cj90kg
40の手習いで始めたウエイトリフティングも、もうすぐ5年。
やればやるほど自分の下手さ加減が鼻についてくる。
どうして本業のように行かないのかともどかしく思いつつ、
そのもどかしさがまた愉しくもある…
そんな日々を送っています。
時折「何でウエイトリフティングを始めたのか」と聞かれることがあります。
驚かれるかもしれませんが、私がウエイトリフティングを始めた目的は、ズバリ脊柱のリハビリです。
私の半生を振り返ると実に背骨の故障が多い人生でした。
14のころに初めての腰椎捻挫を経験し、
19歳で腰椎ヘルニアを発症、
知覚異常や筋力低下に苦しみつつ、なけなしの給料(なんと手取り8万円台!)をはたいて様々な治療を試す毎日。
22歳でとうとう体がもたなくなり退職。(身体が資本の仕事でしたので、続けられなくなってしまったのです)
腰下肢の症状はその後もくすぶり続け、
23?4?歳で今度は頸椎ヘルニアを発症。
左の腕の痺れに1年半ほど苦しみました。
そして治療に没頭し始めた25歳からの数年。
憑りつかれたように頭と腕を磨く日々を過ごし、
脊柱の故障に対する治療技術・治療戦略を獲得し、
症状を抑えることができるようになりました。
でも、
徹夜のデスクワーク(講義の資料作りやブログ、動画編集など)で無理が続けば腕や脚に痛みや痺れが顔を出すこともあり、
治療で辛うじてコントロールできているといったレベル。
『これが後遺障害というやつか…』
と、それ以上の回復を半ばあきらめていた自分もいました。
そんな感じで借金もないのに頚の回らない日々を送った30代。(あ、家のローンも借金か! 借金あったあった)
それが日常になっていたある日、事件が起こります。
家族旅行で伊豆の温泉に泊まった時のこと。
夜、息子と露天風呂に入りに行くと外は真っ暗。
どうやら通路の電灯が切れているようです。
そんなことは意に介さず、露天風呂めがけて突進する私。
露天風呂の入り口にはガラスのドアがあったのですが、
外の闇に溶け込んで全く気付かないまま突き進む私。
当然追突。
そして、しばし昏倒。
その姿がユーモラスだったんでしょうね。
まだ小学生だった息子は「大丈夫~?」とケタケタ笑っています。
心配させまいと「うん、大丈夫大丈夫!いや~参ったなぁ~(;^ω^)」と笑って見せます。
でも、全然大丈夫じゃなかったんですよね…
ドアに顔面からまっすぐに追突したその直後、両腕に結構な痺れが出ていました。
これ、実は危険なサインなんです。
その意味するところは、脊柱管の狭窄が頚髄に及んでいるということ。
つまり変形性頚椎症による狭窄症、しかも脊柱管が狭くなる中心型。
こうした状態で今回のような事故に遭うと、場合によっては頚髄損傷、程度が悪ければ死んでしまうこともありえます…
両腕の痺れは数週間続きました。
その間、手術の二文字が頭の中でぐるぐると回ります。
幸いいつものようにセルフケアを重ねる中で回復し、
不安を抱えつつも故障のインパクトも薄れ、
漠然とした不安を片隅に抱えつつも日常に回帰して数年。
そんなある日、
プロのソシアルダンサーの患者さんから
「身体の歪みを修正し、故障の再発を予防し、さらに身体を強化できるような、一粒で二度三度おいしいトレーニングやスポーツはないだろうか?」
そんな感じの質問を受けました。
それまでの私ならばサラッと受け流すような質問でしたが、どうしたわけかこの時の私はこの質問に固執してしまいます。
ソシアルダンスの場合を考えると、体幹部はまっすぐに保ちつつ
そのくせ内面では目まぐるしく、そして自由に連動させながら使われます。
重い手足を自由に操るために脊柱はまさに支柱として働きます。
その時、彼らはただまっすぐに固めてはいません。
神経と筋の作用で、いつでも、どのようにでも動くことができる自由度を手放すことなく中心軸を保ち続けるのです。
ここにグッとと来たんです。
私の背骨はその逆です。
故障部位のぐらつきを関節周囲の筋や靭帯等の支持組織を固める(拘縮といってもいい)ことで一応の安定を得ています。
しかし、目まぐるしく変わりえる日常動作に必要な動きも損なわれています。
