人々との出会いを繰り返しながら、犬は何を目指すのか?
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家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。
仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。
壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。
体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。
老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた―老人と犬。
震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ―少年と犬。
犬を愛する人に贈る感涙作。
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第163回直木賞受賞作。
盆と正月くらいは新刊の単行本を購入する贅沢に目をつぶることにしているので・・・。
それにしても購入してから、しばらく積んだままでしたが。
著者は北海道出身の方であると言うことと、犬が登場するということで、
これはもうどうしても読まなくては、という気になりました。
いやそれにしても、馳星周さんは私、実のところデビュー作「不夜城」を読んだきりだったような気がします。
だからそのイメージがずっとあったのですが・・・。
本作はある一匹の犬が、様々な人に拾われ、ひとときを過ごしながら、
どこか南の街を目指して、また旅に出るというのが大筋の物語。
いろいろな人との出会いが一話ずつ語られていきます。
シェパードと何か別の犬の雑種らしいその犬は、「多聞」という名前ですが、
さすらい歩くうちに首輪も名前のタグも失われ、拾った人からは好きなように呼ばれます。
単純に聞けば犬と人とのふれあいの心温まる物語?と思えるのですが、
しかしやはりそこが馳星周さんでした。
この犬と関わった人は犬好きで正しく犬の世話をし、また自身も癒されて、
しばしほんのりとした時を過ごします。
これまで忘れていたような、豊かな時間。
けれど彼らには「死」が忍び寄るのです。
事情は全く様々。
しかしこれは、犬が死を呼び寄せたのではなく、まるで「死」の匂いを犬が嗅ぎつけたようでもある。
そんな人々を慰めるかのように、犬がそこに世話になっているようにも感じられます。
結局犬は岩手から熊本までを旅するのです。
何のために?
何を目指して・・・?
岩手、熊本と聞いてピンと来た方は鋭いですね。
「男と犬」、「泥棒と犬」、「娼婦と犬」・・・などと様々な出会いのある中で、
どうして本巻の表題が「少年と犬」なのか。
そこに、この犬の一番の目的があったためなのでした。
感動の物語。
直木賞も納得。
犬の描写がとてもリアルで、著者の犬好きなのがよくわかります。
こんな賢い犬なら、私もパートナーになりたいです!!
馳星周さんのブログ「ワルテルと天使たちと小説家」も、
主に犬たちとの生活を綴っています。
オススメです。
「少年と犬」馳星周 文藝春秋
犬の魅力度★★★★★
人々との交流度★★★★★
満足度★★★★★