映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

世界の涯ての鼓動

2020年09月12日 | 映画(さ行)

深部の暗がりでつながり合う

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フランス、ノルマンディーの海辺にあるホテルで出会ったダニー(アリシア・ビカンダー)とジェームズ(ジェームズ・マカボイ)。
わずか数日で、情熱的な恋に落ちます。
けれど双方すぐに仕事に戻らなくてはなりません。

生物数学者ダニーは、グリーンランドの深海に潜り、地球上の生命の起源を解明しようとしています。

MI6諜報員のジェームズは、南ソマリアに潜入し爆弾テロを阻止しようとします。

互いに心を残しながらも、離ればなれになり、自分の職務に就く2人。
ところが、ジェームズはジハード戦士に捕らえられ、拘束されてしまいます。
ダニーに連絡を取ることもかなわず、焦燥のうちにも次第に衰弱していくジェームズ。
ダニーは、ジェームズと連絡が取れないことでひどく動揺し精神的にも不安定になっていきます。
それでもなんとか気持ちを持ち直し、最後の大仕事、潜水艇で深海へ進みますが、
事故で操縦停止となってしまい・・・。

ジェームズは閉じ込められた深い穴の底のような暗がりで、まるで深海にいるようだと思う。
ダニーも今頃こんな海の底にいるかもしれない・・・。
でももう自分の命もほとんど絶望的だと思う。

全く離れた場所ながら、同じく深部の暗がりで自らの命の終わりを予感する。
村上春樹さんの小説なら、絶対に暗い穴の底はつながりあうのですけれどね・・・。
本作ではそのような事は起こらないのですが、
こんな時、心の中では互いが共にいるような気がするのかもしれない。
そう思えるだけでも幸いなことだなあ・・・などと思う次第。

ジェームズはなかなか悲惨な状況ではありますが、全体的には美しい光景と2人のロマンが光ります。
なかなか凝った作りの作品。

<WOWOW視聴にて>

「世界の涯ての鼓動」

2017年/ドイツ・フランス・スペイン・アメリカ/112分

監督:ビム・ベンダース

出演:ジェームズ・マカボイ、アリシア・ビカンダー、アレクダンダー・シディグ、レダ・カティブ

 

ロマンス度★★★★☆

危機一髪度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


僕たちは希望という名の列車に乗った

2020年09月11日 | 映画(は行)

ベルリンの壁、建設前夜に

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ベルリンの壁建設前夜、東ドイツでの実話を元にしています。

1956年、東ドイツの高校に通うテオとクルト。
西ベルリンの映画館でハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュースの映像を見ます。
東側ではそのようなニュースは伝えられません。

自由を求めるハンガリー市民に共感した2人は、クラスメイトに呼びかけ2分間の黙祷を実行します。
しかしソ連の影響下にある東ドイツでは、
この行為は社会主義国家への反逆と見なされてしまうのです。
仲間を密告しエリートの道を歩むか、または信念を貫き大学進学を諦めるか・・・
若き生徒たちは将来に関わる重大な決断を迫られるのです。

ベルリンの壁は、二次大戦直後に作られたわけではなかったのですね。
この当時、東側から西側へ、正当な理由があれば行き来することができたのです。
お墓参りとか、親戚の家へ行くとか・・・。
テオとクルトも若者らしい冒険心で西側へ行って「自由」を感じられる映画を見るわけです。

そしてまた、東側、共産主義社会では“能力”さえあれば高校から大学へも進学できて、
将来の地位も約束されるのです。
実際、テオの父親は鉄工所に務める労働者。
きちんと学校を卒業しなければ、テオも肉体労働につくほかありません。
そうした事情を抱えているから、彼らにとって反社会主義者の烙印を押される事は、
豊かな生活を送ることのできる「未来」をなくすことに等しいのです。

それでも、友情と信頼を大事にしたいと思う彼らは、
「黙祷」を言い出した首謀者を決して明かさないと暗黙のうちに結束しますが・・・。
弱みを突き、揺さぶりをかける当局のやり方の汚さ・・・。
大人の社会は本当にイヤラシイ・・・。

