ステージおきたま

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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

『蜜姫村』の口直しは『卵をめぐる祖父の戦争』

2011-02-15 00:16:31 | 本と雑誌

 詰まらない本を読むと、次こそは!って思う。

 『密姫村』(作:乾ルカ)これが相当ダメだった。期待して読んだし、書き出しはぐいぐい引き込まれたので、中盤からのだらけようは、もういい加減にしろ!っとわめき散らしながらかろうじて最後のページに到達した。

 ファンタジーの面白さは、アイディアと構想力だと思う。『蜜姫村』にはそのどちらも欠けていた。村人のあらゆる病気を吸い取る蜜姫、その毒素?を口移しされる「壺」。このアイディアどう?今どきの病、すべて口から吸い出せるなんて、納得できるかい?食中毒や感染症ならありだろう、でも、心臓疾患とか糖尿病といった生活習慣病はどうだ?さらに遺伝子病なんてのもあるぞ。こんなのどうやって吸い取るっていうんだ。

 でも、病気吸引のアイディアは許そう。その後がいけない。後半は書き古された伝奇小説、剣豪小説。それだけ!数百年もの間、村と不即不離の関係を築いてきた蜜姫や黒王が、そのちぎりの重さをわきまえもせず、嫉妬と反逆に怒り狂って山を下りてくるって、あまりにちゃちでしょ。蜜姫の世界がどれほどの人たちに支えられ、どんな仕組みで暮らしを成り立たせているか、なんてさっぱり描かれていない。だいたい、別世界に暮らす一族の子どもたちが村の小学校に行く!!!なんなの。

 と、まあ、期待して読み始めただけに読後の苛立ちは相当のものだった。なので、次はまともなもの読まなくちゃ、ぜったい!

 『卵をめぐる祖父の戦争』(作:David Penioff)素晴らしい作品だった。第二次大戦の転換点となったレニングラード包囲戦を題材に戦争の悲惨さや愚かしさを描きつつ、友情とほのかな純愛が読者に迫ってくる。と、書くとありきたりの戦争文学と思われそうだが、その肌触りも手応えもまるで違う。一言も二言も余計な脱走兵と自負の思いとは裏腹に貧弱な少年との奇妙で息詰まる活劇ものになっている。

 あの上下二段組みのポケミス350ページがあっという間に過ぎていった。最後の一行まで本当に気の利いた文とせりふの連続だ。口先一つで窮地を切り抜ける脱走兵のキャラクターがいい。主人公が思いを寄せる赤毛の女狙撃手もこれまでにない魅力を放っている。さらに、若者二人の下ネタ満載のやりとりも、かえって戦争という現実妙に実感させる。

 なにより、次から次と、読み手を飽きさせもせず、首をかしげさせることもせずストーリーをつないでいくその力量に感心する。もちろん、その背景にあるのは包囲戦の想像を絶する悲惨さだ。人肉売買を生業とする夫婦、皆から貴重な食料として狙われる鶏を固守して死んでいった老人とその孫、人間地雷ならぬ犬にくくりつけられた地雷、雪中に佇立する死んだ兵士の立て看板、さらにはドイツ軍将校の慰安婦として囲われた娘たち、レジスタンスの男たちと狙撃の腕を自慢する女スナイパー、そして、チェス狂いのナチス将校、・・・・とこれまで耳にしたことのないエピソードが、巧みな展開の中で一つにつながれ行く。そして、最後は共に苦労した友との惜別、そして、夢見た女狙撃手との再会!

 こんな素晴らしい小説に出会えたことをつくづく幸せだと思う。読了とともに、この作者の処女作『25時』をアマゾンワンクリックで注文してしまった。

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