3学年だより「反復」
私立一ノ瀬学園に通う、秀才の唯我成幸(ゆいがなりゆき)は、きわめて限られた生徒にしか与えられない特別VIP推薦を獲得するために、日夜勉強に励んでいる。
ある日唯我は、学園長に呼びだされ、学園長の指名する生徒の教育係になるという条件付きで推薦を認められることになった。
その唯我が面倒をみることになった一人、武元うるかは、スポーツ特待生で勉強は苦手。とくに暗記が苦手だ。「とにかく手で書いて、声に出して、耳におぼえさせて、英単語覚えろ!」と指示されやりはじめるものの、すぐにあきてしまう。
「お前どんだけ集中力ないんだよ!!」
みかねた唯我が大声で叱りつける。うるかが泣き言を言う。
「うう… つらいよう… 勉強って全然楽しくないんだもの… あのさ、こういうのってさ… まず英語の楽しさとか そういうの先に教えてくれたりしないのかなーって…」
~ 「 ねぇよ そんなもん
「できない」奴にとって 勉強は辛くて当たり前なんだ
「できない」まま楽しくなるなんてありえない
「できない」なりに地道のコツコツ積み重ねて
少しずつできるようになって初めて
「楽しさ」が生まれると俺は思う 」
(筒井大志『ぼくたちは勉強ができない』集英社Jc) ~
「武元だって、たしか、始めから水泳好きだったわけじゃなかったよな…?」
と言われ、うるかは自分の幼い頃を思い出す。
親から言われ水泳を始め、思ったように泳げなくて、悔しさをバネにひたすら練習していたころ。
そしてある時から急にタイムが伸びるようになって、楽しくなってきたこと。
どれだけでも泳いでいられる今の自分とは全くちがっていた昔。
そっか、勉強も同じだ。まず繰り返しやって体で覚えなきゃ…。
同じことばかり繰り返していた幼い日々が、誰にもあったにちがいない。
同じ絵本を繰り返し読む、同じおもちゃで遊び続ける、同じものばかり食べ続ける…。
幼いころの反復作業は、脳の命令で行われている。
「いい加減やめなさい」と親に言われるほど同じ行為を繰り返しながら脳は形成されていく。
同じことばっかりじゃつまんないと思ってしまう今よりもずっと、同じことを繰り返すことができた昔の方が、脳は成長していたのだ。
実は今のみなさんの脳も、反復が好きだ。たんたんと同じ作業を繰り返すことで、脳内はどんどん改良されていく。メンタルの強い人ほど、反復練習を厭わない。トップアスリートやトップアーティストが、毎日どれほどの反復練習をしているかを見ても、それはわかる。