萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk51 時計 ―dead of night

2017-12-20 21:21:30 | dead of night 陽はまた昇る
想う時間に、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk51 時計 ―dead of night

時を刻む、君と買った時計が。

ほんとうは音なんて聞こえない、けれどデジタル表示に音を聴く。
自習室かたすみテキストの左手首、こつり数字が刻まれ今が過ぎる。
この音あといくどで離れてしまう?数えかけた吐息に英二は微笑んだ。

―そんなに湯原と離れたくないんだ、俺?

君といたい、ひとり身勝手な想いだ。

だから昨夜も夢を見た、眠れぬ夜のデスクつっ伏して。
君のベッド倒れこんで抱きよせて、そんな身勝手な幸福の夢。

でも君はそんなこと想わないだろう?

『俺といてつまらないなら、もう無理して誘わないでいい、』

昨夜のベランダで君が言ったこと、あれは現実だ。
あの言葉は遠慮だろうか、それとも迂遠な拒絶か?

―無理しても誘って、って言ってくれたらいいのにな…湯原、

無理にでも誘ってほしい、それくらい求めてもらえたら?
どうしても一緒にいたいと君が求めてくれたなら、隣を願ってくれたなら、どんなに嬉しいだろう?

―それくらい誰かを求めたことあるのかな、湯原…最初が俺だといいのに、

ぱらり、ページ繰ってペンを奔らす。
想いめぐりながらも頭脳は刻む、ページごと映像化されて貯めてゆく。
こんなことからも思ってしまう、きっと「思考」と「感情」は別なのだろう?

―お祖父さんもだから検事を務められたのかな、同情に流されないでさ?

優しい人だった、真直ぐで誠実で。
あんなふうに自分もなりたかった、でも違う本性も自覚している。
この違いどこが「起源」なのか?解りたくない本音の肩ごし、かすかな汗におった。

「おい、宮田?」

※校正中
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黄葉点景:晩秋明滅

2017-12-19 23:10:14 | 写真:山岳点景
赤金色に黄金、秋の陰翳きざむ木洩陽。


近場の森は落葉の初冬、今年の雪はどうなるもんか?
撮影地:森@神奈川県2017.12

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secret talk50 独寝act.4 ―dead of night

2017-12-18 21:49:00 | dead of night 陽はまた昇る
孤独すら、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk50 独寝act.4 ―dead of night

