今日の明け方、タイトルのような朗読を聞いていた。名剣士の物語であった。老いという問題が差し迫っていた。どうだ?おめぇだって人ごとではないだろう?というわけである。誰しも、過去の栄光にすがりたいというのは実によくわかる。しかし、もう鈍った身体は言うことをきかない。酒と自堕落な生活はオノレを孤立に追いやってしまう。もっともボキは剣道もなにもやったことがないけど。
今のボキの生活ではないか。(_ _ )/ハンセイしつつ、ベッドの中で聞いていた。不仲な妻女が最後に助太刀に来るのが泣けた。さすがに、日本の女性である。こういうふ妻女は日本にはもういないのだろうから。
残月というのは、剣道の極意なのだろう。攻め一方の武道では確かに一瞬の隙ができるのかも知れない。助太刀が来たことを知ったときに、一瞬仇討ちの相手が隙を見せる。一撃の必殺技「残月」がその時に相手の首をとらえる。油断である。中年になって動きもままならない主人公がもはやこれまでと覚悟したからこそ、出来た技である。
構成の巧さもすばらしい。最後に妻女が出てくるのは、ちょっといかがなものかというコメントもあるが。それはそれで中年の夫婦の妙であるとボキは思うから。それもあるだろうと感じたからだ。
それにしても藤沢周平の秘剣シリーズには楽しませてもらっている。それに亡母の山形師範学校の後輩が藤沢周平だからなぁ。
柳生流でいう霞の太刀の構えから繰り出す攻撃的な刀法「花車」(かしゃ)とか、無外流の秘伝「風籟」(ふうらい)、動けば必ず先を取る「雷刀」、吹く風を待つように相手の仕掛けを待ち後の先を取る「風刀」。陰流に伝わる刀法で、燕飛、遠廻,山陰、月影、浦波、浮舟の六つの太刀からなる「燕飛の太刀」。秘伝「竜尾返し」、秘太刀「石切り」、秘剣「流水」、極意「小車」、秘剣「雷(いかづち)切り」、一人相伝の隠し剣「鬼の爪」、秘剣「鬼走り」、秘太刀「馬の骨」、盲目の剣士が創剣した「谺(こだま)返し」、敵の剣の中に隙があらわれるのを「寝モヤラズ待ツ」秘剣「残月」、後の太刀に必殺の技を秘めるだまし剣「かげろう」、座ったまま斬る秘剣「蟇(ひき)の舌」、直立した剣の陰に、己が片眼の光を隠す秘太刀「隻眼崩し」、「闇夜ニ刀ヲ振ルウコト白昼ノ如シ」という暗殺剣「虎の眼」、厳冬の道場で七夜にわたって伝授される秘剣「芦刈り」、眉のあたりに光芒をはなつ上弦に構えた「弦月剣」など。秘剣「村雨」のなかの闇夜一寸という受け技は、「眼をつむっていても一寸の闇を切る」。
マジに、いろいろあるのだ。こんなにタノシイものはない。全部受けの秘剣である。
ジジイになったら、受けの人生であるからだ。攻めることはない。もう遅いのである。そう、もう遅いのだ。
いつ死んでも不思議ではないからなぁ。ある意味、悟りでございますよん。
わははっははっはははっはははっははっははは。
孤立剣残月:藤沢周平:原作 松平定知:朗読
登場人物
小鹿七兵衛 15年前に上意討ちで手柄を立てたが、今はその弟から果し合いの申し出がくる。
高 江 小鹿七兵衛の妻
鵜飼半十郎 小鹿七兵衛が討った鵜飼佐平太の弟で七兵衛に果たし合いを申し出る。当時12歳、今は27歳。
あらすじ
15年前に上意討ちで手柄を立てた小鹿七兵衛。そのことで英雄ともてはやされ、また七兵衛から武勇伝の話を聞きたい同僚の誘いで茶屋遊びを覚えた。
その後武勇伝の話の誘いがなくなっても茶屋遊びが続き、また女クセが悪いという噂を立てられ、その後は妻からも疎んじられている。しかし二人は、世間体を気にして離縁しないでいる夫婦であった。
15年前の上意討ちで切られた鵜飼佐平太の鵜飼家は廃絶となり、当時12歳の弟は他家へ養子に出た。
その弟は今では27歳となり帰国することとなったこと、そして帰国後は七兵衛に果たし合いを申し込んでくるという話を知らされた。
鵜飼半十郎の果し合いの申し出に焦る七兵衛は何とか果し合いをやめさせたいと思い上役や同輩に懇願する。
七兵衛は、藩命で鵜飼半十郎を討ったのであり、果し合いは筋違いであるなどと、上役の取りなしを頼んだり、朋輩に助太刀を頼んだりしたが、いずれも不首尾に終わる。
こうなれば、果し合いを受けねばならぬと剣の稽古をしてみるものの体が鈍っている。
鵜飼半十郎は帰国後すぐに七兵衛の上司の政敵である家老の許可を得て果たし合いの申し出に及んだ。もはや自分しかないと悟った七兵衛は秘伝「残月」の技に賭けて果し合いの場に向かう。
果し合いが始まると七兵衛の劣勢は明らかで次々と傷を負い、果し合いは鵜飼半十郎がとどめを刺す場面となる。
その時、誰かが走ってくる姿が見える、「来るな」と叫ぶ七兵衛の声に鵜飼半十郎が振り返る一瞬のスキを逃さず七兵衛は半十郎を秘剣残月で仕留める。
駆けてきたのは七兵衛の妻であった。
発行形態 : NHKCD:NHKラジオ第一放送「特集 藤沢周平を読む
放 送 日 : 2004年8月 時間60分
初出詳細 :オール讀物1980年3月号