結局彼らがどうするのか、まあ、それは本作の題名に表されているわけです。
ちょっとした歴史の隙間の物語。
けれど、やはり人は「自由」を希求するものではあります。
それを押さえ込もうとする社会は、やはり何か違うのではないかと・・・。

<WOWOW視聴にて>

「僕たちは希望という名の列車に乗った」

2018年/ドイツ/111分

監督・脚本:ラース・クラウメ

出演:レオナルド・シャイヒャー、トム・クラメンツ、レナ・クレンク、ヨナス・ダスラー、イザイア・ミカルスキ

 

歴史発掘度★★★★★

一途さ★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「夢の守り人」上橋菜穂子

2020年09月09日 | 本(SF・ファンタジー)

花の世界で、永遠に夢を見ていたい・・・? 

 

 

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人の世界とは別の世界で花をつけ実をむすぶその“花”は、人の夢を必要としていた。
一方、この世をはかなんでいる者は、花の世界で、永遠に夢を見つづけることを望んだ。
いとしい者を花の夢から助けようと、逆に花のために魂を奪われ、人鬼と化すタンダ。
タンダを命をかけて助けようとするトロガイとチャグム、そしてバルサ。
人を想う心は輪廻のように循環する。

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上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズ第3弾

呪術師トロガイの若い頃のことに触れられています。
そうした過去の因縁の絡むストーリー。

人の世とは別のあわいの世界で、人の夢を糧として花をつけ実を結ぶその“花”。
囚われてしまったものは、こちら側ではただ眠り続け、目を覚ましません。
ヨゴ皇国の一ノ妃。
タンダの姪。
そしてついには皇太子チャグムまでも・・・!

憂きこの世よりも、花の中でいつまでも夢を見ている方がいい・・・と、
そんな風に思うのはよくわかりますね。
この誘惑はかなり大きい。
しかし、さすがチャグムは第一作目でバルサに鍛えられただけのことはある。
タンダの力添えもあって、早々ここから抜け出して人の世に帰ってきます。

 

問題はタンダで、彼は魂と体が分離し、体は自らが傷つくことを少しも恐れない「鬼」のようになってしまう。
こんなタンダと闘わなければならなくなってしまうバルサ、なんともつらい・・・!

バルサが一作目で敵方だったものと協定を結んだりするのはなかなかオツです。

そしてやはり、「サグ」と「ナユグ」の二重世界が、
あるところで重なり合い影響し合うことが周期的に起こるというような、
このファンタジー世界の根底に流れているということが次第に明確になってきました。

まるでオスカルとアンドレのようなバルサとタンダの関係性もまた、私は大好きです♡

 

私は、トロガイはなんとなくジブリアニメに出てくる魔女めいた老女のイメージを持っていましたが、
この軽装版偕成社ポッシュのイラストは、二木真希子さんが務めており、
スタジオジブリの原画担当をされていた方なんですね!! 
イメージぴったりのはずだわ・・・。

 

図書館蔵書にて

「夢の守り人」上橋菜穂子 軽装版偕成社ポッシュ

満足度★★★★☆

 

 


宇宙でいちばんあかるい屋根

2020年09月08日 | 映画(あ行)

若い人をそっと後押しできるお婆さんに・・・

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14歳のつばめ(清原果耶)は、隣人の大学生・亨(とおる)(伊藤健太郎)に密かに恋心を抱いていました。
また、父と血のつながらない母との間に子どもができることになり、どこか疎外感を感じてもいます。

こんな誰にも話せない思いをかかえるつばめの唯一の憩いの場は、通っている書道教室の屋上。

ある日そこに、見知らぬド派手な老婆(桃井かおり)が現れて、
キックボードに乗って空を飛ぶのをつばめは目撃してしまいます。
この風変わりな“星ばあ”とつばめは次第に親しくなり、
恋や家族の悩みを打ち明けるようになっていきますが・・・。

