水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

胸をはる(2)

2021年03月03日 | 学年だよりなど
3学年だより「胸をはる(2)」


 映画「ホリミヤ」は、同じ教室にいて全く接点がなさそうな二人の男女高校生が、いつしか心を通わせていく様子を描いている。
 宮村くんは、典型的な陰キャ。顔を覆い隠す長髪、毎日学ランを着て登校し夏でも脱がない(脱げない事情があるのだが)。休み時間は一人で過ごし、自分から誰かに声をかけようとはしない。
 同じクラスの掘京子さんは、眉目秀麗で勉強もできて気立てもいい、キラッキラな女子高生だ。
 全く接点のなかった二人だが、迷子になった堀さんの弟を宮村君が助けたことをきっかけに、仲良くなる。宮村くんは、弟くんにせがまれて、堀さんの家に遊びにいく。
 彼女の家は、普段は両親が不在で、弟の面倒や家事の一切を担当するのが堀さんだった。
 学校とはちがい、すっぴんでエプロンをして台所に立つ宮村さんを見て堀君は驚く。
 あちこちにピアスをつけロックなジャンパーで訪れた堀くんに宮村さんも驚く。
 二人が学校でも時折会話するようになったある日、宮村くんの唯一の友人から、「おまえ、堀さんとつきあってるのか?」と尋ねられる。
 宮村は「そんなわけないだろ、第一おれとじゃ釣り合わないじゃないか」と答える。
 その言葉を耳にした堀さんは、宮村に詰め寄る。
「ねぇ、ほんとにそんなふうに言ったの? おかしいよ、そんなの。自分のことつりあわないとか、二度とそんなふうに言うんじゃないわよ!」
 「おれとは釣り合わない」――。彼女は自分よりもヒエラルキーのはるか上だから、というようなニュアンスで、堀くんは言ったのだ。
 謙虚な態度と言えなくもないが、普通に友人として付き合っているつもりの相手が、そんな感覚だったと知ったなら寂しいにちがいない。

 堀くんの気持ちも理解できる気はした。
 長く生きていると、すごい人に出会う。
 何をとっても自分はかなわない、足下にもおよばないと思えるような人に。
 その才能、実績、仕事能力、性格のよさ、スタイルのよさ、えもいわれぬオーラ、それらを鼻にかけない態度、周囲から慕われる様子……。
 それに比べて自分はどうだ、すべてが劣っていて、追いつけることなど一つもない。
 そう感じると、仮に仲良くなれても、「仲良くしてくれてるのは、きっと表面だけにちがいない」などと考えてしまう。
 しかし、その考えは相手に対して失礼だ。
 そういうふうに人と付き合う人と、見なしたのだから。
「あいつ暗いし面倒くさそうだから、話しかけねぇよ」と扱われている宮村くんを、堀さんは学級委員だから仲良くしてあげたのではない。
 弟と遊ぶ時の、学校ではみせない優しい感じに、惹かれていくものを堀さんは感じていた。
 キラキラJKではなく、エプロンをして夕飯の支度をする堀さんに、宮村君も心惹かれていた。
 堀さんはけっして、宮村くんを相手して「くれてる」わけではなかった。
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胸をはる

