良かれと思ってやったことが…肩の痛みとチューブエクササイズの話

2014年08月19日 | 治療の話

肩の痛みの相談でいらっしゃったスポーツマンのAさん。

調べてみると「腱板損傷」という故障のようです。

ただ、腫れ(炎症)が落ち着いた後のようでしたので、初回から積極的に治療を始めることができました。

Aさんの肩の奥にある「腱板」が傷付いてしまった原因は、

肩関節(肩甲上腕関節)の前方へのグラつきでした。

これ、アンテリオグライドシンドロームって言うんです。

多くの場合、「棘下筋」という肩甲骨の後面についている筋肉がちぢみこんでしまうことで起ります。

Aさんの場合、「棘下筋」の緊張をコントロールするためのエクササイズを伝えたところ、

痛くてできなかった動きもできるようになりました。

エクササイズの効果は上々でした。

その様子から私は、『次回あたりから、筋力強化に移れそうだ』とほくそ笑んでおりました。 

しかし、2回目の来院時、Aさんの表情は優れません。

なんでも

「エクササイズで痛みが治まっても直ぐに戻って(再発して)しまう。」

とのこと。

さて、どうしたことか。

 

こうした故障が「治療」や「エクササイズ」への反応がいいのに治らない時、

だいたいは患部に無理をかけ続けてしまっているケースです。

ただ、本人も無意識にそうした動作を繰り返していることが多いもの事実。

けして悪気があってのことではないわけです。

 

そこを踏まえて、何か該当する出来事はないかと慎重にインタビューを開始する私。

すると、「ちょっとだけ泳いじゃった(^_^;)」とのこと。

 

初回の治療を終えたとき、

「まだスポーツはしないこと!」と釘をさしていたのですが、我慢できなかったようですね(^_^;)

これも良くあることです。

 

ともかく、「犯人はこれか!」ということになり

「肩を徐々に鍛えてから競技に戻ることが大事だ」ということを説明し、

「いまするべきこと」と「してはいけないこと」を説明した時です。

 

Aさん「チューブで肩を鍛えてるんだけど…」

と仰った。

「どんな方法ですか?」

と私。

 

すると、肘を90度に曲げ、小さく前にならえの姿勢からゴムチューブを外にひくジェスチャーをするAさん。

「それだ!!!!!」

と私。

その動作がいまのAさんの肩の状況を説明するのにぴったりだったんです。

どうやら「泳いじゃった」のは犯人ではなかったようです。

真犯人は「良かれと思ってやっていたエクササイズ」でした。

 

なぜそう断言できるのか?

ちょっと補足します。

 

Aさんの肩の痛みを治すためには、肩の前方へのグラつきを起こさせている

「棘下筋」を緩めなくてはいけないんです。

そして、エクササイズとしては棘下筋を「引き伸ばす」コントロールを取りもどす方法が必要になるんです。

なのに、みっちりと棘下筋を締めあげる運動を繰り返していたわけです…

これでは治る肩も治りません。(T_T)

 

Aさんがやっていたのは肩の外旋方向のチューブトレーニングです。

これは、肩峰下インピンジメントシンドロームのリハビリではとっても×2有名なエクササイズなのですが、

それが効くのは投球動作ならコッキングの時の痛みなんです。

コッキングって言うのは、大きく振りかぶって「いざ投げよう!」とした瞬間だとお考えください。

その時に生じる痛みの犯人は「肩甲下筋」といって、腕を(上腕骨)内に捩じる(内旋)働きを持つ筋肉なんです。

これが故障したときに逆の作用、つまり外捻じり(外旋)の動きを軽い負荷をかけつつ行うのは「マル」なんです。

そうすることで、肩甲下筋は過度な緊張を解き、周囲のインナーマッスルとの協調性を取りもどしてくれるわけです。

 

でも、Aさんの場合は原因となっている筋肉は「棘下筋」。

先ほどの「肩甲下筋」とは持っている作用が逆なんです。

イコール、Aさんにとって先のチューブエクササイズは悪化の原因に他ならない運動になってしまうんです。

 

「とってもメジャーで、優れた方法なんですが、Aさんの場合は逆効果になってしまいます。

 まず、そのエクササイズをやめましょう…」

と私。

まさか、どの本を読んでも出てくるようなメジャーな方法が足を引っ張るなんて、思いもよらないことだったでしょう。

良かれと思ってやっててことが裏目にでていたわけです。

勉強熱心で勤勉なAさんにまさかの落とし穴…

でも、解って良かった。

 