ちょっとファンタジー風味のハートウォーミングなストーリー。

つばめのムリ筋の願いをなんとかかなえてくれる星ばあのために、
次にはつばめが、星ばあの願いを叶えようとします。
そもそも、星ばあとは何者なのか? 
そんなところに、予想外の解答があったりして、ストーリーとしてもなかなか楽しめます。
そして、血のつながらない母、でも、つばめが幼い頃から温かく育んでくれた母との複雑な感情。
家族の物語としても手応えたっぷり。
星ばあのように、憎まれ口をたたきながらも、
自らの経験を踏まえて若い人をそっと後押しする・・・
そんな風なおばあさんになれたらいいな、と思ったりします。

何と言っても清原果耶さんは、透明性があって、多感な少女像をくっきりと浮かび上がらせます。
変にきゃぴきゃぴしないところが、やっぱりいいなあ・・・。
彼女の演技の前ではついつい、引きずり込まれて、涙、涙です。

伊藤健太郎さんの演技は抑え気味。
人のいい「お兄ちゃん」という感じでした。
確かに、ここではかっこつけてオーラを放ったりしてはいけないのです。

桃井かおりさんも、あの「美魔女」的、
いつまでもの謎の若さをかなぐりすてて、いい味出してます。

 

<シネマフロンティアにて>

「宇宙でいちばんあかるい屋根」

2020年/日本/115分

監督・脚本:藤井道人

原作:野中ともそ

出演:清原果耶、伊藤健太郎、水野美紀、山中崇、醍醐虎汰朗、坂井真紀、吉岡秀隆、桃井かおり

ハートウォーミング度★★★★★

満足度★★★★☆

 

 


フルメタル・ジャケット

2020年09月07日 | 映画(は行)

戦争なんかクソだ!

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スタンリー・キューブリック監督による往年の名作。
そういえばまだ見たことがなかったな・・・ということで。

 

時はベトナム戦争の時代。
海兵隊の新兵訓練所、ブートキャンプからストーリーは始まります。
そこでは普通の若者がわずか8週間の訓練で殺戮者に仕立て上げられます。
特にここの教官・ハートマン(リー・アーメイ)は、
罵詈雑言、凄まじい言葉の暴力で新兵たちをなぶります。
そのためすっかり精神を病み、壊れてしまうものも・・・。

と、ここの下りが結構長いのですが、
それはまだ前段階にすぎなかった・・・!

その後、いよいよベトナムへ送り込まれた新兵たち。
報道部に配属されたジョーカー(マシュー・モディーン)は、取材のため最前線へ向かいますが・・・。

 

本作の公開に先駆けて、同じくベトナム戦争を題材とした「プラトーン」が大ヒット。
そのすぐ後に本作の公開、ということで、2番煎じという話もあったのですが、
予想外に本作もまた大ヒットとなったのでした。

その頃までの戦争映画は多分第二次世界大戦を舞台とするもので、
米軍はおそらく正義の味方的立場で、兵士たちは皆ヒーロー。
そういうものが多かったわけですね。
しかし、そもそもこのベトナム戦争の意義自体が当時の社会的にも受け入れられていない。
だからどうしたって、戦争礼賛作品にはなり得ないわけです。

本作も、反戦を声高に言ってはいない。
けれども戦争なんか「クソ」だぜ、と、それを言っているわけです。

ジョーカーは、“BORN TO KiLL”などと描いたヘルメットをかぶりつつ、
反戦運動のシンボルであるピースマークのバッジをつけていたりします。
こうした矛盾が本作とベトナム戦争のすべてを語っている気がします。

 

 

「フルメタル・ジャケット」

1987年/アメリカ/116分

監督:スタンリー・キューブリック

出演:マシュー・モディーン、アダム・ボールドウィン、ビンセント・ドノフリオ、リー・アーメイ

 

戦争の真実度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ソワレ

2020年09月06日 | 映画(さ行)

人生のどん詰まり、どん底のふたり

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俳優を目指して上京した翔太(村上虹郎)。
しかし芽が出ず、オレオレ詐欺に加担してなんとか食いつないでいます。

ある夏、故郷の和歌山にある高齢者施設で所属劇団が演劇を教えることになり、翔太も同行。
その施設で働くタカラ(芋生悠)と出会います。
そんなある日、祭りに誘うため、タカラの家を訪ねた翔太は、
刑務所帰りの父親から性的虐待を受けているタカラの姿を見てしまいます。
そしてそこで事件が・・・。
逃げ場のない現実に絶望し、たたずむだけのタカラを、
翔太は衝動的に連れ出し、2人のあてのない逃避行が始まります。

