今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

道を尋ねられる男:その正体

2009年10月24日 | 

先日、初めて訪れた松阪市内を歩いていたら、
前方から徐行してきた尾張小牧ナンバーの車が止まって、
助手席から女性が、市民文化会館の行き先を尋ねてきた。

私は旅先で歩いていて道を尋ねられることがよくある。
ざっと思い出しても山梨県南アルプス市、福井県三国町、
兵庫県明石市、そして三重県松阪市…。
先の二箇所で尋ねてきた人は地元ナンバーの車だった。

わが居住地の東京と名古屋でも道を尋ねられることはあるが、
旅先というのは、旅の恰好をして、きょろきょろして、たいてい観光マップを手にしており、
どうみても地元の地理に詳しい者の姿でないはず。

それでも道を聞かれやすいということは、私のかもしだす雰囲気が、
いかにもこの付近の道に詳しそうな、自信たっぷりの様子で歩いているからだろうか。
いや、まず思い当たるのは、悲しいかな、いつも一人で歩いているから。
確かにラブラブのカップルや楽しそうなグループに道を聞きにくい。

一人でいる女性なら…、おそらく尋ねない。
尋ねる前に「地図の読めない女」という書名を思い出すだろう。
ただし、家族が旅に出て一人でいる女性に、遠方からやってきた中年男が道を尋ね、
女性の不得要領の説明から、二人の永遠の愛が始まるという
『マディソン郡の橋』のパターンもありうるが。

私が旅先で道をきかれる、もうひとつの理由として、
私は初めての地でも地元の人しか歩かないような裏道を好んで歩くためでもあろう。
確かに、小さい時から地図が好きで、その後も山が好きになり、旅と街歩きが好きだから、
地理には詳しい人間でありたいと思っている。
だから、私が旅先で地理に詳しそうな雰囲気を出しているとしたら、
それは自分の理想の姿を演じていることになる。

そう、私は、旅先では、思わず自我理想を具現しているのかもしれない。
私自身が旅先で、道がわからなくなっても、決して人に道を尋ねないからだ。
つまり、私は「道を聞かれる男」であっても、決して「道を聞く男」にはならない矜恃がある。
地図が好きな私は、自分が「道を知らない男」に堕すことを決して受入れることが出来ないからだ。
私は、男というジェンダーに必要以上にこだわる人間ではないが、
その私でも「道を知らない奴」というのは”男”として受入れられない。

もちろん、実際には初めての地で私の頭の中に正確な地図ができているわけではない。
私ができないのは、道を知らないことに恥じることなく他人に道を聞くこと。
道を見失っていながら道を進んでいるということは、
漂流船の船長のごとく、絶対他人に知られたくない恥なのだ。
自分が進むべき道を他人に尋ねるという依存性が容認できない。

だから、実際に道に迷った時も、通行人に尋ねることはせずに、
自分で四苦八苦して道を探すことを選ぶ。
どんなに苦労しても、正しい道は自分で見つけだす。
道に迷い続ける時間的損失があっても、わが恥を人にさらすことを回避できるからだ。

ここで、最初の話に戻ると、
かくも「道を知らない男」を受容できない私に、あちこちの旅先の地で、
私を選んで道を尋ねてくる人が行く手をふさぐのだ。
これは、神が与えた試練、いや意地の悪いいたずらか。

自分の行き先がわからなくなっても、わかっているフリを通すことは容易だ。
でも、自分が行ったこともない場所のルートを質問され、
その場で解答を求められるのだ。
これは絶体絶命。

「道を知らない男」に意地でもなれない私は、
「地元の者じゃないので、わかりません」とは言いたくない。
それは相手に対する親切心ではなく、自分のアイデンティティのためだ。
そもそも、初めての地に地図も持たずに歩くという愚行を、
「道を知らない男」に堕す危険を、
この私がするわけがない。

観光地なら、たいてい観光マップを手にしている(しかも数種類)。
その観光マップをちらりと見て、地元の人間のような顔をして、
「あ、それならこの道を…」と指で示しながら道を教える。
松阪の市民文化会館への道も、丁度道路の向かい側だったこともあり、
いとも簡単に教えた(三国町で「一番近い酒屋」という難問を尋ねられた時は、さすがに降参した)。

観光マップのない、普通の市街地ならどうするか。
たとえ地元の都市(東京・名古屋)でも、歩き慣れない地を行く時は、
私はハンディナビ(GPS)を携帯する(今使っているのはGARMIN社のnuvi250)。
東京・六本木で道を聞かれた時は、そのナビをonにしていたので、
相手の行こうとしていた先を「そっちじゃない方がいい」と躊躇なく別の道を案内することができた。

もし皆さんが旅先で道に迷い、そこに自信あり気な私と出くわしたら、遠慮なく道を尋ねてほしい。
ただし、私の手に観光マップかハンディナビがあることを確認してから。