世界各地で様々な軋轢や分断の火種になっている移民問題について、イスラム移民が急増している日本の現状と問題点を厳しく指摘する内容。著者の視点は、多文化共生、多様性、他者への寛容という言葉を無条件で正しいものとするマスコミを含む日本全体の危うさを様々な角度から糾弾し、他宗教を敵視するイスラム原理主義に対して素朴な多様性信奉で大丈夫なのかと問いかける。本書で語られている仏像やお地蔵さんを繰り返し破壊したイスラム教徒移民が不起訴になった件、イスラム団体による行政への土葬墓地整備の要求、川口市でのクルド人集団による犯罪事件の多発、難民申請を不法就労に悪用するケースの多発といった事案を知ると、著者の懸念がすぐそこまできているのは確かだと思う。著者によれば、これらは、イスラム教がそもそも「多様性」と相容れない教義を持っていることが根底にあるとする。さらに、日本よりも移民受け入れに積極的だった欧米諸国が、移民によるテロや凶悪犯罪の多発、それに起因する国内の分断の深刻化に直面していることについても克明に語られていて、自分も含めて「困っている移民や難民がいたら助けたい」といったナイーブな同情論だけで良いのかが今問われているのは確かだし、トランプ新大統領の厳しい移民排除政策を巡るアメリカ国内の分断そうした文脈で考え直す必要があるのかもしれないと感じてしまう。また、本書で描かれている内容と、先日読んだ「イランの闇世界」で描かれた「一般的なイスラム教徒はイスラム教の厳格な戒律に辟易している」という内容の違いの大きさに唖然としてしまう。普通のイスラム教徒と過激なイスラム原理主義者、イスラム教徒の中でも大きな分断が生じているということで、ますます今後の世界情勢が心配になる。(「イスラム移民」 飯山陽、扶桑社新書)