起源を探し、
英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk53 時計act.3 ―dead of night
ふるさとが一番だろ?
そんな一番は自分にない、だから何度も幾度もくりかえす。
脳髄から響いて巻き戻して谺する、答えられない未知から。
「ふるさと、か、」
ひとり微笑んで風なぶる。
洗い髪ゆるく梳いて夜がゆく、もう点呼も消えて時がもどる。
誰かも規則も遠い一人だけの時間、唯一ひらかれたベランダに英二は座りこんだ。
『城からの空もいいんだけどな?俺の家はちいせえ町工場だけど、その屋上で寝転がるのも最高なんだ、』
夕刻、そう笑った瞳は輝いていた。
精悍な笑顔ほころぶ日焼は健やかで、その言葉まばゆい。
「…城からの空もいいけど、ちいさい町工場だけど…最高、」
唇なぞりだす言葉、まぶしい。
まぶしくて羨ましくて心臓の柱がきしむ、自分は「城」だから。
―関根が知っているわけない、俺のことは…だから嫌味でも何でもない、
心裡くりかえす言い聞かせる、言葉まぶしすぎて。
言葉の笑顔まぶしすぎて言えなかった、言えば惨めすぎる。
けれどあの同期はそんなこと何も知らない、知らない、でも同じ警察学校で屋上で笑った。
“ふるさとが一番だろ?”
ふるさと、故郷。それを一番だと笑える瞳がここにいる。
だから本当は訊いてやりたかった、だったらなぜここに?
“だったら関根、なんで和歌山県警じゃなくて警視庁なんだよ?”
そう訊くだけでいい、でも訊けなかった。
こんなにも訊けない言えない自分がいる、こんなこと予想外だ?
「はー…ぁ、」
ため息ふかく長く顔をあげる、空が映る。
紺青色しのびやかな夜がふる、闇はるか中天の風なびく。
やわらかな残暑の風ふわりTシャツ透って、座りこんだ背中の硬さ微かに涼む。
もうじき夏が終わる、秋になる、そうしたら自分はコンクリートの壁からあの場所へ行けるだろうか?
「…山岳救助隊にはいれなかったら俺、どうするかな…」
さだまらない時が声こぼす、ほんとうは不安だから。
もし行けなかったら?その不安に夕方の言葉は自分を揺する。
“ふるさとが一番だろ?”
あんなふうに言いたい、自分も。
だから選びたい道の時計が鳴る。
かちり、
かちり、かちり、鳴らない時計の刻む音。
君と買えた腕時計、だから鳴らない音すら響いてしまう。
こんなこと君は知らない、気づきもしないだろう、そんな隣の窓から光こぼれる。
―湯原まだ勉強してる、いつもだけどさ?
座りこんだベランダ、コンクリートたどる淡い光。
隣室のカーテンゆらす光瞬く、窓ひらいて風が揺らす灯り。
その光源に君はテキスト開くのだろう、だから淡い弱い光なのに軌跡を描く。
―迷わないのかな湯原は…でも、どうしてそんなに?
どうして君、そんなに一途?
毎晩いつも灯るデスクライト、その光いつも消えない。
自分より先にライト消すなんてない、そんな隣室の主に今、ほんとうは逢いたい。
―でも不安なんか湯原にぶつけて、俺どうしたいんだよ?湯原の邪魔するだけだ、
山岳救助隊員になりたい、でもなれない可能性がたぶん大きい。
自分には登山の記録もキャリアも何も無い、こんな素人が配属など願えない場所。
それくらい厳しい現実と現場だからこそ行きたい、たどりつきたい、そうして自分も笑ってみたい。
“ふるさとが一番だろ?その屋上で寝転がるのも最高なんだ”
ふるさと、そう呼べる居場所の天辺で寝ころびたい。
そんな望みに選んでみたい場所は本当に「天辺」で、なんだか可笑しくて笑った。
「そっか、首都の屋上だ?」
東京の山岳地域、その最高峰「天辺」は「屋上」だろう?
それなら「ふるさと」と呼んで嘘はない、そんな想い仰ぐ夜、はるかな鳥の飛影。
※校正中
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