enclose 閉鎖文言
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/ca/7243584d01ccd1553eb58ee49d64ff6c.jpg)
第79話 光点act.1-another,side story「陽はまた昇る」
それでも僕は赦せるの?
『今も使っているんだろう、同じ人間が2丁交互にな。そうすれば似たようなライフルマークになる、』
2週間ずっと言葉は響き続けている、そして習慣になった。
もし「今も」だとしたら自分は赦せるのか?この自問は今の日常だ。
「短連射は規整子を大にする、脚を使用して体は銃軸線後方まっすぐだ、両足は開け、背筋を使え、」
射撃場を響く声に雪が舞う、谷間の底は白銀そめてゆく。
見つめる標的も白く霞んで、それでも真直ぐ見つめて指示が来る。
「湯原、左手は銃把を握って肩に引きつけろ、2発目がぶれて当らんぞ、」
「はい、」
頷いて脇をしめ引き付ける、その手元を銀色かすめて凍えさす。
グローブ嵌めた手もトリガーの指だけは素肌に凍える、もう微妙な感覚が消えゆく。
12月下旬、山影に覆われた冷厳の大気はマスク透かして気管支から肺も冷やされる。
―発作でないで、お願い、
心裡そっと祈りながら号令を待つ。
緊張ゆるく背筋を昇る、視界も集中する、それでも意識の片隅ずっと考えている。
『今も使っているんだろう、同じ人間が』
父を狙撃した銃は「同じ人間」が今も使っている。
その現実ずっと見つめてしまう、だって今ここにいるかもしれない?
『この拳銃と弾丸は見覚えあるだろ?二丁目の暴力団事務所で押収された物だ、同じものが14年前も押収されたが今は消えている。だが盗難記録は無い、』
暴力団事務所で「同じもの」が押収された、その意味は?
なぜ父を撃った男がいた場所から14年を経て「同じもの」が押収されたのか、そして「消えている」のか?
その解答は今この近くに生きて存在しているかもしれない、そんな可能性が佇む雪のなか指示にトリガー弾いた。
「っ、」
呼吸にトリガー戻して200メートル先また狙撃する。
三転バースト機構がないタイプの小銃はトリガー戻すタイミングが掴めないと1度に3発撃ってしまう。
その微妙な感覚操作たどる指先は冷たい、それでも規定通りに5回の狙撃を終えて指示が響く。
「撃ちかたやめ、採点、」
指示に標的は下げられて監的壕が動きだす。
雪白む壕で採点係たちチェックする、その結果が無線で送られた。
「6番、82点、弾痕…」
告げられる射座番号と点数に溜息そっと呑む。
これでは全弾確実じゃない、そんな実力に半月前の幸運が疼く。
―腕と脚を撃てたのは運も良かったんだ、もし外していたら、
二週間前に初めての出動で狙撃した。
命令は犯人射殺、けれど自分は手首と脚を撃ちぬいている。
そうして殺さず逮捕させたて命令違反を問われた、あの全て後悔などしていない。
それでも今こうして採点結果に「幸運だった」と知らされる、そして少しだけ肚に治まってゆく。
射殺命令なのは逆に救いなのかもしれない、狙撃手にとって。
―殺さず確保って命令なのに誤射で殺してしまったら、責任も自分を責める気持ちもきっと、
自分の射撃能力は低くない、それでも訓練の今すら外した。
屋内か気候条件が良ければ全弾的中かもしれない、それほど降雪と低温は指先の感覚を狂わせる。
そして現場が今と同じ状態になる可能性もゼロじゃない、もっと過酷な環境下だって有得るのだろう。
そこでは手もとが今以上に狂うかもしれない?
そんな可能性を見つめるまま雪深い谷底の射撃場は指示が響く。
「次、ゼロ点照準射撃、」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/7b/9503de9289322b373dc71e9d80f7d15a.jpg)
聴いていた通り、簡易ベッドは粗末だった。
宿舎になる駐屯地の部屋は質素で最低限しかない、これも訓練の内なのだろう?
そう納得しながらアサルトスーツ脱いだ傍から呼ばれた。
「湯原、ジャージに着替えろ。グラウンドでランニングするぞ、」
「伊達さん?」
ふり向きながら疑問形になってしまう。
もう暗くなる窓辺、いつもの深い鋭利な瞳がすこし笑った。
「ランニングで緊張の疲れを運動疲労に変えるんだよ、でないと寝付き難いだろ?」
教えてくれながら伊達はジャージもう履いている。
ならってすぐ着替えると歩きながら話してくれた。
「あのベッドで熟睡するには体を疲れさせないと無理だ、しかも初めてじゃまず寝られんよ、」
「伊達さんも最初は眠れなかったんですか?」
聴きながら隣の「最初」が想像できない。
齢は2歳しか違わない相手、けれど年齢以上に落着いた眼差しが笑ってくれた。
「眠れたよ、俺も先輩に教わってランニングしたし雑魚寝に慣れてたからな、」
「ん…雑魚寝に慣れていたんですか?」
何げなく訊き返しながら出たグラウンド、しんと夜の底に銀色あわい。
ざくり、ランニングシューズの底に霜柱くだきながら低い声すこし笑った。
「よく学生時代は友達と酒飲んだまま床に転がって寝たんだよ、寒くて起きるから寝坊しなかった、」
ゆるく走りだしながら話してくれる、その声が澱まない。
この程度の運動なら普通に話せてしまう、そんな心肺機能すこし羨ましい想いに言われた。
「湯原、全力疾走はするなよ?呼吸も粗くするな、喘息に障らんよう気を付けろ、」
今想ったこと見透かされたのかな?
