伊豆地方の中核医療を担う大学付属病院に産科医として赴任した若手医師を主人公とするシリーズ第2弾。副題は「天才医師の帰還」。前作もすごく面白かったが、本作はそれ以上にすごい作品だった。物語は、主人公の医師としての成長物語、登場人物たちの医師としての矜持や信念、舞台である伊豆地方のグルメ紹介の三本柱で進行するのは前作と同じだが、そこに2人の新たな癖の強いキャラクターが加わり、主人公の成長を促す役割を果たしていく。クライマックスは、本書後半のガンが全身に転移してまっている妊婦患者を巡る主人公たちの医療現場での壮絶な戦いだ。患者本人の余命延長か胎児のケアかという選択を余儀なくさせられる状況での医療従事者の奮闘の物語、読んでいて大きく心を揺さぶられた。また、産科医師不足が深刻化するなか、先進医療を進歩させるためあるいは若手医師の経験の蓄積を促すなどのために医療の集約化(積極的集約化)が求められる一方、それとは無関係に進む地方病院の不採算による閉鎖に伴う消極的集約化、こうした医療現場の問題にも驚かされた。伊豆のグルメとしては、黒鮑、モクズガニ、天城猪まんなどが紹介されていて、特に猪まんが美味しそうだと思った。この作品、前作と合わせても時間的には数か月の話。内容の濃さが並外れているこのシリーズ、まだまだ続きを読みたい。(「あしたの名医2」 藤の木優、新潮文庫)