でも、同じケースってホント多いんです。

こうした落とし穴に陥らないためには

「肩の痛みにはこれ!」

といったタイトルを盲信せずに、「メカニズム」を理解して、自分の症状に合ったものかどうかをしっかり判断することが重要です。

「え!?そんな難しいことわかんないよ!」

って声が聞こえてきそうですが、ご心配なく。

そのために、私たちのような専門家がいるんです。

迷ったら気軽にご相談下さい。


オーバーユースシンドローム:いつも左の脚ばかり壊してしまいます

2014年08月17日 | コンディショニングの話

マラソンをこよなく愛するAさんは、かれこれ4年も前から左足の故障に悩まされてきました。

数か月トレーニングを重ね、タイムが上がってくると決まって左足が痛みだし、

そのせいで練習を数週間から1月ほど休まなければならず、

練習を再開した時にはまたタイムは振り出しに戻る…

そんなことを繰り返してきたと言います。

「オーバーユースシンドローム」ではよくあることです。

 

これには私もその昔、悩まされました。

結果として私はその競技を諦めたわけですが、

やっぱり、相当悔しかったんですね。

苔の一念ともうしましょうか、

今では、こうしたやっかいなスポーツ障害に対する解決法も

なんとか見つけることが出来ました。

こうして繰り返される「オーバーユースシンドローム」には、

マルユース(あやまった関節運動パターンの定着と考えましょう)が背景に居座っています。

 

ちょっと話が立て込んできそうなので、「なにがゆえに繰り返す」のか、整理してみます。

 

1、間違った関節運動(=ごく一部に物理的な負担が集まってしまう運動)が無意識で繰り返されることで

元気なところと疲労困憊するところのムラができます。

2、疲労困憊するところがいつもきまっているので、回復が間に合わなくなります。

3、回復しきれずに「ケガ」に発展します。

4、患部を休ませることで「ケガ」は治ります。

なので、痛みは治まるのですが、誤った関節運動パターンはそのままです。

競技を再開すると、傷付き弱くなった患部に再び「誤った関節運動パターン」による過度な物理的負荷が襲います。

5、再び怪我をします。

この時傷めるのは同じ個所の場合もありますし、別の個所の場合もあります。

それは、痛めた患部を守るために「かばった動き」=代償運動を繰り返すことで更なるマルユースに発展し、

今度は別の箇所にケガを生じてしまう、なんてケースもあるからです。

そうした例も特段、珍しいものではありません。

 

と、こうしたストーリーが成り立ってしまっているのです。

背景に異常運動があるために、「休養」や「運動量の調整」だけでは治らないことが多いのです。

対策としては、異常な動きを正し、患部にあった運動強度を選択して、丁寧にリハビリをすること!

それが出来てようやく、この「負の連鎖」から抜け出ることが叶うわけです。

 

Aさんの脚の故障は、ある時は膝のお皿周り(ジャンパー膝)、

またある時は脛の裏側(シンスプリント)

そしてまたある時は腸脛靭帯炎(膝外の鋭い痛みを伴います)と様々ですが、

壊すのは決まって左足なのだとか。

 

何でだろう?

 

ということで、色々とお調べになり、

私のYOUTUBEの動画をみてのご来院となりました。

有り難いことです。 

 

Aさんのお身体の動きを確認すると、

重心が少し左に寄っているようです。

そして左が向きやすく、右には向きにくい。

 

これって実はよくあるパターンなんです。

こうしたケースでは多くの場合、左にねじれた骨盤(左ト―ション)を持っています。

そして、筋緊張のパターンとしては、

右の半身は後脛骨筋・腸腰筋(特に大腰筋)の緊張が強く、(下図右半分に注目)

図版引用:アナトミートレインセカンドエディション トーマスマイヤ-ス著 医学書院


左半身では前脛骨筋から外転筋(とりわけ中臀筋や筋膜張筋)と内転筋が緊張し(共収縮:つまり拮抗する筋を同時に使って関節を固定しようとしているんですね)反対側の(つまり右)外腹斜筋づてに胸の下半分を左に引き込んでいます。

(下図の左足から右胸にかけての筋の配置に注目)

図版引用:アナトミートレインセカンドエディション トーマスマイヤ-ス著 医学書院

 

こうした状態では、走る際に左の踏み込みばかりが強くなります。

ですので、踏み込みの際にショックアブソーバーとなる

四頭筋や腸脛靭帯、そして後脛骨筋は過度に使われ続けることになります。

また、Aさんのように過度に左足へと重心を乗せた場合、

次の一歩を踏み出す際にはより強い力で地面を押さなければならなくなります。

そうした条件も上記の筋装置たちをオーバーユースに追い込みます。

こうしてAさんの脚は度々怪我を負うことになったのでしょう。 

 

では、対処はどうしたらいいのでしょう?

