アメリカの今がぎっちりだ。『運命の7秒』Netflix
差別、ドラッグ、警察暴力、ブラックライブズマター、ストリートギャング、アルコール依存症、ホモセクシャル、セクハラ、パワハラ、揺らぐ信仰、・・・
ちょっとした交通事故がひき逃げに発展し、差別事犯へとつながって行く。
被害者の少年は、ギャングの一員か、麻薬取引の最中だったのか、不相応な高級自転車とそのスポーク挟んであったかもめのオブジェが謎を呼ぶ。敬虔な信仰に生きる両親は、少年の過去をめぐっていがみ合い、ののしりあって、離れていく。
秘密を握る友人は薬の売人、そして二人の少年の間柄は友情を越えて・・・
一方、加害者は刑事、瞬時の躊躇から事態は泥沼にはまり込んで行く。仲間をかばいウソを上塗りするために、次々に凶悪犯罪に手を染めていく悪徳麻薬捜査官のチーム。仲間割れ、家族との葛藤。自首ではなく、逃亡を主張する妻。
夢中で犯人を追う被害少年の母親も、夫との信頼を失い、義弟とも行き違い、信仰さえも失っていく。軍隊帰りで行き場のない義弟の揺れる思い。最愛の甥を失い、自ら犯人を罰することを決意する。
対決するのは、私生活でも仕事でも失敗ばかり、自身を失いアルコールに溺れる女性検事と、妻と娘から見捨てられたさえない中年刑事の二人。
二転三転の凝縮されたせめぎ合いの連続が続き、ついに犯人たちは逮捕される。
やれやれ、これで終わり、と、思ったら、そこからがさらに本題だった!今度は熾烈な法廷劇。俄然、湧き上がるブラックライブズマターの叫び声。ひき逃げ放置は、ヘイトクライムなのか?一つ一つの証拠や証言をめぐって、鋭い弁論対決が繰り広げられる。2分される傍聴席。加害者たちの切羽詰まった証拠隠滅行動、それらを一つ一つ潜り抜けて真実に迫って行く検事と刑事。
そして、検事はついに、動かぬ証拠を見出し陪審員に突きつける。
よしっ、これで有罪、一件落着!罪ある者は、罰せられる。
と、行かないところが、まさしく今のアメリカなんだ!
徒労感の中に取り残されるのは主人公たちばかりじゃない。観る側も、宙ぶらりんのやりきれなさに置きざりされ、エンディングロールを前に身悶えするしかない。
うーん、まるで通じない紹介になっちまった。ネタバレせずに感想を綴ることの難しさ。
最後に何だよ!ってことになるかもしれないが、とても面白い。
前半の追跡劇も後半の法廷サスペンスも上出来だ。ひたすらテンポよく走り切るサスペンスとは違う。行き交う人々、被害者側も加害者側も、怒りや悲しみ、憎しみヘイト、裏切り絶望、許しや安らぎ、傷持つ者たちの暖かさ、どこまでも身勝手成り切れるフツウの人間の醜悪さ。
みんな、みんな人間だよな、だから、どうしてもすれ違うし、行き会える。そんな深く人間を感じさせてくれる映画だ。
で、終幕は苦くやり切れない。それに耐えられる人はぜひ見て欲しいものだ。
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