そんな言葉なにか可笑しくて笑いかけた。
「はい、のんびり走ります。あの、寒くて起きるって寒い場所で飲んでいたんですか?」
「友達の下宿だよ、山形の冬は寒いからな、」
さらり答えられて想い出してしまう。
このひとが半月前に言ってくれたこと、その信頼を見つめながら尋ねた。
「あの…大学の場所まで僕に話していいんですか?」
「なんでも話すって言ったろ、情報ツールは言い難いけどさ、」
すぐ応えてくれる声は低いけれど真直ぐ深く澄む。
どこにも嘘は無い、そんなトーンのまま伊達は言ってくれた。
「飯の後は駐屯地内のクラブに行くぞ、酒の量はうまく誤魔化して絶対に酔うなよ、いいな?」
ほら、約束ちゃんと憶えてくれている。
その言葉にふり向いた薄暮の雪、並んで走る顔は笑ってくれた。
「この駐屯地には事情聴取できそうな男がいるんだ、さっき情報を仕入れたばかりだけどな、」
なんて速いのだろう、まだ初日なのに?
思わず走る足ゆるんで、けれど伊達は静かに微笑んだ。
「普通に走れ湯原、周りに悟られるな、」
「はい…」
頷きながら鼓動そっと整える。
今ここで言われると思っていなかった本音に尋ねた。
「あの、走りながらだったら聞かれないから話すんですか?」
「ここだと監視カメラの場所も解らんからな、」
足ゆるめないまま応えてくれるトーンは変わらない。
そんな強健な声が尋ねた。
「湯原、おまえの曾祖父さんが亡くなった時の事は知っているか?」
とくん、
聴覚そのまま心臓が軋む、だって今なんて言った?
(to be continued)
【資料出典:毛利元貞『図解特殊警察』/伊藤鋼一『警視庁・特殊部隊の真実』】
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第79話 光点act.1-another,side story「陽はまた昇る」
それでも僕は赦せるの?
『今も使っているんだろう、同じ人間が2丁交互にな。そうすれば似たようなライフルマークになる、』
2週間ずっと言葉は響き続けている、そして習慣になった。
もし「今も」だとしたら自分は赦せるのか?この自問は今の日常だ。
「短連射は規整子を大にする、脚を使用して体は銃軸線後方まっすぐだ、両足は開け、背筋を使え、」
射撃場を響く声に雪が舞う、谷間の底は白銀そめてゆく。
見つめる標的も白く霞んで、それでも真直ぐ見つめて指示が来る。
「湯原、左手は銃把を握って肩に引きつけろ、2発目がぶれて当らんぞ、」
「はい、」
頷いて脇をしめ引き付ける、その手元を銀色かすめて凍えさす。
グローブ嵌めた手もトリガーの指だけは素肌に凍える、もう微妙な感覚が消えゆく。
12月下旬、山影に覆われた冷厳の大気はマスク透かして気管支から肺も冷やされる。
―発作でないで、お願い、
心裡そっと祈りながら号令を待つ。
緊張ゆるく背筋を昇る、視界も集中する、それでも意識の片隅ずっと考えている。
『今も使っているんだろう、同じ人間が』
父を狙撃した銃は「同じ人間」が今も使っている。
その現実ずっと見つめてしまう、だって今ここにいるかもしれない?
『この拳銃と弾丸は見覚えあるだろ?二丁目の暴力団事務所で押収された物だ、同じものが14年前も押収されたが今は消えている。だが盗難記録は無い、』
暴力団事務所で「同じもの」が押収された、その意味は?
なぜ父を撃った男がいた場所から14年を経て「同じもの」が押収されたのか、そして「消えている」のか?
