NHK BSプレミアム,土曜(18:45~19:30)で放映中の「陽だまりの樹 」は、激動の幕末を背景にした医師と武士の二人の若者が主人公です。二人の若者の生き方を縦軸に、両者を絡ませながら当時の漢医と蘭医の対立、蘭学、幕末の思想、米国使節団、二人の恋を横軸にして軽快なタッチでストーリーを展開させていくドラマです。
ドラマはあと7回も続きます。良庵 ― 成宮寛貴、万二郎 ― 市原隼人、良庵の父 ―笹野高史、藤田東湖 ― 津川雅彦 などのキャストが十分にその役割を果たして、テンポよくわかり易く退屈しないドラマです。
この『陽だまりの樹』は手塚治虫原作で、主人公の一人手塚良庵は手塚治虫の曽祖父に当たる実在した人で、蘭学の立場から種痘所の設立に奔走し維新後も新政府で活躍します。
もう一人の主人公・伊武谷万二郎は藤田東湖の教えに感銘を受けひたむきに幕府を守ろうと忠誠を尽くします。そんな二人をつなぐ友情と恋。軽妙な会話とストーリーで肩の凝らない痛快歴史ドラマというところです。幕府の要人、緒方洪庵、福沢諭吉、ヒュースケン・・・など実在の人物が絡んでいるところも手ごたえ見ごたえのあるところです。
歴史の最前線に立ちはだかり歴史を動かしていく人物の壮絶なドラマでなく、その襞の部分でそれでも重要な役割にひたむきに生きていく人たちにスポットを当てたドラマです。
良庵は若き日に大阪、緒方洪庵の適塾に2年間入塾します。先の放映でその適塾と塾生の生活の場面が出てきました。数か月前に読んだ福沢諭吉に関する本をダブらせながらドラマを観たので興味もひとしおでした。
『福翁自伝』によると、適塾は『 毎日毎日進歩するという主義の塾 』で、『学生はみな活発で有能な人物であるが、一方から見れば血気盛んな年ごろ、乱暴学生ばかりで、なかなか一筋縄でも二筋縄でも始末におえない人物の巣窟 』だったほど、塾はエネルギーではちきれそうでした。
自伝にもドラマの良庵のことが出てきます。『 そのとき江戸から来ている手塚という学生があって、この男はある徳川家の藩医の子であって、いかにも見栄えがよくて立派な男であるが、どうも身持ちがよくない 』とあり、手塚が本気で勉強するところや、塾生が共謀し遊女から手塚への手紙を偽造して大騒ぎをさせたり、手を変え品を変え手塚に食事をおごらせたりと、ここにもおおらかな青春がありました。
その本が 斉藤孝『現代語訳 福翁自伝』(ちくま新書) と 北康利『福澤諭吉 国を支えて国に頼らず』(講談社) です。教科書に載った福澤諭吉の肖像画から想像すると、全くといっていいほど面白味がなく親しみを覚えるものではありませんが、実際はまさに痛快に破天荒に生きた人物像が本人の筆で書かれているので、目からうろこの意外性とホッとするような親近感が出てきました。斉藤氏の現代語訳も読みやすさの一つです。
近代の啓蒙思想家という固い肩書が何となく福澤諭吉を遠くへ押しやってしまうのかもしれません。40年間も1万円札の肖像画の地位を保っているほどの人物とは・・・、と興味が出て読んだのがこの本でした。その自伝を読んでみるとそれまでのイメージに目からうろこ。人間福澤諭吉のこんな豪放な生き方に、女性としてもちょっと羨ましくもありました。
∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*- ついでに ( 福翁自伝より ) *-∞-*-∞-*-∞∞-*-∞-*-∞
★ 外に出ても内にいても塾生は乱暴もすれば議論もするが、学問勉強の一点に於いて は当時では緒方塾生の右に出るものはなかったと自負しています。
★ 『ヅーフ』という蘭学社会唯一の字引の写本が1部あるのみの適塾で、5人も6人も群れをなして無言で字引を引きつつ原書を読み、『大概の塾生は原書をよく読むことができた』そうです。
★ 黒田藩の出入りの医者であった緒方洪庵が、藩主から『ワンダーベルト』という原書を借りてきたので、塾生で「二夜三日」で百五、六十ページの写本を成し遂げました。計り知れない知識欲に、当時の蘭学への希求が伝わります。学生は当時悪く言われるばかりだったが、『知力思想の活発で高尚なことは王侯貴族も見下すという気位』で学問に励んでいたそうです。
★ 塾生は『ヅーフ』という辞書の写本をしてアルバイトをし、『なかなか大きな金額になって、自然と学生の生活を助けていました。』
★ 漢医の大家・華岡の塾を敵視し『漢方医流の無学無術を罵倒して、蘭学生の気炎を吐くばかり』と意気盛んなところを見せています。
これを読みながら文学書で読む旧制高等学校の破帽疲弊の風習は、この適塾以来ずっと続いているような気がしてしまいました。
同じような感想で嬉しく思いました。
金曜8時、ですね。私は録画して、後でゆっくり見ることに
しています。
そうそう、アンモニアを作るところがあったでしょ?
あれも「福翁自伝」に出ていましたよ。
時代考証がよくなされていますね。
》ピーコさん
「陽だまり・・・」読まれたんですね。
そういう本があることすら、今まで知りませんでした。
小学校の教科書に、諭吉の子供の頃の話が出ていて
母親が公平な人で、乞食の女の人を風呂に入れて
髪を梳いてやり食事を与えたという場面が出ていました。
感動というより、自分はとてもこんなことはできないと幼心に
思ったものです。
高校の教科書に出ていたのは、コメントからすると適塾の
生活・・・でしょうか。
「陽だまり・・・」以降、1万円の顔の向こうに人間臭い塾生の
ふるまいが透かしだされて見えますo(^-^)o
ただし~テレビはまったく見ていません
テレビを見ないで何をしているのかと思うと~いろいろ雑用が一杯です
有難うございました
「行ってみよう」と気楽に行けるところが上方。文化の中心だったところが
今は歴史の旗印が立ち並ぶところ。いいですね~。
行ってどうなる…というものでもないけど、本と照らし合わせたり、イメージを膨らませたり、ちょっとした幸福感に浸れるところが私も大好きです。
「ターヘルアナトミア」のブログの日付は?
探してみましたが膨大過ぎてわかりませんでした。
『陽だまり…』は再放送含めて3回ほど放映されます。私はもっぱら録画を
して、都合のいい時にみます。漢方医 対 蘭方医の対決があったばかりです。
コメントありがとうございます。
母方の母方の子孫が濱田庄司!すごい情報通ですね。
私も調べてみましたが、ついにわかりませんでした。
こんな歴史ものだと若い方たちも興味を持つと思います。
爽やかですよね。
手塚先生の家の系図です。
太田東海の外孫が浜田庄司です。
http://kingendaikeizu.net/tezukaosamu
鈴木穆「高津物語(上)」 タウンニュース社刊
中平龍二郎「ホントに歩く大山街道を歩く」 風人社
浜田庄司の項に出てます。
浜田庄司の生誕地(太田家)の碑、生家(大和屋)
お墓もあります。