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逃北 能町みね子

日常生活の中で心のリセットとかリフレッシュとか気分転換がしたくなった時に旅行をしたくなるのは一般的だろう。そこでどんな旅をチョイスするか、有名観光地に行って非日常を楽しみたいか、暖かい南のリゾート地に行ってのんびりしたいか、これといった観光スポットもない寒い北に行きたくなるか。著者は北へ行きたくなるという。本書は、その著者がこれまでに旅行した北での出来事や考えたことを綴った紀行文。著者は北へ行きたくなる理由を色々考察して説明してくれているが、同じシチュエーションで絶対に北に行きたくなる者にとっては説明不要な感情だ。私は、生まれは東京だが、一歳の時に北海道に渡り、最初の記憶は雪や氷やソリやスキーのある景色ばかり。特に鮮明なのは、2階から外に出ようとして飛び降りて雪に完全に埋まってしまいもうダメだと思っていたところを誰かに何とか救出された記憶だ。祖父はアイヌの素人研究家で遊びに行くと家中にアイヌの絵が掛かっていたし、父親は雪に関係の深い技術者で中谷宇吉郎の話を時々聞かせてくれた。中高生の時には親元を離れて祖父母に育てられたが、休みの度に両親に逢いに秋田へ夜行列車で行き、スキーをしたり、五能線で青森に行ったりしていた。こうした境遇もあって、自分にはこの本の作者の心情が説明なしで共感できる。ますます著者の文章が好きになってしまった。(「逃北」 能町みね子、文春文庫)

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