演劇部だから、いい芝居作るってのが一番の目的だ。さらに、それが大会で評価されて、上の大会まで行けたなら、そりゃ、もっといい。でもね、そればっかりじゃないんだよ、高校演劇ってのは。勝ち負けなんかじゃない。芝居の実力があるかどうかでもない。そうなんだよ、人を育てるってことなんだよ。
うへっ、止めてくれ!なんて言うなよな。これ結構真剣に言ってるんだ。実際、高校演劇に携わってほぼ十年、ほんと、身近に見てきたから、高校生が成長していく姿。たいしたもんだっていつだって感心してきたんだ。
で、今日もそれをじわーっと感じてきたってわけだ。今日は、山形県の高文祭米沢大会だった。演劇の大会は、11月に別にあるから、出演はなし。でも、事務局だから裏方仕事が回ってきた。照明とピンスポットと音響、それと会場係り。昨日のリハーサルから全員張り付いて、今日が本番。それぞれの役割に分かれて、仕事した。
照明、音響、これは専門分野だから、任せなさい!って、気持ちよくやれるけど、会場係り?うっ、ドアマン?なんで俺たち?どうしてあたしたち?って腐るところだよね。ところが置農演劇部は文句も言わず、だったよな?二交代制で直立し続けたんだ。偉い!挨拶や態度も大変立派だった、なんて、手前褒めはいつもの癖だ。
さらに、全日程が終了して、それぞれの持ち場で片づけが始まった。置農の分担は、生徒荷物置き場と一部楽器置き場の撤去ってことだったけど、こんなのは、舞台人にはお茶の子さいさい!うわっ!古い言葉!知ってる人どんだけいる?さっさと終わった。ここで解散したっていいことになっていたんだけど、ここからが、さすが演劇部!だったんだ。
まず、観客席のゴミ拾い。なんと、市内某高校の野郎どもが吐き捨てたガム削りまでやってくれたからね。ゴミは、もう出てくることでてくること、演劇の大会じゃ考えられないことだ。次に舞台に上がって、舞台スタッフさんの手伝い。コードを巻き、照明器具を片づけ、舞台の掃除をして、最後は、駐車場の鉄柵の復元までやり遂げた。もう、事務局も他の高校も、みんな帰っちまってるていうのにね。そして、誰も不平一つ言わなかった!冗談を言い合いながら、てきぱきと仕事を片づけた。
この気持ちなんだよ。この働きぶりなんだよ、大切なのは。徹するときは、とこんとん裏方。雑用だろうと、汚れ仕事だろうと、なんでもやる。それも気持ちよくやる。少しっぱかり疲れていても、口に出さない、顔に表さない。常に笑顔で頑張り通す。これが、演劇部やるってことの意味なんじゃないだろうか。
芝居は、多くの人に支えられて成り立つ。裏方があって、役者は脚光を浴びる。大切な仕事から、こんなことって思うくだらない仕事まで、どれだって無くちゃならない。とりわけ、置農演劇部は地域の人たちに支えられて活動しているって面が大きい。だったら、時には、全員で裏に回らなくっちゃ。雑用引きうけなくちゃ。
でも、これって演劇だけのことじゃない。人が生きていく上で、どこでも当たり前に見られる持ちつ持たれつの関係ってことなんだ。そういう、至極まっとうなことを、平然とやれるようになる、これって凄いことなんじゃないだろうか。