著者 青木 新門
出版 文春文庫
増補改訂版 '09.3.20 第24刷 227頁
人に薦められた本は、原則読むことにしてる。新鮮で意外性に溢れ学ぶこと多し。この本もそうした一冊である。
映画「おくりびと」の原作で主役の本木雅弘が感動したと紹介され、映画も本も感銘した御仁から薦められたという次第。映画は私も観ている。果たして原作との差異がいかなるものか。
自身の納棺士としての日常を本にすることを勧めたのが作家の吉村昭氏だ、と冒頭で述懐している通り、著者の文才と博識にまず敬意を表したい。
第一章はこの異色の職業に就いた経緯やそこに至る自身の半生記。心の葛藤や家族との交錯なども。第二章は、仕事として関わった様々な死を中心に遺族や関係の人々の姿を著者の想いも交え紹介。第三章は、この本の最も肝と思える部分。著者の死生観、仏教論、宇宙物理学、科学と宗教、哲学など自在に自論の展開をする。著者の仏教論の根幹を為すのは浄土真宗であり親鸞の『教行信証』である。実によく勉強されている。よく思索をする人である。低頭するしかない。
終章の"『納棺夫日記』を著して"で思うのは、かの映画後には講演の機会が多く、仏教宗派や僧侶を相手に話すことも多いようだ。彼らは輪廻転生や十王思想、成仏不成仏についてはいわばプロだ。プロに請われて講演や研究会に臨まれている。成り行きで生きるために止むを得ず就いた職業であったが、経験と勉強とでプロに人生哲学・死生観を説いている。見事という他ない。
死は忌み嫌うものではない。『生も歓喜、死も歓喜』を私は共有する。
最後に、著者の思考の一部分となった二枚の画像を紹介しておこう。
▲ジョー・オダネル『焼き場に立つ少年』
▲ケビン・カーター『ハゲワシと少女』
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