オレンジが香る、酔う。

さわやかで甘い深い香、やわらかな苦み深く籠る。
この香ずっと抱きしめて眠れたら?願いに腕のなか身じろいだ。

「み、やたっばかやめろはなせよっ…」

押し殺した叫ぶ声、そんな声すら震えてさせる。
抱きすくめる肩こわばる震え、くゆらす香あまくて英二は微笑んだ。

「柔道の寝技だと湯原、ふつうに平気だろ?そんなに俺のこと嫌い?」

こんな言い方きっと狡い。
ずるさ責められても離せない体は温かで、香あまく濃やかになる。

「きら…とかそんなもんだいじゃないだろばかはなせっ」
「嫌いじゃないならいいだろ、抱き枕になってよ?」

笑いかけてシーツかさり鳴る、かすかな音に芳香あまい。
せまい寮室せまいベッド、この狭さが今は幸せだ。

「かってなこというなばかっ…教官に見つかったらなんていうんだ?」

小さく叫ぶ喉ふるえて触れる、抱きしめた腕に響く。
肌から伝わる温もり振動、なにもかも幸せに笑った。

「聴取の練習したまま寝落ちしたって言えばいいだろ、もう見回りは終わったけどな、」

だから安心して眠ればいい。
そうして共にしたい夜のシーツ、鼓動そっと響きだす。

とん、とん…

胸ふところTシャツ透かす、抱きこめた背中の温もり響く。
やわらなかなノックの体温しずかで、ただ幸せで、

ごつっ、

「痛…ってぇ」

鈍痛ずきり、脳天を抜く。
額から痛覚にじむ、肌あわい滴すべる硬い感触。
なめらかな鈍痛に開かれた視界、ほの白いデスク映った。

「…湯原?」

呼びかけ起きあがって、ずきり背中きしむ。
左腕も痛い、首筋まで痛む蛍光灯あわい部屋に英二は呟いた。

「俺の部屋…だな?」

隣室にいた、けれど自室のデスクに座っている。
狭い寮室どこも似たりよったり、でも匂いが違う。
一瞬前まで甘く深くオレンジ香った、けれど今は残り香もない。

「寝落ちしたのか…俺?」

ひとりごと蛍光灯ほの白い、照らされる机上にページ白む。
勉強したまま眠りこんだ、こんな自分の一睡つい笑った。

「ははっ…ドーテーかよ?」

眠れない煩悶、勉強まぎらす机で夢を見た。
その夢まるで欲求丸出し、隣室に行きたかった本能が眠りも支配する。

―そんなに好きなんだな、湯原のこと?

今も傍にいきたい、ふれたい、でも壊せない。

ふれたくて抱きしめたくて、抱きしめたいぶんだけ不安が揺れる。
触れて壊してしまうかもしれない、もう近づけなくなったら怖い。
そんな逡巡が自分にある、こんな臆病に肚底ふっと温かい。

こんな自分だなんて知らなかったな?

おかしな感動に笑って独り、デスクライトかちり消した。

※校正中
secret talk49 独寝act.3← →secret talk51

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花色写真:綿毛色、冬晴れ

2017-12-17 22:39:13 | 写真:花木点景
小春日和、山の陽だまり綿毛色


ここんとこ山に行けないので写真記憶で、笑
撮影地:御岳山@東京都青梅市奥多摩の山2015.12

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非公開のお知らせ

2017-12-17 13:30:00 | 掲示板&目次
連載中の小説ですが、下記カテゴリーは非公開or期間限定公開にします。
いつも楽しみに読んでくださる方、応援くださる方には申し訳ないのですが…

○創作短編
○創作短篇:日花物語(期限付公開/当日~半年未満)
○短編連作
○連載「Aesculapius 杜嶺の医神」&Aesculapius関連カテゴリー:奥多摩出身の青年医師・雅樹と山っ子・光一の物語
○不定期連載「Savant」:山ヤの文学生・馨と則之の物語
○P.S 花園より、想い束ねて:新宿駅の花屋・由希の物語
○Lost article 天津風:研修医・雅人と心臓病を抱える女子大生・佐保子の物語

ここは無料閲覧ブログサイトですが、
無料でずっと公開していると無断転載や盗作されやすい、ってデメリットがあります。
それでも無料公開で連載していた理由は、コメントやブログランキングバナー押しで小説の感想や支持率を知るためでした。

アクセス数は増加しているんですけどね、ソレに反比例してコメント&バナー押しは減少傾向です。
また検索ワードからしても盗作目的と思われるアクセスも増えています、著作権侵害お断りメッセージ入れているんですけどね、笑

それにgooブログ本体が勝手に広告を載せてくるようになったのも、ねえ?笑
コッチが書いた記事で広告収入を得ても、こっちには何の手数料もお礼のメッセージも戴けません。
毎日1,000どころじゃないアクセス数なら収入ソレナリ発生しているはずなんですけどねえ?
タダ働きみたいなコトはお断りです、笑

ソンナワケで無料公開する理由もなくなったかなーと、半分ほど非公開にします。
状況次第では非公開カテゴリーをまた増やすかもしれません。

○上記カテゴリーにつき、今後はブログUP公開しても数日以内で非公開にします。
○非公開にされた記事はコメントも非公開になります、が、本人は必ず読ませていただきますのでお声かけて頂けると嬉しいです。
○写真関係は今後も公開予定です(コピーされない制限対応の検討中です)

上記カテゴリー以外でも、文学コラム&小説カテゴリーは非公開を検討中です。
ここを開設した最初の連載「side story」関連も書き直し&限定公開も考えています。

ソンナワケでこの件につきご意見ほかありましたら、コメントなどでまたお声かけください。
サイト専用アドレスはtomoei420@gmail.comです。

ちょっと硬いカンジになっちゃいましたけど、すみません。
そして末筆にまた恐縮ですが…

いつもコメントくださる方、いつもバナー押してくださる方、温かい応援ほんとうに感謝です。
皆さんのおかげでここまで長く続けて来られました、こんなに長くとは自分でも思ってなかったんですけど、笑
長く読み続けてくださった方達にも感謝です、ほんとうにありがとうございます。
期間限定公開にはなりますが、また休憩一息ひととき遊びに来てください。




