立てば世界は回る！

　みんな立ち上がるんだ！世界は変えられるぞ。なんて威勢のいい話じゃない。目の前がグルグル回ったんだ。今も微妙に揺れてる。

　そう、めまいってやつだぜ。まいったな。

　ジムで７キロ走って軽く筋トレして帰って夕食、さて、と立ち上がったら世界は突如回り始めやがった。おいおい、どうした？何が起きたんだ？

　なんとか壁つたいに2階に上がって、まっ、そのうち治るさ、なんてちょい横になって、よしっ、良くなったぜ、強いぜ俺！なんてパソコン向かったりして時間つぶし。

　さぁて、寝るか。おおっ、体が意図せぬ動き！おおい、そっちに足を踏み出すつもりはないぞ！おっと、急に揺れるんじゃない。慌てて柱につかまる。酔っ払いそのものだぜ。寝れば治る、一晩寝れば。あっちへふらり、こっちへよろよろやっとのことで布団敷いて、転がり込んだ。なんか、ムカムカするし、下痢の気配もあるが、寝れば治る！信念で一寝入り。　

　あまりの吐き気に一気に覚醒！うわぁ、この揺れ動く大地をどうやって階下の便所にたどり着くって言うんだ！四つん這いじゃ階段は下りられない。吐き気は容赦なくこみあげて来る。待て、ちょっとの辛抱だ。階段の途中でゲロゲロなんて無様だぜ。こらえろ、耐えろ、今吐き出してやるから、待つんだ！ゲロする場所は便壷だ。

　なんとかたどり着いた我が家の便所はポットン便所、上の蓋を外して両手両膝付きで、物乞いスタイル。強烈な吐き気は襲ってくるが、一向に嘔吐できないこの苦しさ！と、今度は下の方が緊急事態発令！出る、出る、早くしろ、出ちまうぞ！

　ったって、立つのだって容易じゃないんだ。まして、パジャマを下ろすのなんてどうすりゃいいんだ？片手は窓枠につかまったまんまで。うおーっ、間に合わないぃぃぃ！下着の上に下痢ピーか！？

　間に合った！ふぅ、出る出る出る、こっちの意志など配慮なし流れ続ける。良かった、下痢の脅迫からは逃れられた。でも、吐き気とめまいはさらに強力になって迫って来る。尻を拭くんだ！そうだ、汚れたまんまじゃ服は着られないぞ。が、しゃがんだままの姿勢を保つのが難しい。パンツとズボンを引き上げろ！片手でか？そんな無理だろ。じゃこのまんまけつ突き出して倒れ込むてぇのか？そりゃあまりにも美意識に反するぜ。何としてもすべて始末して二階の寝床に戻ろなきゃ。

　猛烈な吐き気に必死で耐えつつ、風呂場から洗面器を拾い上げて、階段を這い上る。

　ふへぇぇぇ、到達したぞ。おっと、付きあがってきたぞ、吐き気だっ！洗面器を持って上がってよかった。何度も何度も吐き出すべく、痛ましい努力を重ねたものの出たのは少量の胃液のみ。もうこうなったら、横になってこの不愉快な事態に付き合い続けるしかない。

　なんだって、こんなことになっちまったんだ？！頑健そのものの俺が。めまいなんて初めてだ。理由はなんだ？原因は？あれこれ思い悩むうちに救いの眠りが訪れてくれた。