翔太は俳優を目指すと言いながら、すでに稽古もおざなりで
自分の才能も信じられなくなっていたのです。
オレオレ詐欺で老婆をだましてもさして罪悪感もない。
あるのは自己嫌悪くらい。

こんな若者が、レイプされている女性を助けようと思ったのは、
さすがに目の前で行われている惨状を見ないふりはできなかった。
そして、力ではどうにもならない、痛めつけられても耐えるしかないどん詰まりの彼女に、
自分と同じ匂いを嗅いだからなのかもしれません。

でも実のところはさっさと警察に連絡した方がよかったのですが・・・。
行くあてもなくお金もなく、無意味に逃避行を始める2人。

絶体絶命、底辺の底辺にいる2人。
結局は互いのぬくもりだけが支えなのでした・・・。

演劇には疎い私、「ソワレ」って何だっけ?と思ってしまったのですが、
つまり演劇などの昼公演がマチネで、夜公演がソワレ。
翔太が演劇活動をしていることから来ます。
作中、道成寺にまつわる「安珍清姫」伝説と絡むところがあり、
ラスト付近の翔太とタカラが演じるこの舞台の一シーンがなんとも心に迫るのでした。
ただ、安珍清姫とこの2人の関係性が重なっているかというと、
そうでもないようなのがちょっと残念な気もします。
・・・あ、でもそうでもなくはないのか? 
「きっとまた帰ってくる」と約束した言葉に安珍は従わなかったけれど、翔太は・・・。
ということなのでしょう。

村上虹郎さんと芋生悠さんの熱演が、とにかく光ります。

 

<サツゲキにて>

2020年/日本/111分

監督・脚本:外山文治

プロデューサー:豊原功補

出演:村上虹郎、芋生悠、岡部たかし、康すおん、江口のりこ

 

人生のどん詰まり度★★★★★

満足度★★★★☆

 


うちの執事が言うことには

2020年09月05日 | 映画(あ行)

執事は絶滅危惧職種?

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本作は清原翔さん目当てで見ました。

 

社交界の名門として名高い烏丸家。
烏丸花穎(永瀬廉)は留学先の英国から帰宅するやいなや、第27代当主にされてしまいます。
その日の朝やって来たのは、これまで信頼を寄せていた執事・鳳ではなく、
面識のない、仏頂面の青年執事・更衣月(きさらぎ)(清原翔)。
ビミョーな雰囲気を醸し出す2人・・・。
そんな中、烏丸家に対して何やら不穏な動きが・・・。

執事が登場するミステリなどもあって、興味深いところではありますが、
果たしてこの日本で、本当に「執事」などと言う職業が存在するのでしょうか?
そんな世界には全く縁のない私なので、あまりリアリティが感じられない。

だから、この若い花穎が執事を「おまえ」呼ばわりするのは、
なんだかちょっと気分悪いです・・・。
職業と身分。
微妙なところではあるけれど、これが混同するといや~な感じになってしまう。
そういう雰囲気を違和感なく出すにはやはり永瀬廉くんでは若すぎる・・・。

 

物語は花穎の特異な色彩感覚、そして衣更月との信頼関係、
花穎に怪しげに近づいてくる友人・赤目(神宮寺勇太)を軸に進みます。
赤目は始めから怪しすぎかな?

清原翔さんには問題ないけれど(というか、やっぱりかっこいいわ~♡)、
やはりキンプリの2人が、いかにも役者としては発展途上。
だから単なるアイドル映画になってしまった感。

それはともかく、清原翔さんは、現在脳出血で休業中でしたよね。
その後回復されているのかどうか、続報がないようなのですが・・・
絶対に絶対に、無事回復されて復帰されることを、切に祈っております!!!

 

<WOWOW視聴にて>

「うちの執事が言うことには」

2019年/日本/103分

監督:久万真路

原作:高里椎奈

出演:永瀬廉、清原翔、神宮寺勇太、優希美青、吹越満、奥田瑛二

 

満足度★★★☆☆


「梅と水仙」植松美土里

2020年09月03日 | 本(その他)

6歳の女子が親元を離れて留学!

