なんだか最近、
「変形性膝関節症は、膝をいじっても治らない!」(=×)
「膝をいじるなんてナンセンス‼」(=×)
「膝じゃなくて足首と股関節に手を入れれば治る!!!!」(=△)※()の中は私の見解です。
という意見が隆盛なのでしょうか!?
先日のセミナー会場でそんな質問(というか、「ホントにそうなん!?」という「確認」)を寄せられたんです。
トイレで…(-_-;)
きっと質問された先生も違和感を覚えてるんでしょうね。
だから、皆がいないトイレでこっそり質問されたんだと思います。
さて、この意見に対する私の判断は良いとこ3割の同意といったところ。
膝をきちんと評価しない若手の先生が増えそうなところを加味するともっと低い。
徒手医学によるアプローチは疾患名ではなく機能障害として個々の現状を読み解き把握し、それを元に治療を展開するものです。これは関節の変形を含め筋骨格系の機能障害全部同じスタンスです。
つまり、変形性膝関節症への治療のゴールは下肢機能の回復にあるのです。
3割の同意は「膝じゃなくて足首と股関節に手を入れれば治る!!!!」の「足首と股関節に手を入れる」の部分。
膝が壊れる背景要因のなかで股関節と足関節(足部も)の機能障害は膝のダメージに直結しますから、この2つの関節へのアプローチによる膝の疼痛緩和は比較的良く見られます。
疼痛や可動制限の要因に器質的要因が乏しいケース(ザックリ「変形まで至っていないケース」という理解でも構いません)なら、「足首と股関節」の操作でも十分切れよく決まります。
でもね…
変形して久しい膝は膝を取り巻く軟部組織にこってりたまったマイクロトラウマやトリガーポイントにも手を入れなければ、本当の意味での疼痛の解除や可動域の拡大(膝の)は難しいんですよ…(;´Д`)
もうすでに一般向けではない言葉選びですが、これを読んでいる若い技師さんに向けて、ちょっと細々書かせていただきます。
足首や股関節への手入れで活性化していた四頭筋やハムストリングス、膝窩筋などのトリガーポイントにある程度の不活化を得て痛みが和らいでも、局所に生じた繊維化などの器質的な変化は残ります。
そうした状態(器質的変化)は局所循環を妨げます。
ここに「痛みが引いたら今度は運動だ!」と運動刺激を与えると局所循環はすぐに破綻をきたしてしまい、痛みは出るはスパズムは生じるはトリガーポイントは再度活性化してしまうはで、すぐに痛みが戻っちゃう。(+o+)
よくよく日々の臨床で出会う「お母さん」(「お父さん」もあるけど女性の方が多いでしょ!?)の変形した膝を思い起こしてほしいんです。
膝を取り巻く軟部組織に累積したマイクロトラウマが「ラクダの瘤」みたいになってる人もいるでしょう!?
そうした瘢痕組織は循環だけでなく伸張性も乏しい固くてもろい組織になっているわけで、組織の伸張性が均質でない以上そこを支点とした運動が誘発されて関節はシェアリング(シェアリング=横づれ=関節の変形の立役者)し放題だし、固有感覚なんかも狂っちゃう。
関節の正しい位置情報が得られないままではリハビリとして「変形したなりの効率的な運動」を学習させるのに非っ常~に不利。
つまり、膝への手入れがすっぽり抜け落ちたら痛みの解除も頭打ち、機能訓練の効果も頭打ちになってしまう。
「膝の故障」であっても、「疼痛からの解放・機能の再獲得」を見据えて介入するにあたり、膝だけ診なくていいということはないんです。
荒廃の進んだ膝ならなおのこと膝への介入は外せないというのが私の経験を通じた答えです。
一次的障害が二次的障害へと波及した場合は、主訴が「二次的障害」でも一次的障害への介入が先行されるべきではありますが、二次的に発生した障害も経過が長くなるにつれ器質的な変化を強めてゆき、ついには一次的障害として振る舞いだしてしまう。そこまで成長してしまうと、一次的障害を解除しても二次的障害は解消されません。逆に本来二次的であった部位からの影響で解除したはずの「一次的障害」が戻ってしまうことだってある。
もっと言うと、
筋骨格系への治療では「疼痛への対処」と「背景への対処」が同時進行でバランスよく成されることが重要で、そうした観点からいうと、膝という患部にに生じたトリガーポイントなどの処置と並行して種々の背景要因への対処もしなくてはなりません。
これを東洋医学では表本同治といい、まっとうな治療の条件としています。
それをするには身体全体を俯瞰してみてゆかなければなりません。
痛みという表在的な問題と、その痛みが生じてしまう条件を、目の前の患者さんの在りようから診てとるんです。
例えば、姿勢からの力学的な影響を考えて胸郭や頭の位置異常、そしてそれらを定着させている機能障害にも手を入なければならないでしょう。
不良姿勢に適応を示した上肢(突き出た肩、伸びない肘)によるトルクが逆に体幹へと影響を与えるケースだってあります。
その上肢の支持筋膜(肘は屈側・肩は伸側の緊張亢進)のインバランスから筋膜連結伝いに緊張が下肢へ波及※した結果、下腿を回旋させたまま固定し膝から動きを奪っていることも珍しくはありません。
※腕橈骨筋から上腕二頭筋をたどり、対側の大腿二等筋、長腓骨筋へ緊張が波及し、下腿の内旋制限から膝が曲がらなくなるのは比較的良く診る例です。
私たちの身体は五体全体で一つの機能単位として有機的に繋がりあって働きます。
だから、膝も身体全体も包括的に診なくてはならないんです。
やるべきことは下肢のみ腕のみでは収まらないんです。
質問者のニュアンスから察するに、私の訴えていることに近い(筋膜を介した遠位体節のリンクを匂わせるような)話を、変に煽ったキャッチコピーで宣伝している人がいるようです。
「これだけで治る!」とか「これを知らないから治せなかったんだ!」
といった訴求効果の強い言葉を並べているようですが、少なくとも本当に重度の変形性関節症の患者さんを診ていたら言えない言葉も踊っているようです。
まだ臨床に自信が持てない歴の浅い先生だと引っ張られてしまうでしょう。
そうした宣伝手法は同業の先生方の眼は集められるでしょうけど、その先の患者さんにちゃんと目が向いてない点に不快感を感じます。
内向きで商売っ気の鼻に付く話でしたので、なんだか残念な気分です。
そうした不確かな情報に振り回されないためには、一つ一つの現象の仕組みを理解することと、日々の臨床から学ぶ姿勢を持つことだと思います。
情報の氾濫している今だからこそ、手に入れた情報の真偽を見極められる力が試されるな…
と、そう考えさせられる一件でした。