治療では行き過ぎた硬さを取り除き、獲得した可動性を保持する程度の運動課題をクリアすることで症状を解消してゆきます。
故障した患部に機能を取り戻す作業を時に「バランスさせる」なんて言いますが、
思い返せばこのころの「バランス」した状態は、薄氷のようにか弱いバランスでした。
あっという間に元の機能障害に戻ってしまう。
そこには「強化」の二文字が抜け落ちていたんです。
そこに来てソシアルダンサーからのオーダー。
なにかひらめくものがあったんです。
さて、話を戻して。
頭の中で、まずクライアントさんが実施可能な条件をまとめます。
プロのソシアルダンサーの日常を考えると、
ダンスの指導と自身の練習の合間を縫ってのトレーニングとなるでしょう。
となると、短い時間で効率よく成果を得られるものでなくてはなりません。
そして、身体の歪みをただすには歪みが生じるストーリーの真逆をたどることが答えになります。
そもそも身体の「歪み=体制機能障害」は、同じ動作や姿勢のくり返しで生じたものです。
単一の姿勢や動作の中で関節を覆う軟部組織の伸張性にムラ(硬い・緩い)が生じ、
その結果として不良姿勢や関節の異常運動が現れ、それが長期にわたると故障へと発展するわけです。
こうした問題を解消するスポーツの条件としては
・各関節の持つ本来の可動性(個々人の個別性の範囲内の可動性)をくまなく使う運動であること
・全身の連動性を高いレベルで試される運動であること
・重力に対して効率よく適応する運動課題を含むこと
・上記二つの条件を満たしつつ、運動器や関連臓器を強化できること
・動作に緩急が含まれること
・楽しんで続けられること
が考えられます。
ざっくりまとめれば、
運動の中で固まって縮み込んだ部位にストレッチをかけられて、
緩んでしまった部位には支える能力を育んでゆき、
関節にも筋肉にも優しい「正しい身体操作」を学ぶことができる、
そんな要素を豊富に含んだ運動を選べばいい、ということになります。
さて何がいいかしら?
そんなことを常に頭の片隅に置いたまま過ごしていたある日、
TVで八木かなえさんというウエイトリフターの特集を目にしたんです。
それまでのウエイトリフティングのイメージは大きくて太った選手たちの力比べといったところでしたが、
TVの中の八木選手(当時はまだ高校生ぐらい)はチアリーダーのような体形で、
それでいて私の体重を超える重量をこともなげに扱っています。
その動作を見てハッとさせられたんです。
実に無駄がない。
見たところ関節を倍力機構として上手く使っています。
初動では大腿骨に第三の梃子(力の梃子)を働かせ、バーベルを膝上まで引き上げています。
・赤線は体幹の重心点から垂直に伸ばした線で、バーベルの芯(シャフト)と両足で作られる支持基底面の中心をつなぎます。
・第三の梃子(力の梃子)が働くのは大腿部、だと考えています。
・体幹の重心点、バーベルの芯(シャフト)、支持基底中心をつないだまま重りを引き上げています。
バーベルが腿まで挙がると今度はトグル機構(テコのような力を倍加するメカニズム)を発動させて
一気にバーベルを跳ね上げます。
・膝関節と股関節に二つのトグル機構を作り、双方が150度に達したあたりから一気に伸展動作を加速させます。
脛と腿の長さが等しかった場合、150度から2倍4倍8倍と伝わる力が倍加されてゆき、
175-180度の5度では約12倍もの力が生み出されます。
力が倍加するぶん移動距離は短くなりますが、トグル機構を発動させるスピードが素早いのでバーベルが浮き上がります。
バーベルが浮いた刹那、目にもとまらぬ速さで脚を折りたたみバーベルの下に潜り込み、
背骨を直列させたポジションでバーベルを鎖骨で受け取ります。
※あくまで当時TVに移っていた八木かなえ選手のフォームに対する感想です。写真はあくまで参考です。
そしてしっかりした足取りで立ち上がる。※あくまで当時TVに移っていた八木かなえ選手のフォームに対する感想です。写真はあくまで参考です。
ここまでの動作を見て、脊柱や下肢の関節が構造的に破綻するような無茶な位置に置かれることが全くない!