その解答は今この近くに生きて存在しているかもしれない、そんな可能性が佇む雪のなか指示にトリガー弾いた。
「っ、」
呼吸にトリガー戻して200メートル先また狙撃する。
三転バースト機構がないタイプの小銃はトリガー戻すタイミングが掴めないと1度に3発撃ってしまう。
その微妙な感覚操作たどる指先は冷たい、それでも規定通りに5回の狙撃を終えて指示が響く。
「撃ちかたやめ、採点、」
指示に標的は下げられて監的壕が動きだす。
雪白む壕で採点係たちチェックする、その結果が無線で送られた。
「6番、82点、弾痕…」
告げられる射座番号と点数に溜息そっと呑む。
これでは全弾確実じゃない、そんな実力に半月前の幸運が疼く。
―腕と脚を撃てたのは運も良かったんだ、もし外していたら、
二週間前に初めての出動で狙撃した。
命令は犯人射殺、けれど自分は手首と脚を撃ちぬいている。
そうして殺さず逮捕させたて命令違反を問われた、あの全て後悔などしていない。
それでも今こうして採点結果に「幸運だった」と知らされる、そして少しだけ肚に治まってゆく。
射殺命令なのは逆に救いなのかもしれない、狙撃手にとって。
―殺さず確保って命令なのに誤射で殺してしまったら、責任も自分を責める気持ちもきっと、
自分の射撃能力は低くない、それでも訓練の今すら外した。
屋内か気候条件が良ければ全弾的中かもしれない、それほど降雪と低温は指先の感覚を狂わせる。
そして現場が今と同じ状態になる可能性もゼロじゃない、もっと過酷な環境下だって有得るのだろう。
そこでは手もとが今以上に狂うかもしれない?
そんな可能性を見つめるまま雪深い谷底の射撃場は指示が響く。
「次、ゼロ点照準射撃、」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/7b/9503de9289322b373dc71e9d80f7d15a.jpg)
聴いていた通り、簡易ベッドは粗末だった。
宿舎になる駐屯地の部屋は質素で最低限しかない、これも訓練の内なのだろう?
そう納得しながらアサルトスーツ脱いだ傍から呼ばれた。
「湯原、ジャージに着替えろ。グラウンドでランニングするぞ、」
「伊達さん?」
ふり向きながら疑問形になってしまう。
もう暗くなる窓辺、いつもの深い鋭利な瞳がすこし笑った。
「ランニングで緊張の疲れを運動疲労に変えるんだよ、でないと寝付き難いだろ?」
教えてくれながら伊達はジャージもう履いている。
ならってすぐ着替えると歩きながら話してくれた。
「あのベッドで熟睡するには体を疲れさせないと無理だ、しかも初めてじゃまず寝られんよ、」
「伊達さんも最初は眠れなかったんですか?」
聴きながら隣の「最初」が想像できない。
齢は2歳しか違わない相手、けれど年齢以上に落着いた眼差しが笑ってくれた。
「眠れたよ、俺も先輩に教わってランニングしたし雑魚寝に慣れてたからな、」
「ん…雑魚寝に慣れていたんですか?」
何げなく訊き返しながら出たグラウンド、しんと夜の底に銀色あわい。
ざくり、ランニングシューズの底に霜柱くだきながら低い声すこし笑った。
「よく学生時代は友達と酒飲んだまま床に転がって寝たんだよ、寒くて起きるから寝坊しなかった、」
ゆるく走りだしながら話してくれる、その声が澱まない。
この程度の運動なら普通に話せてしまう、そんな心肺機能すこし羨ましい想いに言われた。
「湯原、全力疾走はするなよ?呼吸も粗くするな、喘息に障らんよう気を付けろ、」
今想ったこと見透かされたのかな?
そんな言葉なにか可笑しくて笑いかけた。
「はい、のんびり走ります。あの、寒くて起きるって寒い場所で飲んでいたんですか?」
「友達の下宿だよ、山形の冬は寒いからな、」
さらり答えられて想い出してしまう。
このひとが半月前に言ってくれたこと、その信頼を見つめながら尋ねた。
「あの…大学の場所まで僕に話していいんですか?」
「なんでも話すって言ったろ、情報ツールは言い難いけどさ、」
すぐ応えてくれる声は低いけれど真直ぐ深く澄む。
どこにも嘘は無い、そんなトーンのまま伊達は言ってくれた。
「飯の後は駐屯地内のクラブに行くぞ、酒の量はうまく誤魔化して絶対に酔うなよ、いいな?」
ほら、約束ちゃんと憶えてくれている。
その言葉にふり向いた薄暮の雪、並んで走る顔は笑ってくれた。
「この駐屯地には事情聴取できそうな男がいるんだ、さっき情報を仕入れたばかりだけどな、」
なんて速いのだろう、まだ初日なのに?
思わず走る足ゆるんで、けれど伊達は静かに微笑んだ。
「普通に走れ湯原、周りに悟られるな、」
「はい…」
頷きながら鼓動そっと整える。
今ここで言われると思っていなかった本音に尋ねた。
「あの、走りながらだったら聞かれないから話すんですか?」
「ここだと監視カメラの場所も解らんからな、」
足ゆるめないまま応えてくれるトーンは変わらない。
そんな強健な声が尋ねた。
「湯原、おまえの曾祖父さんが亡くなった時の事は知っているか?」
とくん、
聴覚そのまま心臓が軋む、だって今なんて言った?
(to be continued)
【資料出典:毛利元貞『図解特殊警察』/伊藤鋼一『警視庁・特殊部隊の真実』】
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