ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

春一番:トゥーランドットの熱い風

2008-03-30 21:28:03 | 演劇

 ミュージカルの鉄則、それは何が何でもお客さんを楽しませるってこと。まずはエンターテインメント。それに、これでどうだ!!ってくらいに徹してくれたのが、宮本亜門のトゥーランドットだった。まず、入り口、もぎりのお姉さんたち、みんなトゥーランドットの衣装着てるじゃないの。このサービス精神、洒落た工夫、もう、これだけで、よし!許す!て叫んでいたね。

 劇場に入ってさらに驚き。プロセニアムに銀色の龍が巻き付いているんだもの。そうそう、中華街の入り口なんかで見る奴さ。舞台は、藪を金属で造形したような吊りものが、幕の代わりに全面を覆っている。ぞくぞくするよね、こんな舞台装置見せられたら。始まる前でこれなんだから。

 道化風の物売りの軽口と歌が終わると、いよいよオープニング。これがまた憎い!袖幕が人一人分開くとまばゆい逆光の中、後ろ姿の将軍が浮かび上がった。かっこいい!そして、その袖幕が開く。と、とてつもない階段舞台がコロシアムの客席のように、上中下にそそり立っていた!!高さ3間、段差は20段ほどか、黄金色に燦然と輝いている。この急な階段を走り回り転げ落ちる立ち回り、もう、ここまでで入場料の半分は見せてもらったって気分だ。

 しかも、その巨大な階段がやたら動くんだ。まず、中央は下の段1間半ほどがするすると奥にたたみ込まれて、それが高い城壁を表し、その頂上部分は皇帝の玉座になった。上手、下手は出たり引っ込んだり。しかも、その階段の下部は抉られていて、そこが牢獄になったり隠れ家なったりと工夫を凝らす。 

 これに、緞帳代わりになっていたメタルの藪が上がったり下がったり上下に移動したり、もうめまぐるしく動くんだ。おっと、このメタル藪は中程のバトンにも吊ってあって、これが情景をしきる役割を果たす。もちろん、これも右左、上下に移動する。

 これら巨大な装置が動き、次々とシーンが作られていくのだが、これを際だてているのが、照明。これがまた実にいい。階段が鈍色や青色に染まったり、銀の龍が金色に輝いたり、長方形に仕切った明かりが道となったり、ほー!ほー!と感嘆しきりのフクロウさんになってしまった。

 次にというか、実は一番気に入ったのが、衣装だ。色合いといい、材質といい、デザインといい、もう、一つ一つがため息、さすがは世界のワダ エミだよ。どんだけ惹かれたか?普段は絶対買わないプログラム、なんと2500円も出して買ってしまったもの、衣装の写真が欲しくて。特に、リューが怪我をしたミンにそっと羽織らせる上着?の素晴らしいこと。あのシーンは、あの衣装だからこそ、成り立ったとさえ感じた。

 さらに、音楽、これも絶品だった。原作のプッチーニを感じさせつつ現代に生きる美しい曲の数々だった。演奏も少ない人数ながら、大編成を感じさせるような豊かな音色を響かせていた。合唱も、できるぞこいつらって感じで、大満足させてもらった。主役の男二人の歌唱力には問題有りだったけどね。さらに、脇役たちの軽業の数々、なんと、中国から少林寺の連中呼んでたんだ。

 どう、この旺盛なるサービス精神!!これがエンターテインメントってもんだ、ミュージカルってもんだ。もう、これだけで、OK!もとはとったぜ、って思ったね。だから、終わったときはちょっとためらったけど、スタンディングしてしまったものね。

 じゃあ、そのちょっぴりのためらいって何か、って言うと、実はその装置にあったんだ。装置を動かし過ぎたんじゃないかってことが一つ。次々に大きな装置があっち行きこっち行きするので、どうにも物語に集中できなかったんだ。高所での立ち回りや移動する装置を縫うような動きが、見ていてはらはらしたってこともあった。

 それと台本。これはちょっと残念だったかな。獅童の演じた将軍の造形が薄っぺらな悪人になっていたこと。もっと自らの出自と女帝への愛に苦しみもだえて欲しかった。そうすれば、最後の謀反ももっと切ない荒々しさをまとうことがではきたと思う。トゥーランドットの王位継承にまつわる秘密が明らかになるのも、あまりに唐突だった。しかも、語りだよ。もっと、前半で伏線を打てなかったのかなあ。それからカラフのやるべき仕事ってのもよくわからなかった。だから、将軍を討ち果たした後、カラフとトゥーランドットの一時の別れも納得できなかった。さらに、5年間で国が再建されて、女帝が王位を捨て民衆に主権を移譲するって話しも、変に今風で気持ち悪かった。

 とは言え、リューの純愛、トゥーランドットの寂しげな威厳、男でもない女でもないミンの切ない存在感、これは胸に迫るもがあった。

 そして、最後の祝祭クライマックス!渦巻く赤、赤、赤!それまで青と灰色だった衣装がすべて赤に変わっていた。こういう手練手管、好きだよなあ、もう、絶対いい!!あっ、そうそう、感激にウキウキしながら出てきたら、なんともぎりや案内のお姉さん達の衣装も赤に変わっていた。参りました!!

 

コメント
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