待ちたくて、
英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk37 視線act.2 ―dead of night
たぶん、この店は勉強なんて不似合いだ。
けれど許されることを知っている、自分なら。
そんなテーブルは改札を見下ろす安楽椅子、ページ繰って呼ばれた。
「お客様、コーヒーのおかわりいかがですか?」
ほろ甘い馥郁に見あげた先、上品なエプロン姿が微笑んでくる。
まだ20代だろう視線に英二は微笑んだ。
「ありがとう、オーダーもいいですか?」
きれいに笑いかけてエプロンの瞳が瞬く。
その眼とらえて真直ぐ綺麗に笑った。
「腹ちょっと空いちゃったんだ、でも追加って迷惑かけますか?」
本音の貌して「お願い」する。
綺麗に笑って見あげた真中、彼女の頬ぱっと華やいだ。
「迷惑なんてないです、何をお持ちしましょう?」
華やいだ瞳が明るむ、その中心に自分が映る。
たしかに映りこむ賛嘆へ朗らかな遠慮と微笑んだ。
「クラブハウスサンドお願いしたいんだけど、今の時間でも大丈夫かな?」
あと20分はモーニングのメニュー、本来なら無理だろう?
その20分にこそ頼んだ窓辺、若いウェイトレスは肯いた。
「大丈夫です、ただ、少しお待たせしますがよろしいですか?」
その言葉を待っていた。
捉まえた台詞へ綺麗に笑いかけた。
「時間あるから大丈夫です、無理を言ってすみません、」
「いいえ、コーヒーお注ぎしますね?」
微笑んでポットゆっくり傾ける。
深い琥珀色おだやかな馥郁、あまい湯気に笑いかけた。
「ありがとう、」
綺麗に笑いかけて瞳が受けとめる、華やいだ視線の頬あざやぐ。
上品なエプロン姿は微笑んで、踵かえして甘い背中は厨房へ向かった。
「…ちょうど50分、」
微笑んでカフェのテーブル、テキストゆっくりページ繰る。
傍らの付箋しるして書きこむペン先、左手首の文字盤つい見る。
“10:12”
食べ終われば11時、一方的な約束30分前。
そのときは改札前で待っていたい、だって「もし」がある。
―湯原は時間厳守、30分前には行動するタイプだから…もし、
もし、君が「約束」だと想ってくれるなら。
そんな「もし」を期待している、だからこんなところで座りこむ。
ここなら改札口よく見下ろせて、願いたい唯ひとり待っている。
でも、今日は30分前じゃないかもしれない。
『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』
夕食の支度したくなる、そんな食卓はきっと優しい。
そこは二人きり母子家庭、そこが優しい場所ならば「二人」を壊すだろうか?
―きっと少しでも長く家にいたいよな、そういう母親のためになら…湯原なら、
だって君は優しい。
いつも素っ気なくて、だけど素顔は優しい懐ふかく深く温かい瞳。
あの黒目がちの瞳ずっと見ていたくて、会いたくて逢いたくて、ただ願いテキストのページ繰る。
こんな自分でもこんなに逢いたい傍にいたい、それなら血も心も繋がった母子なら、どんなに離れがたいだろう?
―俺には母親なんて解らないけど、さ?
母親と心つながる、そんなこと自分は知らない。
知らない鼓動が叩かれる、揺らされる、自分のメールどんなふう読まれたろう?
T o :湯原周太
subject:宮田です
本 文:アドレス勝手にごめん、理由を話させてほしい。新宿駅南口改札11:30、待ってる。
自分勝手に送った想い、どんなふうに君は?
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