ステージおきたま

無農薬百姓33年
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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

『人形の家』に驚く!

2008-03-06 19:37:56 | 演劇

 イプセンの『人形の家』を読んだ。40年ぶりくらいだろう。読んだって記憶はあるけど、面白かったって思い出はさっぱりないなぁ。まあ、歴史的名作だから教養として読んでおこうか、ってとこだったんだろう。

 この戯曲が日本で最初の近代演劇上演だったってことは、歴史の教科書に出ているから、以前から知っていた。ただ、知識として知ってるってことと、この時代背景を通して感じ取ることでは、雲泥の差なんだってことが、今回読んでみてよくわかった。

 この作品が日本で初演されたのは、明治44年。この頃、演劇の世界で何が問題になってたかって言うと、男優と女優が一緒に舞台に立つことの是非ってことなんだ。まあ、この十年前くらいから、伝統演劇の世界では男女混合舞台が許されてはいたんだけど、その条件が、男女楽屋は別にし互いに立ち入らない、舞台以外では言葉を交わさない、なんて、まるで、今どき中学校の修学旅行だってあり得ない規則がんじがらめなんだ。とんでもない時代だってこと、わかるだろう。

 こういう、女性がぎゅうぎゅうに押し込められた時代だったんだ、この作品の初演はね。だから、その舞台に出るってことがどれだけ勇気のいることだったか。また、愛のない夫を振り捨てて家を出る主人公ノラの行動が、どれだけセンセーションを巻き起こしたか、想像をはるかに超えるね。それだけに、主演の松井須磨子が、「あたしは、あなたの人形妻だったのよ。」「あたしにはもっとさきにしなくちゃならないことがあるのよ。自分を教育しなくちゃ。」「自分のことや、世の中のことを知ろうというんですもの、それには独りにならなくちゃ。」(岩波文庫・原千代海訳)と、夫に決別の言葉を投げつける時、それは芝居のセリフを越えて、須磨子自身の切実な叫びだったって思う。

 40年前、僕にはそんな時代の重みを感じ取る知識も能力も無かったものな。今は、ちょっとは勉強し世の中や男女のこともちょっぴりはわかったから、今回はグイグイと引きつけられた。名作だよ!僕が言うまでもないか。筋立てがとっても上手くできていて、常に緊迫感をもって引き寄せられ構造だ。ちょっと、ご都合主義の点もあるけど、良い意味でウェルメイドな作品だから、エンターテインメント大好きな僕としは、とっても惹き付けられた。いつか、菜の花座でやってもいいって思ったね。全然古くなんかないもの。

 ええーっ?なんて言うなよな。女性の自立なんて、今どきねぇ、っていう人には、聞くけど、今若者の間で深刻な問題になってるデートDVってなんなの?愛する者を暴力で縛り付ける、抑圧され緊縛されることに愛情感じるってどういうこと?互いに監視し合ってなけりゃ信じ合えない愛ってなに?男は確実馬鹿になってるって知ってたけど、女も劣らずアホになっていたなんて、僕は本当にショックだったんだ、この話しを聞いた時。ね、男も女も人形なんだよ、今どき。人形の愛で互いを結び合っているんだと思うよ。

 それからすれば、明治という時代の重圧の下で、必死に自立を叫んでいた女達のなんと健気なことだろう。なんと逞しいことだろう。なんと、美しいことだろう。そんな、時代と懸命に抗う女達、いや、男達もだけど、を書きたいと思っている。彼らのひたむきな思いとそれを押し潰した社会のしたたかさを書きたいと思う。

 菜の花座の新作タイトルは『雲雀 羽ばたきて』だ。

 

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