ただ隣に、
英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk41 言訳act.3 ―dead of night
木洩陽ふる風、涼やかに馥郁が澄む。
かすかに甘い渋い深い香、昨日も祖父の庭に香っていた。
あの場所と似ている気配の風、けれど違う隣を英二は見つめた。
―黙りこんじゃったな湯原、怒ってるのかな?
たった一言、それから沈黙だけが座りこむ。
『…そう、…』
つぶやくような小さな声、それから黙りこんだ横顔。
そうして木洩陽やさしいベンチにただ、並んで座っている。
―そろそろ昼飯時だけど、湯原?
心裡だけ話しかけて、でも声に出ない。
ただ鼓動だけ裡から響く、自分の音で声にならない。
―なんで俺こんな緊張してるんだろ、でも、嫌じゃない、
とくん、とくん、鼓動が響く。
胸から湧いて肚底ふかく溜まりこむ、響いて敲かれて君だけ見る。
ただ並んで座っているだけ、梢のむこう青色まぶしい真昼、穏やかな風も涼しい。
どこまでも穏やかで優しい夏のかたすみ、ただ鼓動だけ早く速く波うって攫いたがる。
―きれいだな、湯原、
惹きこまれる、隣の横顔に。
緑ふる輪郭いつもより澄む、瞳うつむく睫の陰翳が蒼い。
額やわらかな黒髪の波うつ光、あのクセっ毛を指にからめたい。
ほら?こんなに攫いたがる。
―さわりたい、湯原のこと今すぐ、
訴えてくる、肚底から。
こんなこと初めてだ、誰かを求める自分がいる?
それも同性、こんなの想像したことも無かった、けれど今こんなに触れたい。
―男にこんなこと考えるなんてな…湯原はどう思うかな?
君は何て想うだろう、こんな自分のこと。
訊いてみたい、でも怖くなる、君に否定されたらどうしたらいい?
―否定されたら、なんて俺が想うんだ?
否定されたくない、拒絶が怖い、こんなこと初めてだ?
こんな初めてに見惚れる真中、横顔の唇そっと開いた。
「…前にすればよかったのに、」
え?
「まえ?」
どういう意味だろう、というか喋ってくれた?
聴けた声に鼓動そっと奔りだす、その渦に尋ねた。
「前にすればって湯原、何?」
答えてくれるだろうか、答えてほしい。
ただ話してほしい本音に横顔すこし振りむいた。
「公園に入る前ってこと…他になに?」
ぶっきらぼうな口調、けれど黒目がちの瞳が見つめてくれる。
木洩陽ちりばめる睫が長い、その陰翳がきれいで眼が動けない。
「公園に入る前に?」
訊き返しながら見惚れる、きれいで。
ただ離せない視線の真中、黒目がちの瞳が見あげた。
「入る前に昼ごはんってこと、すぐ出たら入園料もったいない、」
そういうことか?
納得して、けれど意外で見つめてしまう。
こんなこと君が言うなんて?
―もったいないとか言うんだ、湯原が?
もったいない、なんて現実的な発言だ。
だから不思議になる、どこか君を遠く想っていたから。
こんなふう近づいて隣にいると実感できる、その安堵ほっと緩んだ。
「もったいないって湯原、昼飯を一緒しようとしてくれてる?」
それなら嬉しい、一緒にいてくれる?
たしかめたい安堵に長い睫そっとうつむいた。
「ぼ…おれもおなかすいたし、」
ぶっきらぼうな口調、だけど照れている。
こんな隙に嬉しくて期待ふくらんで、願いごと笑いかけた。
「昼飯おごったらさ、俺が携帯に勝手したこと怒らないでくれる?」
こんな願いごと、都合よすぎる?
それでも赦されたい願いに、君の唇がひらいた。
「…入園料もおごってくれたら、」
ぶっきらぼうな口調、でも深い穏やかな声からオレンジ香る。
この声を香を聴きたかった、ただ嬉しくて笑いかけた。
「ありがと、飯食ったら再入場もおごるよ?」
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