 

簡単なことです。

正しく身体が機能しない原因を探って解消して、傷付いた患部をまた鍛え直せばいいんです。

具体的には以下の3点に着目しました。

・痛めてしまった左下肢の正常なコントロールを取りもどす。(故障によって正常な運動が出来ないでいるからです)

・骨盤を含め、全身の右回旋の協調性を取りもどす。(故障の原因となる「左脚へ乗り過ぎる癖」を解消するための第一歩です)

・走行時の重心が左にばかり流れないようトレーニングをする。

(壊れずに走るための第2歩といったところです。先日紹介した「走るための体幹トレーニング」参照のこと)

 

あと、これがとっっっっても重要!!!!

 

「古川ルール」(笑)を理解し、

ルールに則ってリハビリを実施すること!

 

「古川ルール」というのは冗談ですが、回復期のトレーニングには外せないルールがあるのです。

そのルールとは、「患部の声」に耳を傾けること。

具体的な工程は以下の通りです。

 

痛めた場所に「違和感」を覚えたら、練習を中断

⇒関節機能を正常化するエクササイズ(治療の際にお伝えしたもの)を実施する

⇒A、「違和感」が消えるならば練習再開!以下、同じ工程の繰り返し

 B、「違和感」が消えない場合はそこで痛めた個所を使うトレーニングは終了!

 

【ポイント】

一度目のエクササイズの実施(違和感の出現)までの練習量や時間、

それから練習終了までの時間と練習量をメモします。

その後、練習を重ねる際に、一度目のエクササイズ実施までの時間が

「先送り」になったり、こなせた練習量が多くなっていれば

順調に回復していることが解ります。

 

逆に、短くなっていたら、練習量や強度が「痛めた患部」にとって過度であることが解ります。

その場合は、運動量・強度・休養のタイミングが適正なのか

もう一度練習メニュー全体の見直しをしてみましょう。

 

と、長くなりましたが、このような判断に則って「身体を練り直す」ことが出来れば、

オーバーユースシンドロームの負のスパイラルから脱出することは可能です。

 

陥りやすい誤りは、故障前のメニューをこなすことに躍起になることです。

大事なのは患部の耐久性に沿った運動強度を選ぶことです。

それには、なにを何KGで何レップ…といった指標は忘れてください。

弱っている患部が「もうお腹いっぱいだよ!」となったとき、局所に疲労を感じます。

これが前述の「違和感」の正体です。

でも、周囲の筋バランスが狂っているせいで追い込まれただけかもしれませんので、

いったん、関節機能を修正するエクササイズを行ってみるわけです。

完全に患部が疲労していたら、エクササイズ後も「違和感(だるさ)」は消えることはありません。

しかし、周囲とのバランスが取れることでまだ余力を残していた場合は、「違和感」は消えてくれます。

つまり、患部にとって最適な運動量まで、安全に追い込むための判断が出来るということなんです。

 

こうしたエクササイズは、通常一回の来院ごとに、一つづつ覚えていただきいています。

それにはちゃんと理由があって、

人間、一時に覚えられるのは3手までといいますので、

いっぺんにあれこれ伝えても家に着いた頃には忘れていることがほとんどなんです。

なので、一回の治療で一回のエクササイズの紹介となるのです。

もったいぶってるわけでも意地悪しているわけでもないのです。

 

ただ、Aさんは遠方からの来院で、繁く通っていただくことができないため、

いっぺんに5つのエクササイズの紹介をすることになりました。

普通は無理なのですが、どのエクササイズも私のYOUYUBEのページ

動画で紹介しているものでしたので、なんとかなるだろうということで…(^_^;)

いやはや、文明の進歩って素晴らしい!

 

次にあう時には、故障の心配もなく、楽しく練習できるようになっていることを祈っています。

 


走る方へ=体幹トレーニングお届けパート2=

2014年08月13日 | コンディショニングの話

前回に続き「体幹トレーニング」のご紹介です。

地面を捉えてから次の跳躍に向けての「支持脚側の股関節」のコントロールと

胸郭を中心とした体幹から下肢までの回旋のコントロールの向上にお役立て下さい。

1と2あわせて行っていただくと、かなり走り易くなることに気付きいただけると思います。

故障予防や回復期にもぜひ!

走るための体幹トレーニング=2=


「走る」方へ=体幹トレーニングの動画をお届け=

2014年08月08日 | コンディショニングの話

だいぶご無沙汰な更新ですみません。

走る方へおすすめの「体幹トレーニング」の動画をお届けします。

もちろん走らない人にもお勧めです。

私はバランスボールで、2分⇒1分30秒⇒1分と3セット行います。

ご自身の体力に合わせてご活用ください。

「走る」ための体幹トレーニング

※一応念のため、この方法は私のオリジナルです。


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