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紅葉点景:晩秋の光彩

2017-12-16 21:57:04 | 写真:山岳点景
秋に暮れる、木洩陽の午後。


近場の森は暮れる秋、もう冬です。
撮影地:森@神奈川県2017.12

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secret talk49 独寝act.3 ―dead of night

2017-12-15 22:26:04 | dead of night 陽はまた昇る
ひきこんで、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk49 独寝act.3 ―dead of night

零時が過ぎる、もう明日が今日。
その瞬間にオレンジが香って、黒目がちの瞳が自分を見た。

「みやた…なんできた?」

眠たげな声おだやかに深い。
真昼なら君こんなふうに話さない、この知らない貌に英二は微笑んだ。

「なんでって湯原、どういう意味?」
「こんなじかんに…なんで…おれのとこ?」

眠たい声が応えて、長い睫ゆるやかに瞬く。
眠気なんとか堪えている、そんな吐息に笑いかけた。

「さっき湯原が来てくれたから、」

君から来てくれた、今夜そのベランダの隣に。
自分の部屋に君が来た、そうして追いかけた隣室のデスクオレンジが香った。

「ん…たしかにぼ、いったけど…なんじ?」

さわやかな深い甘い香こぼれる、眠たい吐息ひそやかに香る。
この甘さ君は自覚しているだろうか?

―だったら罪深いよな?

心裡つぶやいて鼓動が波うつ、香あまくて惹きこまれる。
香の視線やわらかに睫おだやかで、こんな貌こんな時間に微笑んだ。

「0時過ぎたよ、眠たい?」
「ん…ごめんみやた、」

長い睫そっと伏せて、すこし厚い唇があくび零す。
あまやかな爽やかな香そっと頬撫でて、あまくて腕が伸びた。

「っ、」

一瞬、瞬きハンブンの衝動。
伸ばした掌シャツふれる、コットンの感触つかんで抱きこむ。

「み、やた?」

途惑った声ふところ深い、もう抱きすくめてしまった。
こんなにも自分の体は素直で、予想外で可笑しくて笑った。

「あやまるんなら湯原、抱き枕になってよ?」

抱きしめて、冗談半分のフリしても抱きしめ捉まえる。
これは男同士のふざけっこ、そんな仮面かぶって笑った。

「俺ほんとは抱き枕がないと眠れないんだ、あやまるなら一晩たのむよ?」

こんな願いごと図々しい、でも赦してくれる?

―ただ傍にいたいんだ、湯原、

波うつ鼓動、布ふたつ透かして響きだす。
Tシャツと白シャツ透って呼応する、脈うつ時間に小柄な肩ふるえた。

※校正中
secret talk48 独寝act.2← →secret talk50

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紅葉点景:秋樹影

2017-12-15 19:48:00 | 写真:山岳点景
木下闇に光陰、暮れる秋。


近場の森は爛熟晩秋、雪の便りが近づきます
撮影地:森@神奈川県2017.12

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secret talk48 独寝act.2 ―dead of night

2017-12-14 22:25:28 | dead of night 陽はまた昇る
ひきよせて、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk48 独寝act.2 ―dead of night

扉一枚、ひそやかな呼吸たどる。
またノックしかけた廊下、足もと光が射した。

「ぁ、」

起きてくれた?

