イギリスでスポーツって言ったら、ラグビーとサッカー。ラグビーは上流階級でサッカーは労働者のものって思ってたのさ。
違ってたんだなぁ、これが。サッカーも実は上流階級のものだったんだ、今から150年くらい前の話し。イートン校とかの金持ちエリート層の出身者がチームを維持して、イギリスサッカー界を牛耳ってたんだって。サッカー協会も彼らのものなら、ルールも彼らが決めた。最高賞FAカップ(協会杯?)も彼らの独占、下層階級を主体にしたチームなど1回戦でこてんぱん、その実力差は歴然としてた。
そりゃそうだ。方や時間を持て余し練習に余念のない金持ちの御曹司たち、一方労働者チームって言ったら、1日10時間以上の働きづめだもの、練習だってままならない。食うものだって違うから体格だって違う。こりゃ敵わねえよ。だが、そんな労働者のチームも徐々に力をつけてきていた。さらに上位に勝ち上がるために、目を付けたのが優秀選手の移籍だ。当然、報酬を払って引き抜くわけだが、ここがアマチュアイズムを守る協会のルールと衝突する。サッカーは神聖なアマチュアスポーツ!ついこの間までラグビーで提唱されてたあれだ。
映画は当時の労働者チームが、スコットランドから優秀選手を助っ人として迎え入れて、労働争議やらチーム間のトラブル、そしてルールとの対決を乗り越えついに常勝金持ちチームに勝ってFA杯を獲得する、って話しだ。よくあるパターンだ、って思ったさ、最初の2話ほどは。でも、これがなかなかの出来なんだなぁ。メインのサッカー対決をしっかりたどりつつ、階級対立と暴動、母性と子どもの問題、二人の主人公の父と息子の葛藤、夫婦のあるいは恋人との行き違いなんかを巧みに絡めつつ、しかも、ほとんど踏み違えることなく、見事に完結する物語に仕上がっている。
まるで異人種みたいだぜ、ブルジョアと労働者。産業革命を先端で突っ走ってた当時のイギリス、その様子、知っておきたいもんだよな。基本、金持ちと貧乏人は対立してるってのは、今だって、日本だって変わらんわけだからな。
それはそれとして、サッカーに戻れば、今につながるいろんな事柄が、この映画の中に描かれていて、なるほどなるほどの納得感なんだぜ。
まず、戦い方、それ以前は体力に物言わせて、集団でドリブルしながらボールを運ぶ、これまるでラグビーだ、やり方だったのが、フォーメーションを組んでパスを多用して攻める戦法に変わった。金貰うなんてありえないって常識とルールが変わって行く。そう、プロの先駆け。選手の引き抜きも始まり、移籍金なんかも発生し始める。町上げて応援するファン層が広がって行く。ついには熱狂したファンの間で暴力沙汰まで発生、これフーリガンの元祖ってことだよな。チームが、工場しかない町の人たちの心の支えになって行く。今のプレミアリーグはこの熱い声援に支えられている。なんせ、田舎のチームでも試合に万単位でファンが押し寄せるってんだから。映画にゃチーム独自のジャージ縫製会社の発足なんての出て来て楽しい。観客席を備えた専用競技場なんかもこのころできたようだよな。なお、チームは今も活躍中のブラックバーンだ。
この労働者チームの台頭をきっかけに、サッカーが金持ちのものから、あらゆる階層、世界中の人々のものへとと変わり、イギリスサッカー協会も大きな転身の一歩を踏み出す、そんな予兆も感じさせつつ終幕を迎える。エンドロールには、映画で活躍したブルジョア側の大立者アーサーがその後イギリスサッカー界を育てることになり、二人のスコットランド選手、スーターとラブがプロ選手の先駆けとなったことを明かしてくれる。
なっ、この映画で描かれた様々な軋轢の末に、今、サッカーに熱中できる世界が生まれてきたってことなんだぜ。サッカーファンなら見ないって選択肢はあり得ないだろうが。いやいや、サッカー興味なくたって、十分楽しめる作りになってる。ネトフリにありがちな、あちこちエピソード広げて、だらだらと回数稼ぎ、挙句はプロット破綻させてさっさと逃げる、なんて不届きとも縁がない。熱中、充実、上質の数時間を堪能できること請け合いだ。二つの階級社会の暮らしぶりや街並みだけだって、見ものだからね。
あっ、サッカーファンにだけ通じる話題。労働者チームに勝利をもたらす英雄スーター、これが今FCポルト(ポルトガルリーグ)で苦戦する中島翔哉にそっくりなんだ。角ばった顔、小柄な体躯、信念を貫く逞しさ。ガンバレ翔哉!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます