
この時の遣唐使は、日本を出て長安までたどり着くのに5ヶ月、
4艘出た船が2艘しか残らなかったと言います。
まさに留学も命がけ。
そして、留学期間は20年とされていたそうで・・・、
本当に生きて帰れたら儲けものというくらいのものですね。


空海はあまりにも感覚が常人離れしているので、
凡人の感情部分はこの同僚、逸勢さんが受け持ってくれています。
きらびやかな長安の都に心を踊らせながらも、
20年もここにいなければならないのかと、心もとなくもの寂しく思う・・・。
それが普通の感覚だと思うのですが、空海は、密教の真髄を学ぶことにまっしぐら。
望郷の念などどこ吹く風。
そして好奇心も人並み以上のようで、様々な怪異の噂を聞くと行って確かめずにはいられません。


本巻にはまだ、白楽天も楊貴妃も登場しないのですよ・・・。
足がかりがあるだけ。
けれど、遣唐使のこと、長安の都のこと、
まずはじっくりとこの世界観に馴染んでいく、そんなためのまずは一巻目。
空海の人となりもつかめてきましたが、これは映画の染谷将太さんのイメージそのままでバッチリでした。


図書館蔵書にて(単行本)
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ1」夢枕獏 徳間書店
満足度★★★★☆