捉まえて、
英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk39 言訳 ―dead of night
緑が薫る、木洩陽まぶしい。
樹翳ふところ静謐まどろむ、スーツ透かすベンチの冷感。
真夏の都心は気温が上がる、けれどここは静かな涼暗そっと籠る。
都心まんなか繁る森、遠い声は芝の広場いくつも遊んで、それでもベンチの森は二人しかいない。
「…怒ってる、よな?」
つぶやいた先、自動販売機の横顔が遠い。
梢おおらかな木下闇、小柄なスーツ姿は2度目のボタン。
ごとん、
金属の音は重たい、でも軽やかにも響く。
昨日も聞いた遠い響きに英二は微笑んだ。
―今日も缶コーヒーおごってくれるんだ、湯原?
公園の入場券は自分で買う、でもコーヒーはいつも君だ。
こんなことも習慣になってきた、それだけ近づいた空気が踵かえす。
―湯原だ、ほんとに、
缶コーヒーふたつ、小さめの手に携え君がくる。
昨日も同じ姿を見て、そのままに差しだしてくれた。
「はい…」
「ありがと、」
受けとって笑いかけて、黒目がちの瞳が見返してくれる。
深く澄んだ瞳はきれいで、見惚れた隣へ香おだやかに座った。
―湯原の匂いだ、
さわやかで甘い深い、柑橘みたいな香。
この香に逢いたかった、昨夜からの願いに口ひらいた。
「湯原、メアド勝手にごめん、」
炎天くゆらす梢、光ふかく甘く薫る。
揺れる木洩陽に黒髪やわらかに艶めく、波うつ髪ゆるやかに光る。
入校式よりずっと伸びた前髪やわらかに透かして、黒目がちの瞳が見あげた。
「…いつ盗んだ?」
問いかけが見つめてくれる。
澄んだ視線まっすぐ受けとめて、正直に笑いかけた。
「昨日ここで湯原、本読んだまま眠ったろ?」
警察学校の週末、外泊許可に帰宅する途「いつも」のベンチ。
ここで昨日も隣に座った瞳はゆっくり瞬いて、英二を映した。
「すこしの時間…だったよな?」
「5分もあれば赤外線受信、充分だろ?」
笑いかけた告白に、黒目がちの瞳まっすぐ見つめてくる。
訝しい、そんな眼ざしが問いかけた。
「…なんで俺のメアド、盗みたかった?」
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