我が家のほんの狭い、文字通り猫の額の地面に植えた柿の木に、なんと十数個の実がついた。甘柿である。「収穫」が待ち遠しい。早くもぎりたいのだが、家内がまだまだと許さない。
毎日、柿の色づきの変化を観察している。楽しいものである。植物を育てること、精神の安定剤としてこれに勝るものはない。
おそらく結果が予測できるからであろう。育てた結果が化け物になるような不安があるならこうした安心感は生まれないに違いない。
四方田犬彦氏に「先生とわたし」という興味深い書物がある。これは先生である由良君美氏が優秀な弟子である四方田氏に嫉妬する話である。先生の喜びというのは、弟子が成長していく姿であろうが、その結果、弟子が先生を凌駕していくとどういうことになるのか……、とういう人間臭い話である。
育てるというのは簡単なことではない。
育てている柿から、とんでもない脇道に入ってしまった。 【彬】