颯爽と黒いスーツの男性の登場に「ええっ!」。
足が長い!たたずまいが美しすぎる!チラシのイメージをはるかに越していました。まるで雑誌のモデルのたたずまいです。
そして「からたちの花」の第一声が響き渡ったときに、更に「なに、これーっ!」とカウンターテナーの澄み切った高音に衝撃を受けました。
今まで聴いた声楽家のリサイタルと違うオーラが静かに響き渡りました。声の主は村松稔之さん。カウンターテナーリサイタルです。
一部は山田耕作や武満徹作曲の日本語で、二部が歌曲やオペラのアリアをイタリア語で。
曲目ごとに、美しい日本語で美しい発音で解説やエピソードが入り観客を魅了しました。所作も美しい。まるごと芸術です。
東京芸大大学院を首席卒業という若手カウンターテナー。声楽界のホープです。「ホープ」って輝く言葉ですねぇ。
「もう一度聴きたい」という感想が私のリサイタルの評価です。
村松さんは幼少期に神戸で震災にあい京都に移住。自分の命が大切に守られたこと、そして人の支えがあったことに思いを馳せ、NPO法人「SOS子どもの村JAPAN」に関わったことを話されました。
歌だけでは世の中を変えられない、しかしその歌声を心に届け、それにより何かを踏み出す一歩にして欲しいと静かに訴えられました。
美しい声、誠実な人柄、美しいたたずまい、美しい笑顔に、やっぱり観客は心を動かされました。
リサイタル終了後の出口で、NPOの人達が持つ募金箱に次々に札が増えていきます。そこには、厳しさを増す「子どもと家族」の問題を正面から見つめる観客がいました。
裏声の高音域を、それもノンビブラートで出すためには1年間の訓練が必要だったそうです。素人にもよくわかる誠実な解説にとても好感が持てました。
声楽は喉が楽器と聞いたことがありますが、とても納得できました。
楽器は買い直せても、声帯は生の楽器。生涯をかけて維持していくことの困難さが忍ばれます。
この6日間に2度のコンサートと1回の講演会は、常に妹と一緒でした。
以前は夫婦二組4人でというシーンもありました。男性陣が高齢になり優雅に食事してカフェでおしゃべりしてとはいかない環境になりました。
コンサートが終われば2人とも我が家へ一目散。コンサートに行けるだけでも幸せと思っています。
帰宅すると「どうだった?」「すごく楽しかったー!」「そりゃーよかったね」と私の上機嫌を喜んでくれました。
五嶋みどりさんと今回のテナーリサイタルで、十分にエネルギーの補給ができました。