遊爺雑記帳

ブログを始めてはや○年。三日坊主にしては長続きしています。平和で美しい日本が滅びることがないことを願ってやみません。

幼い時代のジャイアン・薄煕来を、のびた・習近平が葬りきれるか

2013-08-28 23:53:58 | 中国 全般
 薄煕来の公開裁判という、秘密主義の中国共産党には珍しい大物政治家の断罪ショーが行われました。
 政権側とすれば、改革開放に異論を唱え毛沢東の流れを汲む思想を強調し政策路線闘争をしかけて政権の座を狙い、根強く広い人気を持つ薄煕来の憐れな姿をさらし者にし、とどめを刺す意図があったのでしょうが、薄煕来の想定外の強い抵抗で、裁判日程が大幅に伸びるなど、思わぬ経過を辿りました。
 幼い頃、一緒に遊んだガキ大将でいじめっ子の薄煕来を、いじめられっ子だった習近平が、どのような判決を出すのか。もしかしたら、葬り切れないかもしれないと分析する記事がありました。
 公開裁判が、薄煕来にとっては支持者への健在ぶりを示し、逮捕の不当性をPRする絶好の場となり、その場を活用したことは間違いないことでした。
 

江青裁判以来の裁判ショー、薄熙来公判:日経ビジネスオンライン

 8月22日から山東省済南市の中級人民法院で始まった薄熙来裁判は、下手なテレビドラマよりも面白かった。
 「視聴者」の予想を完全に裏切る展開だった。少なくとも私は、完全失脚し、落ちぶれた姿をさらし、シオシオと罪状を認め汚職と職権乱用で懲役15年前後の判決を言い渡されて終わりか、と思っていた。
 だが、起訴状にある2件の収賄罪と横領罪、職権乱用についてはほぼ全面的に罪状否認。
文化大革命を主導した四人組裁判で、激しい抵抗をみせた毛沢東夫人・江青を彷彿とさせる裁判ショーを国内外に見せた
のだ。

権力闘争で政界から排除された薄熙来
 今さら説明の必要もないだろうが、薄熙来は前重慶市書記で2012年3月、失脚した。父親が八大元老の一人の大物政治家・薄一波という太子党(革命戦争の英雄の子女、二世政治家)サラブレッド。一時は政治局常務委入りするとの噂もあった。
 彼が失脚したのは表向き汚職容疑と妻、谷開来のニール・ヘイウッド殺害事件のスキャンダルだが、実のところは重慶市で毛沢東の文革を彷彿させるような大衆動員の政治キャンペーン「唱紅」と、マフィア・腐敗官僚撲滅キャンペーン「打黒」(その実、政敵官僚の一掃)によって大衆の支持を得て、
中央権力の座をもぎ取りにいこうとする野心のすさまじさに、恐れをなした党中央が失脚させた
のである。
 つまり権力闘争の結果、薄熙来は政界から排除された。
薄熙来つぶしを主導したのは言わずもがな、前国家主席・胡錦濤であるが、同じ太子党仲間の習近平国家主席も、薄熙来が自分の地位をも脅かす存在とわかり、胡錦濤と組んだ

 この薄熙来排除の権力闘争はすさまじく、薄熙来の容疑を固めた中央規律検査委員会の担当者らは、薄熙来を党籍はく奪にまで追い込んだ後の慰労会で全員、男泣きに泣いた、と聞いた。
薄熙来を完全失脚させなければ、薄熙来を追い詰めた彼らが反撃に遭い、息の根を止められることになる
からだ。

 だが
党籍剥奪が決まった2012年9月から、起訴裁判に持ち込むまで長かった
。薄熙来を司法で裁くことに抵抗する勢力が党中央に存在する。同じ太子党、革命戦争の英雄の子供たちである。彼ら太子党仲間には、互いに深い利権関係と家族・親戚のように情がある。
 