2021年03月02日 | 学年だよりなど
3学年だより「胸をはる」


 進路が決まって晴れ晴れして明日を迎える人、発表待ちで不安な人、思うような結果が出なかった人……。「卒業おめでとう」という言葉を素直に聞けない状態の人もいるかもしれない。
 「悔しい」とは、どういう感情だろうか。
 それほど悔しいのは、十分な努力をしてきた実感があるからではないか。
 だとしたら、結果に関係なく、今までやってきた自分に自信をもとう。
 E判定で受かる人もいれば、A判定で不合格になる人もいる。
 それが受験だ。それはわかっていて、チャレンジした。安全校だけを受ける選択はしなかった。
 最後まで逃げなかった自分を誇っていいはずだ。
 もしかしたら、努力が足りなかった、やるべきことをやりきれなかったと感じている人もいるかもしれない。その場合は、悔しがる必要などないではないか。
 いさぎよく負けを認め、次に向かうだけのことだ。
 スポーツの大会でも、負ければふつうは悔しい。
 最初から負けるつもりで臨んでいるわけではないから、負けて悔しいのはまちがいない。
 ただし、たまに見かけるように、銀メダルを首にかけないのは間違っている。
 それほどに相手を見下していたということであり、負けてなお相手に敬意を表すことができないのだから。
 「ほんとに勝つべきだったのは自分たちだ」というアピールにしか見えないから、勝てない本当の原因は、その人間性にあったのだろうと事後にわかってしまう。
 うまくいかなかったときに、「ふがいない自分」「だめな自分」アピールして落ち込んでみせるのは、言い方は厳しいが傲慢な態度とも言える。
 その人が何かにチャレンジしている時、純粋にその人だけが努力しているのではないからだ。
 その人がチャレンジできる環境を整えている人がいる。
 支えてくれる人がいる。一緒に戦った仲間がいる。指導してくれた人もいる。
 すべての責任は自分だと、自分だけをせめて落ち込んでみせるのは、周囲をないがしろにしているといえないだろうか。
 結果が残念なのは君だけではない。君が頑張っている姿を近くで見てきた人ほど、心はつらい。
 自分だけ悲劇の主人公になっている場合ではない。
 15秒落ち込んでいいけど、すぐに立ち上がろう。ロッキーのテーマが聞こえてくるはずだ。
 この3年間に胸をはって、明日を迎えよう。
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自分編集力(3)

2021年03月01日 | 学年だよりなど
3学年だより「自分編集力(3)」


 サークルやアルバイトも、深く掘って取り組むと、自分の血肉になる。
 一昔前、アルバイトは働いたうちに入らないと言う人もいたが、職場によってはアルバイトが現場を回している今の時代においてはあてはまらないだろう。
 アルバイトさんが、お店のクローズやレジ締めをここまで任されている国は、そうそうないのではないだろうか。アルバイトでも、取り組み方によっては、自分を成長させる経験になる。
 ただ一つ心配なのは、みなさんが「イイヤツ」である点だ。
 あいさつもできるし、事務仕事もこなせる、がんばりもきく。
 バイト先では重宝されることだろう。そんな若者を上手に使ってやろうとする大人たちが世の中にはうようよいる。「ブラックバイト」は現実にある。「インターンシップ」なる言葉で若者をつり、純粋にただ働きさせるだけの会社もある。きわめて巧妙に行われている。
 何か困ったときは、だいたいの場合は普通の大人(まずはお家の方)に相談すると解決できる。 公的機関に相談してもいい。友達同士だけでなんとかしようとするのは危険だ。
 失敗したとき、落ち込んだときは、他人に相談する。
 極力自分とは違った種類の人間に相談できるといい。
 さらに有効なのは、本を読むことだ。


~ 落ち込んだ直後には、必ず本を読めば復活することができます。
 読書家にとっては落ち込む経験は、読書する楽しみが沸々と湧いてくるチャンスをゲットしたようなものです。
 落ち込んだ時、うまくいかない時、孤立無援の時こそ深く本を味わうことができるのです。
 あらゆる本は複雑な人間関係の悩み事を紐解いていくために存在します。
 悩み事なしで読書をするというのは、地図なしで宝探しをしているようなものです。
 明確な悩み事があれば、すでに精度の高い地図を手にしているようなものですから、運命の言葉に出逢う確率も高くなります。
 本には、世界中の人類の叡智がすべて盛り込まれているからです。
 こうして見てくると人生には2通りの時期があることに気づかされます。
 人間関係で悩める時期と悩まない時期があるのではありません。
 読書できる幸運な時期と読書できない不運な時期があるだけです。
    (千田琢哉『新版 人生で大切なことはすべて「書店」で買える』日本実業出版社) ~


 自分の経験にプラスして本や映画で広く世の中を知り、いろんな価値観に出会い、ときには理不尽や不条理に身をさいなまれる思いをすること、それこそが正味の経験だ。
 すると、一般的に「価値ある」とされているものに対しても、「本当か?」という見方ができるようになる。
 「あいつの大学の方が少し偏差値高い」とか逆に「自分の方が上だ」とかいう感覚が、いかに表層的なものであるかがわかってくる。 自分を変えるのは勉強と経験だ。
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