萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第79話 交点 act.5-side story「陽はまた昇る」

2014-10-18 22:45:00 | 陽はまた昇るside story
recollections×temperature



第79話 交点 act.5-side story「陽はまた昇る」

雪中の焚火は温かい、炎の色から温まる。

ぱちっ、

焚き木の爆ぜて金いろ散る、光ゆらいで燻ぶらす。
雪の竪穴に緋色きらめいて火影が熱い、そんな光と熱に英二は微笑んだ。

「雪の中で焚火って初めてです、国村さんは何度もありそうだけど、」
「あるけどね、敬語の時間は終わりじゃない?」

澄んだテノールが笑う言葉に左手首を覗きこむ。
火影ゆれる文字盤は分針が動く、そして打った刻限に笑いかけた。

「訓練中でも業務時間は定時ですか?」
「ってコトにしときな、ずっと敬語なんざ疲れちまうね、」

雪白の顔が笑って焚き木くべてくれる。
からん、燃え崩れる響きが雪の夜を谺する、この静謐に頷いた。

「じゃあ光一、遠慮なく喋りたいこと話していい?」
「もちろんだね、ほら、」

笑って缶ひとつ手渡してくれる。
そのラベルが去年の秋と同じで笑ってしまった。

「缶ビールなんか持ちこんで良いのかよ?おまえ今は小隊長だろが、」
「ふん、ホントお堅いねえ?」

やっぱりねえ?

そう言いたげなトーン笑ってプルリング引いてしまう。
ネックゲイターの口元もう啜りこんで、そんなザイルパートナに困りかけて言われた。

「去年の訓練を憶えてるだろ?雲取山荘に青梅署救助隊で泊ってさ、皆でビール呑んだケドああいう息抜きも大事な訓練だよ、ほらっ、」

白い手さらり伸ばされてプルリング引かれてしまう。
かつん、乾いた音ひとつアルコール香らせて雪白の笑顔ほころんだ。

「ハイ、かんぱいっ、」

かんっ、

涼やかな音の響いて缶ぶつけてくれる。
そんな上司の態度に笑って質問なげかけた。

「訓練と息抜きの緩急をつけることも精神的な訓練ってこと?」
「そ、だから今きっちり息抜きしなね、」

言いながら缶ビール口つけて笑ってくれる。
もう素直に頷くしかないかな?そう肚決めて啜りこんだ一口すぐ笑った。

「光一、これってノンアルコールビールだろ?」

訊きながら確かめたラベルは似ているけれど違う。
そのパーセント表示へと底抜けに明るい目も笑った。

「アルコール抜きでも飲んだ気分でリラックスの訓練だよ、気の持ちようって俺たちは必要だからね?」

気の持ちよう、そんな言葉に現場たちの記憶が分厚い。
確かに自身がそれだけだ?そう認めるまま笑いかけた。

「そうだな、俺も気持ちが折れてたら死んでたかもしれない、何度も、」

生きること、

その一点に諦めなかったから自分は今もここに居る。
そんな実感に焚火ぱちり爆ぜてザイルパートナーが微笑んだ。

「ホントおまえは悪運が強いよね、最初が富士だったのが良かったんじゃない?」
「そうかもしれないな、」

認めて自分の頬そっと触れてみる。
ふれる指先なめらかに何も無い、けれど体温が上がれば傷痕ひとつ浮びだす。

『最高峰の竜の爪痕だね、山の御守だよ?』

この傷をそんなふう言祝いでくれたのは二人、その一人が火影の向こう口遊んだ。

「富士、鋸尾根、アイガー、で、この間の真名井沢。まだ一年ちっとなのに経験豊富だね、やっぱ富士の竜に護られてんじゃない?」

まだ一年、それでも4度の危険に遭っている。
そして今後も遭わないとは限らない、この現実に笑いかけた。

「そうだと嬉しいよ、」

こんな自分でも神は護ってくれるだろうか?
そんな自問へ底抜けに明るい瞳が笑ってくれた。

「ほら、その笑顔が富士の神もタラシこんでるね?」

からり笑ってくれる声が焚火の夜を明るます。
こんなふうに去年の秋も時を過ごした、その記憶に微笑んだ。

「去年の秋、初めてビバークした時も焚火かこみながら言われたよな、笑顔がどうのって、」
「ソンナことも話したっけね、」

応えながらノンアルコールビールに笑ってくれる。
火影きらめく瞳は去年と同じ底抜けに明るい、けれど深くなった。
この深みだけ重ねた時間と言葉たち見つめて、ただ穏やかに尋ねた。

