学年だより「ジグソーパズル」
「トレイルランニング」という競技がある。「山岳マラソン」と訳されることもあるが、オフロードのコースを長く走ることを広くこう呼ぶのがふつうだ。
その最高峰のレースは「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」。100マイル(約160㎞)の山道を一昼夜かけて寝ないで走り続ける。
その名のとおり、ヨーロッパの名峰モンブランの周囲にコースが設けられ、標高2500m級の山を10個分ほど上り下りすることになる。
トレイルランナーにとってはあこがれのレースだが、資格をクリアした上級者しか参加できず、それでも完走率は3割を切る年もあるという。
冷静に考えたなら、フルマラソン4回分を、山岳地帯で、休まずに走り続けるレースというのは、私たちからすれば、「あのぉ…、あたまおかしくないですか?」と聞きたくなるレベルではないだろうか。このレースに6回出場し、2009年には世界3位となった鏑木毅氏は、50歳を間近にひかえた今も、プロのトレイルランナーとして活躍している。
~ 100マイル(約160キロ)を完走するためには、膨大なトレーニングが必要です。毎日同じようなことを繰り返しているように見えて、実は、一個一個の練習に意味があります。
ジグソーパズルのピースが一つでも欠けるとパズルが完成しないように、一見無意味な反復動作であっても、それぞれきちんと意味があって、ムダなトレーニングは一つもない。どんなに忙しい状況でも、細切れの時間を使って小さなピースを積み上げ、少しずついろいろな形ではめ込んでいく。アスリートはそういう作業を延々と続けているわけです。
毎日同じことをしていると、どうしてもマンネリ化して、自分自身を見失うような状況が必ず訪れます。「いまやっているこれは、本当に意味があるのか?」という疑問が沸き起こり、「このままで目指す到達点に近づけるのか?」「ずっと停滞している、むしろ落ちているんじゃないか?」という不安と闘いながら、それでも気持ちを奮い起こして、自分を追い込んでいかなければ、トレーニングの絶対量を積み上げることはできません。
たとえば、朝起きて40分間自宅のトレッドミルで走る。それだけ取り出してみたら、どんな意味があるかはわからないかもしれない。でも、毎日そういう一つひとつのルーティンを確実に積み上げることで、どんどん上がっていくイメージを持たないと、モチベーションは保てません。 ジグソーパズルをイメージしているのは、大小さまざまなピースを一個ずつはめ込んでいくことで、着実に完成に近づいていると実感できるからです。 (鏑木毅『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』実務教育出版) ~
朝起きて、顔を洗い、電車に乗って、学校に向かう。スクールバスを降りて、おはようと声をかけ、1時間目から6時間目まで授業を受け、着替えてグランドに向かい、へとへとになって帰宅し、夕食、入浴、復習、予習 … 。小さなピースを集め続けて、高校生活ができあがっていく。