習近平も八大元老の一人・習仲勲の息子である太子党サラブレッド。幼い頃は、薄熙来のことをお兄ちゃんと呼んで、後ろをついてまわった。もっとも性格ジャイアンの薄熙来は、兄とともに習近平をいじめたという話もある

 いじめの恨みがあったとしても
「お兄ちゃん」を監獄にぶちこめるか。薄熙来の兄弟・親戚・親友は習近平にとって兄弟・親戚・親友だ。文革で失脚した元国家主席・劉少奇の息子の劉源や軍長老の張震の息子の張海陽上将は薄熙来の親友。習近平が薄熙来を監獄に送りこんだら、彼らは、その仕打ちを非難の目で見ないか
。君だって職権乱用ぐらいやっていただろう?小さいころは、家族も同然だったじゃないか。情けかけてやれよ、と。
 このあたりは、
本気で薄熙来をつぶしにかかった共青団(共産主義青年団)出身の胡錦濤と姿勢が全く違う

 おそらく妥協に妥協を重ねた末、習近平が太子党仲間を説得し、6月ごろに起訴の方針が固まり、8月の北戴河(河北省の避暑地で党中央幹部が非公式に集まる会合)で、量刑が話し合われた。
 起訴状をみると、収賄罪2件計2179万元ちょっと、横領罪500万元、妻の殺人事件の捜査を妨害するなどの職権乱用罪が挙げられている。薄熙来・谷開来夫婦が海外に不正蓄財した総額は60億ドルに上るといわれていたが、
起訴状ではこんな少額の収賄・横領罪で立件
した。
 これでは
胡錦濤らが本当に望んでいたであろう「執行猶予付き死刑」には手が届かない。だが240万元程度の汚職で懲役18年の判決を受けた元上海市委書記・陳良宇を思えば、いくら最近の官僚汚職額が高額化しているとはいえ、懲役15年以上はつけられそうだ。
<中略>

中央メディアが報道しなかった理由は?
 500万元の横領についても全面否認し、裁判長の前で証人を問い詰める場面も。ついには証人に「十数年前のことで細かいことまで記憶してません」と言わせ、「証人の証言は矛盾してます。証言の内容と客観的事実が乖離している。……私には500万元ねこばばする肝っ玉ありません」と言ってのけた。
 証言台に立った元重慶市公安局長の王立軍に対しても、「王立軍はずっと明らかに嘘をついていた」「品性は下劣で、デマを広げ人を混乱させる人間で、こんな人間の証言を使ったら、法廷の信用の公正さ信用を失います」と罵詈雑言。
 あまりに雄弁すぎて、これもシナリオのうちに違いない、という見方は当然あるのだが、
私はこれら薄熙来の反撃は台本になかった、という説をとる。少なくとも胡錦濤や習近平の書いた台本にはなかった。あるいは党中央に別の台本が存在し、ひそかに薄熙来と打ち合わせしていた人物がいた
とか。そういえば、薄熙来入廷のとき、彼が前で組んだ手の指が3本立てられていたのは何かのサインではないか、という噂がネットで飛び交った。
 
公判初日、中央テレビがこの公判のニュースを取り上げなかった人民日報も独自社説を見送った微博中継など大々的にショーとして見せた裁判のわりには中央メディアの報道がおとなしいこと。これは、予定稿が使えなかった、ということではないか


 
なぜ薄熙来がこの土壇場で抵抗したのか。薄熙来の起訴や量刑をめぐり党中央はかなり激しい太子党側と共青団側との権力闘争があったはずで、薄熙来はおそらくそれを知っていた。公判が四人組裁判以来の「ショー」となることを知った薄熙来は、この機会を利用して公衆の面前で権力闘争の続きを見せたのではないだろうか。
<中略>

