水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

「富嶽百景」の授業(10) 三段落 第三場面

2016年02月29日 | 国語のお勉強(小説)

 

 三段落〈 第三場面 御坂峠 〉 

 

 十月の半ば過ぎても、私の仕事は遅々として進まぬ。人が恋しい。夕焼け赤き雁の腹雲、二階の廊下で、一人煙草を吸いながら、わざと富士には目もくれず、それこそ血のしたたるような真っ赤な山の紅葉を、凝視していた。茶店の前の落ち葉を掃き集めている茶店のおかみさんに、声をかけた。
 「おばさん! あしたは、天気がいいね。」
 自分でも、びっくりするほど、うわずって、歓声にも似た声であった。おばさんはほうきの手を休め、顔を上げて、〈 不審げに眉をひそめ 〉、
 「あした、何かおありなさるの?」
 そうきかれて、私は窮した。
 「何もない。」
 おかみさんは笑い出した。
 「お寂しいのでしょう。山へでもお登りになったら?」
 「山は、登っても、すぐまた降りなければいけないのだから、つまらない。どの山へ登っても、同じ富士山が見えるだけで、それを思うと、気が重くなります。」
 私の言葉が変だったのだろう。おばさんはただ曖昧にうなずいただけで、また枯れ葉を掃いた。


 場面  場所  御坂峠
      時   夕暮れ時
     人物  私 おかみさん


Q41「不審げに眉をひそめ」たのは、なぜか。
A41 突然、興奮した声で話しかけてきた「私」の真意がわからなかったから。

   私   仕事が進まない 人恋しい
      ↑
 おかみさん 理解者 やさしい

 

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