 

 

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わずか6歳の娘をアメリカに送り込んだ父、
17歳で帰国後、父との葛藤、周囲との軋轢に悩む娘…
女子教育の先駆けとなった津田梅子とその父の人生を描いた感動の歴史小説。

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新5000円札の肖像に決まっているという、津田梅子その人の生涯を、
父親との関係を軸に描いた作品です。
私も名前だけは知っていましたが、詳しくは存じ上げていなかった津田梅子さん。
しかし、これがなんとも、すごい話なのでした・・・。

 

梅(元々の名前は梅子ではなく梅)がアメリカに留学したのは明治4年、
数えで8歳、満年齢は何と6歳です!! 
こんなまだ幼い子、しかも女の子がなぜ留学することになってしまったかといえば、
それは父親の強い意向のため。
父・仙というのがまたなんとも興味深い人物で、
英語を学び、通訳兼書記官のような仕事につき、
明治維新前年に幕府の大型軍艦買い付けのためのアメリカへの使節団に参加しているのです。
梅が生まれたときには男でなく女だったことにひどく失望した仙ではありますが、
女でも学んで自立することができるとアメリカを知ることで開眼し、
此度の留学に名乗りを上げたというわけ。
留学生は男子がもちろん大多数でしたが、女子も梅を含めて5人いました。
もちろん梅が最年少。

このときの渡米船には、岩倉具視、大久保利通、伊藤博文等の新政府使節団も乗っていた、と。
ふむふむ。

が、それにしても、6歳の子が親元を離れ、言葉もわからぬ異国へ・・・というのはさすがに酷です。
読んでいても泣きそうです。

後の梅が、その時のことをこんな風に言う場面があります。

「私は本当は、アメリカなんか行きたくなかった。
遠い知らない国に行くのが怖かった。
怖くてたまらなかった。
それでも父上のためと思って、我慢して船に乗ったんです・・・」

そりゃそうですよね。

それから彼女は11年もの間アメリカにいることになります。
17歳でハイスクールを卒業し、ようやく帰国。
ところがその時、梅は日本語を忘れ果てていた・・・!

6歳の子が11年もアメリカの家庭で過ごせば、そういうことになるわけなんですね。
そんなわけで、梅はせっかく帰国しても、うまく仕事に就くことができません。
そもそも女性が働く場というのがほとんどない。
実は彼女は日本の女子教育のための場を作りたいという夢はあったのですが、
実現までのハードルが高すぎ。
何より彼女は「大学」を出ていないわけで、若干の引け目もあったようです。
6歳からの留学なら11年いてもまだ大学に入る年齢に達していないということですよね。
なんとも、皮肉。
そんなわけで、彼女は一念発起、再び渡米し大学に入ることに。

 

梅と同時に留学した他の女性4人のその後のことも描かれています。
最初の1年で脱落して帰国したものも2人。
そして帰国後の人生も、やはり夢見たようには行きません。
女性なら当然問題となる結婚のこと。
梅は、結婚して家庭に入ってしまったら、長きの留学が全く無意味なものになってしまう・・・と考えます。
そんな考えを貫いて生涯独身。
なんと志の高い人生!

 

明治期の活躍した人々の話を読んだりドラマで見たりすると、
その人々のエネルギーの強さに圧倒されます。
留学し、欧米の知識を最大漏らさず吸収し、それを日本に持ち帰って人々のために尽くそうとする。
その思いの強さが本当に半端じゃありません。
今時留学する人で、こんなことを考える人はいないですよね・・・。

 

戦争へと突き進む歴史の流れはありながら、
とにもかくにもこういう人々の奮闘の果てに今の私たちの生活がある・・・と思うと感慨深いです。
興味の尽きない物語でした。

図書館蔵書にて

「梅と水仙」植松美土里 PHP研究所

満足度★★★★★


ファヒム パリが見た奇跡

2020年09月02日 | 映画(は行)

