我が国の映画界で最も多く主役をこなしそれも大作が多いことから広く知られ、実力ナンバー・ワンの男性俳優の役所広司がやっとカンヌで主演男優賞に輝いた。遅いくらいだろう。しかしブログ主がこの『PERFECT DAYS』を観たかったのはそこではない。
ヴェンダースが今の東京をどう切り取るか。人・街・交通・文化・社会などだ。どの役者をどう使うかも興味を引いた。
結果は、「満足した」と答えよう。ヴィム・ヴェンダーㇲは好きな映画作家のひとり。これまでも『ベルリン・天使の歌』『パリ、テキサス』など少なからず観て来た。とりわけ気に入っているのは『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。まだ世界が知らないキューバ、それも底抜けに明るい彩の街と庶民と車、どこか懐かしく陽気な音楽。これをドキュメントで描いたものだ。1999年に世界が受けた衝撃を果たして今度は東京で放つのか。
公衆トイレ清掃員の平山が住む木賃アパートの畳敷きの部屋。このショットが、ヴェンダースが敬愛して止まない小津安二郎のローアングル。この主人公の名字は《平山》。小津の幾つかの映画で笠智衆が演じた《平山》と同じである。ヴェンダースの律儀と礼節と報恩。小津が生きた日本・東京で自らがメガフォンを取る、その喜びが伝わってくる。
嬉しい発見が四つあった。そのうち三つは、挿入曲。ジ・アニマルズの《 the House of Rising Sun 》。朝、清掃用具を詰め込んだ軽トラックでアパートから出かける時にカセットでかける。いい曲を相応しいシーンで使う。思わずニンマリ。
オーティス・レディングの《the Dock of the Bay》も即、判り得た。
三曲目はラストで流れて来たイントロとヴォーカル。コードが進んでから判ったニーナ・シモン。バリバリのジャズ歌手、それもユニークな音声と節回し。《Feeling Good》
四つ目の発見は、妹の娘が家出をしてアパートに転がり込ん来ている。その高校生の姪を母(つまり平山の妹)が迎えに来るシーンがある。そこで妹が平山に手渡す手土産がある。その紙袋は《鎌倉紅屋》のものというのが私のいう発見である。エンドロールで鎌倉紅屋を探したが我が視力では確認することが出来なかった。残念なり。小津の住まいは鎌倉だった。
役所の受賞は、ラストの軽トラを運転しながら演じる顔の演技によるところが大きいのではないか。ワンショットの間の変面が凄い。喜び・悲しみ・希望・憂鬱・落胆・友情・思いやり・励まし・怒り・警戒・緊張・エトセトラ。人の持つあらゆる感情を顔で表現している。このバックに流れるのが《 Feeling Good 》という次第である。
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