「光一、いま山だから聴いてくれるか?訓練の合間だけど、」

俺は英二を信じて黙秘と黙認する、でも泣きたいときは俺を山に誘いな?一緒に山登って一緒に泣いてやる、

そう言ってくれた相手に今聴いてほしい。
そんな願い向きあう焚火のほとり、澄んだ眼差しが微笑んだ。

「山だからね、」

ここは山、人間が治められる場所とは違う。
だから話せることに呼吸ひとつ英二は口を開いた。

「俺が司法試験も受かってること、今は光一も知ってるよな?」

警察官になって自分から言うのは初めてだ。
けれど今は互いの立場に知られて当り前、その通りに明眸が頷いた。

「上官として人事把握はしてるからね、」

正直な肯定してくれる、そんな相手に信頼また一つ積む。
そうしてまた話したくなる願いに当然の疑問を笑いかけた。

「なんで司法修習を受けないんだって思ったろ?」
「ふん、なんで受けないワケ?」

そのまま返して真直ぐ見つめてくれる。
ぱちり、炎また爆ぜる光ごし事実を言った。

「俺の母方の祖父は元官僚だって話したけど、裏まで掴んでる立場にいるんだ、今も、」

ただ官僚だった、それだけなら敢えて話す必要もないだろう。
だけど祖父の現実は単純じゃない、だからこそ口開いた今に真っすぐな瞳が訊いた。

「だからおまえ訊いたんだね、あの爺サンと同じ側の人間ならドウするってさ?」
「ああ、」

頷いて枯枝ひとつ、からり雪の焚火へくべる。
ぱちり金粉の爆ぜて炎をのばす、ゆれる光に澄んだ声が尋ねた。

「疑われるの怖いから隠したいって言ったのにさ、なんで俺に話そうって決めた?」
「他の人間から聴かれるより俺から話したいって思ったんだ、」

思うまま声にして缶へ口つける。
唇から喉へ発泡おりてゆく、その冷たさ呑みこんで言った。

「祖父は俺を東大にいかせて官僚にしたがったんだ、自分の権力を俺に継がせようって考えてる、今もな、」

今も、

この現在進行形にアンザイレンパートナーは何を思うだろう?
この自分を疑うだろうか、それとも信じてくれる?その分岐点に焚火は黄金の熱ゆらす。



(to be continued)

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山岳点景:錦秋、流転の鏡

2014-10-18 22:00:00 | 写真:山岳点景
水鏡の秋



山岳点景:錦秋、流転の鏡

小田代ヶ原+戦場ヶ原@栃木県日光市は今、落葉松の黄金が綺麗です。
湿原を流れる湯川の水は澄んで黄葉を映します。



碧い流れは清澄に涼やかです。
雪埋もれる冬も流れる川は今日も静かに穏やかでした。



ブナも白樺も葉を落している方が多い今日、
けれど落葉松だけは渋めの黄金あざやかに青空に映えます。

で、森のなか所々に楓たち紅葉の名残は紅いろ綺麗でした。



こんな写真たち撮りにいったので4時起きでした、お蔭で眠いです、笑

第52回 昔書いたブログも読んで欲しいブログトーナメント



Favonius「少年時譚50」+Aesculapius「Chiron31」読み直したら校了です。
第79話「交点5」もうすこし加筆の予定、英二と光一@雪中訓練の対話。

雑談ぽいのも続き書きたいんですけど、とにかく眠いです、
寝落ちしたら続き&加筆また朝にします、

取り急ぎ、



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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚243