明るんだ爪先、ドアの下ちいさな隙間こぼれる光。
あわい蛍光灯、それでも確かな光に目の前の扉そっと開いた。

ほら、オレンジが香る。

「…どうした宮田?」

もうジャージは脱いで白シャツ姿、低めた声そっと黒目がちの瞳が見あげてくれる。
長い睫ゆるやかな影は穏やかで、まどろみの気配に笑いかけた。

「ごめん湯原、起こした?」
「ん…なに?」

クセっ毛やわらかな頭かしげ見あげてくれる。
幼いしぐさ無防備に素直で、つい本音こぼれた。

「かわいい、」

こんな貌するんだ、よく見ておこう。
そんな本音つい見つめた真中、ちいさな口そっとあくびした。

「…ん…そんなこといいにきたの?」

オレンジ甘く香って瞳ゆっくり瞬く。
だったら眠いんだけど?そんな視線が見あげて、すこし小さな手がドアノブ握った。

「…がんかいったらみやた…」

オレンジの香あくびの声、そっと扉が閉まりだす。
その隙間がしり掴んで、さらりベッドランプの部屋に踏みこんだ。

「ごめん湯原、」

かたん、

後ろ手ひそやかに扉を閉じる。
背にした板戸一枚に聴覚を澄ませて、誰もこない部屋に笑いかけた。

「湯原、勉強つきあえよ?」

こんな時間、こんな誘いは非常識かもしれない?
それでも逢いたかった瞳が瞬いた。

「べんきょう…いまから?」
「うん、今すぐ訊きたいことあってさ、」

きれいに笑いかけて踏みこんで、デスクライト無断で点ける。
かちり、明るんだ蛍光灯にテキスト見せた。

「登山の運動生理学の本なんだけどさ、数値のあたり教えてよ?湯原は理系だろ、」

付箋のページ開いて笑いかける。
今さっき思いついた理由、ただの正当化だ?けれど眠たげな唇そっと開いた。

「…りけいだけどせんもんちがい…きかいかだから…でもせいぶつは」

あくびまじり応える声、いつもより幼く響く。
けれど起きているより饒舌かもしれない?まだ微睡むような瞳に笑いかけた。

「生物学も得意だろ?湯原なら応用で解ると思ってさ、」

デスクにページひろげて座りこむ。
我ながら図々しい、でも、だからこそ君に試している。

『いいなら…ね』

さっき君はそう言った、あの言葉は本音だろうか?
受入れられたくて知りたい想いの真中、長い睫ゆっくり瞬いた。

「…どうしてもいま?」
「うん、ダメ?」

問い返して笑いかけて、黒目がちの瞳ゆっくり瞬く。
首かしげたままデスク傍らベッドの隅、小柄な白シャツ姿は腰下した。

「…どこ?」

つぶやくような問いかけ、デスクライト黒髪やわらかに光る。
受入れてくれた、そんな隣人がページなぞりだす。

※校正中
secret talk47 独寝act.2← →secret talk49

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secret talk47 独寝 ―dead of night

2017-12-13 14:13:00 | dead of night 陽はまた昇る
ひきよせられて、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk47 独寝 ―dead of night

もう眠らないと、

わかっている、でもシーツの波に君が映る。
数分前に見つめた記憶、タオルの翳に籠らす声。

『…いいなら…ね…』

くぐもったような掠れた声、ちいさくて、けれど深く響く。
あの一言をつかまえたかった、でも君はタオル被ったまま言った。

『…もう寝る』

ぼそり一言、タオルの横顔そのまま出て行った。
すれちがいざまオレンジが香って、石鹸なまめく香に扉が閉じた。
そうして独り残された狭い寮室、まだオレンジが甘い。

「もう寝るって湯原…俺が寝らんないよ?」

ぱさん、寝返りの衣擦れどこか甘い。
君が話すたび香る甘い香、さわやかで深いオレンジみたいな匂い。
この香に自分がいつもどこを見ているかなんて、なにひとつ君は知らない。

―キスしたら甘いのかな、男同士だけど、

男同士だけど、なんて考えかけて可笑しい。
だって一度でも「甘い」なんて想ったろうか、この自分が?
いつもいつもそれなりでしかない、それでもそんな自分でも、そんな感覚が感情がある?

「…寝られない、」

ため息ひとりごと、吐息やたら甘い。
あまいオレンジの香ふる月光は洗い髪を艶めいた、その記憶が脈うちだす
寝ころんだベッド響きだす香と鼓動、ゆるやかに熱くなる肌の深く香あわだつ。

『帰りは宮田ほとんど黙ってた…』

声ふかく香りだす、肌の底ふかく声が波うつ。
かすれそうな小さな声わずかに揺らぐ、あれは君の不安だろうか?

―不安がってくれるなら湯原、どうでもよくはないよな?

どうでもいいなら、きっと君は来なかった。
点呼も終えた夜の時間、この部屋まで君は「ききたいことある」と訪ねた。
その前は、この部屋に現れた最初に君はなんて言ったろう?

『…おれもそっちいっていいか?』

ぎしっ、

スプリング軋んでベッドを降りる、素足に床がなまぬるい。
真夏の寮室ひそやかに扉を開けて、隣室かすかにノックした。

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