※八木選手のフォームであって写真の私のフォームではございません…写真はあくまで参考です。
素晴らしい!
この時、全身のムダ毛が逆立ったのを覚えています。
先のダンサーの患者さんへの答えが見つかった瞬間でした。
しかし、勧めるにしてもやったこともないものをすすめるのも気が引けます。
さらに、理屈を当てはめれば自分の身体にも相当大きな福音をもたらしてくれそうです。
これはまず、自分がやってみて、効果を確認してから薦めようということになりました。
ちょうどそのころ、スポーツトレーナーの友人が重量挙を含んだクロスフィットという運動プログラムを指導していたこともあり、
渡りに船とウエイトリフティングを始めたというわけです。
やってみてわかったことは、想像通り脊柱の健康に役立つスポーツであるということ。
ウエイトリフティングは重いバーベルをいかに少ない力で頭上に掲げるかを競うスポーツで、
重いバーベルを安定して動かすためには体軸の安定性と手脚の自由度が重要です。
重いバーベルを扱いながらも素早く動くためには身体をガチガチに固めるわけにはゆきません。
重さは骨組みで支え、
その骨組みを倍力機構として機能させるように筋肉が使われ、
その筋肉を高い出力で素早く瞬間的に操作するのに、高いレベルで神経の働きが求められる。
体軸は四肢のベースとして強くしなやかに安定し、四肢は大きく爆発的な運動を、
そんな役割分担がクリアに求められるスポーツなのです。
全身を駆使してどうやったら楽に挙がるか、その試行錯誤には効率的な身体操作を学び取るチャンスがちりばめられています。
無理なく無駄のない力の伝達は関節構造に則った動きにほかなりません。
つまり、故障しにくい身体操法を学ぶことにつながるわけです。
このシンプルな動作には、正常な姿勢保持と効率的身体操作に必要な
「柔軟性」も「支持性」も「神経制御」もすべてが高いレベルで含まれているなんて
そんな一粒で二度三度おいしいスポーツはなかなかありません。
いまではウエイトリフティングこそ、前述のプロのソシアルダンサーの患者さんに投げかけられた問いの最適解だと自信をもって言うことができます。
もちろんスポーツですから怪我もあります。
初めのうちはひどい筋肉痛を負うこともありました。
試技を失敗して捻挫や肉離れ、そんな怪我をすることもありました。
でも、もう30代のころのように頻繁に自分の首や腰を治療することはありません。
頚も30代のころでは考えられない程よく回ります。(ローンの残高が減ったからかも!?)
痺れに悩まされることもありません。
時折頑張りすぎてお釣りをもらうこともあったけど、総じてメリットの方が圧倒的に多かった。
でも、これは偶然でも不思議なことでもありません。
予想していた通り…いや、予想以上の結果です。
治療では足りない「強化:ストレングス」というピースがウエイトリフティングという運動にあったということです。
損傷して耐久性が著しく低下した患部を癒やし回復を導くにはケアが重要。
でも、慢性期に入ってなお取り戻せないほど患部の強度が落ちたなら、
今度は運動による強化が必要となるのはごく自然の道理です。
時期に応じた対応がなされれば、私たちの身体は思いのほかタフな回復を見せてくれるのです。
専門家として地に足がついていた30代の私をして「もう駄目だろう」と思っていた故障ですら何とかなるんですから面白いものです。
そう、面白いんです。
みなさんも一緒にいかがですか?
ウエイトリフティング、楽しいですよ!( ^^)
以上、「私がウエイトリフティングを始めたわけ」でした。