2014-10-18 00:25:00 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚243

大学の友達ハルと呑む4月ある夜、ハルの恋愛相談→御曹司譚になった、

「そいつ跡取り息子でいわゆる御曹司なんだよね、だから今の職場でも立場ちょっと微妙なトコがあってさ。そういうの本人がいちばん解ってるトコあるから人間を信用し難いトコあるんだよね、」

って話から初めて、

「その反動か惚れっぽいトコあってさ?だから友達のことも女じゃ一番好きだから手も出したらしいんだけど、出張先で男の同僚にR18なコトしたらしいんだよね、」

ってカンジにとりまとめ話したらハルの「怒」スイッチが入った、

「はあ?なんやのんそれえ、ホンマのアカンタレやんかソイツしばいたろかあ?」

ホントしばかれることも御曹司クンは必要かもしれない、
だって御曹司クンは多分本気で叱られた事がない、そしてハルのシバキは真直ぐストレートだ。

もし御曹司クンがハルみたいな人に早く逢っていたらよかったのに?

そうしたら御曹司クンは恋愛浮浪者にならなかったかもしれない、
そんなこと考えながら笑った、

「ハルのシバキって見てみたい気もするね?笑」
「ホンマにしばいて良いんやったらしばくで、ソレでなんでトモが転職に相成ったん?」

怒りながらも訊いてくる、その真面目な顔に答えた、

「元から転職は考えてたんだけどさ、御曹司クンと友達の間に挟まってるのもドウかなって考えたのがタイミングになったよ?笑」

まとめちゃえばソンナ感じだ、そして全部だろう?
そんな回答にハルは訊いてくれた、

「その御曹司くんがトモに気ぃあるままだと友達の子が御曹司くんと上手くいかへんから、トモが転職して姿消すってことなんか?」
「そういうカンジだね、単純に転職したいだけでもあるけどさ?笑」

笑って答えたテーブル越しハルが溜息かるく吐いて、で、言った、

「なんやね、トモも相手のために転職ってトコもあるんやな?私が先輩のことで転職考えたんと変わらんやんか、」

確かに変わらんかもしれない?でも一点違うところを言ってみた、

「自分の転職はね、その仕事したいって目的のある転職だよ?ほんとタイミングの問題だったんだ、笑」
「たしかにな、トモが無計画でナンカするって無いわ、」

あっさり認めて頷いてくれる顔はちょっと複雑で、また訊いてくれた。

「トモが転職すること、その二人は知っとるの?」
「彼女のほうはね、笑」

ありのまま言って、で、ハルは言った、

「なあ、その御曹司くんのほうが転職のこと知ったら大騒ぎするんやない?大丈夫なんか?」

確かにソレが心配なんだよね?
なんて考えていたら携帯電話が振動して、ハルが言ってくれた、

「メールでも電話でも遠慮せんでええよ、くだんの御曹司くんかもしれんで?」
「そこまでタイミング良いんだ?笑」

笑ってなにげなく携帯を開いて、メールは2通だった、

From:歯医者
本文:あの本読み終わったよ、材木の使い方すごかった。こんどの連休の予定とかある?

これ「無い」って言ったら予定が入るんだろうな?
そんな予想と開いたもう一通につい笑った、

「ハルの予想は半分あたりだよ?笑」

From:御曹司クン
本文:連休、30分でも良いから時間くれない?

なんでんかんでん5ブログトーナメント

映画「恋するシェイクスピア」がBSでやってます、で、つい観ながら書いていました、笑
ちょっと昔の映画ですが「Shakespeare's Sonnet」を物語にしたカンジです、

会話短篇Short Scene Talk「夕休某日―Side Story act.34」英二と周太サイド版UPしました、
Favonius「少年時譚 act.49」+第79話「交点act.4」+Savant「晨の故山act.4」校了しました。
Aesculapius「Chiron31」加筆もう少しします、校正ほか終わったら第79話の続きか短編の予定です。

あいかわらず眠いです、でも昨日もバナー押して頂いたのでUPします、笑
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取り急ぎ、



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