少年の才能が奇跡を呼ぶ

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実話を元にしています。

バングラデシュで天才チェス少年として有名なファヒムですが、
8歳の時、父親と共に家族を残してパリに移り住むことにします。
2人は政治難民としてパリで暮らすことになりますが、
正式な滞在許可が下りなければ、強制送還になってしまうのです。

そんな中、ファヒムは著名なチェスのコーチの1人、
シルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)のチェス教室に通うことになります。
怒鳴り散らすシルヴァンをファヒムは苦手に思っていましたが、次第に友情を築いていきます。

いよいよ、チェスの国内大会がスタート。
しかしファヒムの父には強制送還の脅威が迫っています・・・。

 

ファヒムは実際頭がよくて、フランス語も瞬く間に習得。
移住手続きの通訳のインチキを見抜くシーンはお見事でした!

どんなところにも、いろいろな“才能”は眠っているものです。
ファヒムはその才能で、パリでの生活を勝ち取っていく。
ただそのためには、周りの人々の助力も欠かせません。
同じチェスの教室に通う子どもたちの友情もまた、心地のよいものでした。
しかし反面、差別や偏見、そういうものも多くあるのです。

あまりにもひどい国自体の貧しさとか政情不安・・・、
国家間の格差は全く解消されませんね。

本作は「奇跡」と呼ぶべきまれな出来事で、通常はあり得ないのだ、
と暗に言っているわけでもあります・・・。

 

こんな話がたった一つの奇跡ではなく、まあたまにあること、くらいの世の中になるといいな・・・。
というか、わざわざよその国に来なくても自国にいながら
世界の舞台にも立つ事ができれば、それが一番いいのですけれど。

サツゲキにて

「ファヒム パリが見た奇跡」

2019年/フランス/107分

監督:ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル

出演:アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー、ミザヌル・ラハマン、イザベル・ナンティ

 

世界と格差を考える度★★★★★

サクセススト-リー度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


今宵、212号室で

2020年09月01日 | 映画(か行)

謎めいた一夜

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マリアとリシャールの夫婦は付き合って25年、結婚して20年になります。
ある日、マリアの浮気がばれてしまいます。
怒った夫と距離を取るため、マリアはアパルトマンの真向かいにあるホテルの212号室に宿泊。
そんなマリアの元に、20年前の若きリシャールが現れます!
そして彼のみならず、リシャールが結婚前に付き合っていた年上の女性イレーヌ、
マリアの浮気相手たちなどが次々に現れ、
不思議な一夜が繰り広げられます。

マリアはあまり罪悪感なく、次々といろいろな相手と浮気していたのですが、
夫リシャールは全く気づいていませんでした。
彼自身は結婚前に付き合っていた相手はいたものの、
その後はマリア一筋、浮気など考えたこともなかったのでした。
それだから、妻に裏切られていたことが、ひどくショックなのです。

その、落ち込むリシャールの姿が、マリアのいるホテルの部屋からよく見える。
そしてそこには20年前の若きリシャールが・・・。

誠に不可解、不思議な物語。
でもこれはSFでもファンタジーでもなくて、
マリアの心の物語なのだろうと思います。

最後の方でこんなセリフがありました。

「これは、セックスの話ではない。結婚の話だ。」

つまりどうもそこがテーマに迫るところなのでしょう。
セックスだけなら気軽にだれとでもできる。
だけれども、結婚は互いに長い時を過ごして、何かを守り育てるもの。
・・・それを愛といってしまえばロマンチックにすぎるけれど、
互いの思いやりとか忍耐力とか、そこで育まれるものは確かにありそうです。

でもまあ、セックスと結婚は別、と割り切ることができるかどうか、
それが本作を気に入るかどうかの分かれ目でありましょう。

それを割り切ってしまった何人かの男性俳優の末路を思うと、
やはりそう簡単に「別物」と思ってしまうのは危険ではないかと、私は思います・・・。
少なくとも、今の日本では・・・。

サツゲキにて

「今宵、212号室で」

2019年/フランス、ルクセンブルグ、ベルギー/87分

監督・脚本:クリストフ・オノレ

出演:キアラ・マストロヤンニ、バンサン・ラコスト、カミーユ・コッタン、バンジャマン・ビオレ

 

ストーリーのユニーク度★★★★☆

満足度★★★☆☆