政治家としての評価は習近平より上
 もう1つの背景として、この裁判ショーの監督ともいえる習近平との人間関係があると、私は想像する。薄熙来と習近平の2人はともに八大元老の息子同士で、幼いころは兄弟のように育ち、文革中に苦労もし、ほぼ同時期に地方官僚からスタートし、2度目の結婚で美人でやり手の年若い妻をめとり、互いをライバル視しながら中央の権力を目指して競い合った。
 2人の差を言えば、習近平の性格は慎重で臆病、薄熙来は野心家で豪胆。政治家としての実力は薄熙来の方が上と見られ、習近平はその政治能力の低さと敵を作らない慎重な性格ゆえに、逆に激しい権力闘争の過程でつぶされずに済んだ。
 政治能力の差は、国際センスや外国世論対策などに歴然と表れている。薄熙来は国際派で、日本人の中にも薄熙来のスマートさや1分でも時間を割いて外国人客とは面会するフットワークの軽さをいまだに評価する人は少なくない。一方、習近平は外交センスに欠けたドメスティックな印象で、実際、周辺国との関係を悪化させているし、国内外世論誘導もうまくいっていない。

 習近平は政権継承後、おのれの評価の低さ、権力基盤の弱さを挽回するために、オリジナリティーある手法が思いつかず、結局、「お兄ちゃん」の薄熙来が重慶で行った「文革式」の手法をそっくりまねるしかなかった。
反汚職キャンペーンを装った敵方官僚つぶし習近平の「トラもハエもたたく反汚職キャンペーン」では太子党は捕まっていない)は「打黒」そのままであり、群衆路線と銘打った大衆の人気取りも「重慶モデル」そのままである。さらに整風運動を彷彿とさせる反四風(官僚主義や風紀の粛正)、イデオロギー管理の徹底。毛沢東が文化大革命を画策した裏舞台、武漢に何度も訪れて、毛沢東の物まね発言
……。

 薄熙来はこれを見て、なんと思うだろうか。「オレがやろうとしたこと、そのままマネしやがって!」と思ったのではないか?

<中略>

 一方、習近平は、幼馴染みの薄熙来の政治生命に完全にとどめを刺すことにためらいつづけ、免職から党籍剥奪まで半年、党籍はく奪から公判にたどり着くまで1年もかかった。ひょっとしたら、習近平は「お兄ちゃん」でいじめっ子だった薄熙来を恐れる気持ちが今なおあるのかもしれない。歴代指導者の中で最も強いコンプレックスを抱えているといわれる習近平の性格の弱さを見越した薄熙来は、むくむくと反撃の気力がわいてきた
、と考えるのはどうだろうか。

小平は3度完全失脚し3度よみがえった
 判決は来月に出るらしい。公判は荒れたが、罪状否認が認められ、予定されていた判決が覆ることはあるのだろうか。「さすがに、この後に及んで薄熙来の復活はありえませんよね?」と、いつも中国の政治分析などを聞く事情通の友人に訪ねると「3度完全失脚して3度不死鳥のようによみがえった小平のような男もいましたからね」と言う。
 やはり中国でビジネスをし、中国理解が深い友人がツイッター上で「
(賭けをするなら大穴狙いの)懲役2年、復党・復権オプションつき
」とつぶやいていた。
 げにすさまじきは中国の権力闘争。水面下で行われているそれが可視化されただけでも、薄熙来公判は下手なテレビドラマよりも見応えがあった。


 もう失うものがない薄煕来は捨て身の反攻。
 一方、いまだに胡錦濤・共青団との権力闘争を引きずる習近平。太子党仲間の眼や、保守派老人勢力の支持を配慮せざるを得ません。
 格差社会、環境汚染、自由の弾圧での一党独裁の維持、低迷する経済、難問の枚挙にはいとまがありません。
 かといって、政策路線の違いは明らかで、生かしておけば、小平の再生の様に、地位を逆転・逆襲されかねません。
 抹殺するのも、生かすのも習近平には敵を産むことになるのですね。
 判決が見ものですし、それが習近平の描くシナリオなのかどうかに注目です。



 # 冒頭の画像は、上背の勝る元バスケット選手(?)に挟まれる薄煕来




  この花は、タンポポ


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