Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

グレイハウンド

2021-01-10 | 外国映画(か行)
★★★★ 2020年/アメリカ アーロン・シュナイダー

驚異的。ほとんどの台詞が軍艦内の報告と命令。方位091度敵船2隻、方位098度26キロに輝点…。これで映画って成り立つんだなと感動。敵艦情報だけでなく船の故障から船員の体調まで。途切れる事のない報告に即座で指示を出し続ける、その描写が艦長のずば抜けた能力を示す。力作。

艦長が敬虔なクリスチャンであることがわずかなシークエンスで示されるのみ、湿っぽいシーンは皆無で、ほぼ海上での戦闘シーンだけというソリッドな構成。Uボートとの丁々発止の攻防がかなりの迫力。一瞬の気の緩みも許されない艦内の緊張感がすごい。ここまで削ぎ落とされた映画は滅多にない。

家族を想うとき

2020-12-27 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2019年/イギリス 監督/ケン・ローチ

何度も繰り返される「俺の責任」と言うセリフ。もはや個人の努力ではどうにもならない経済構造の歪みを突きつける。たくさん働いても稼げない。むしろ働くほどに行き詰まる生活。そんなバカな。誰しも静かな憤りを感じずにはいられない。傑作。

この家族の暮らしぶりがドキュメンタリーのようにリアルで、特にある事件の真実が発覚した時の夫婦の愕然としたリアクションが本当に演技に見えなくて鳥肌が立った。配送会社の主任マロニー。彼も忠実に自分の仕事を全うしている側の人間だが、サム・ライミの「スペル」なら地獄に引きずられる方だな。

黒い司法 0%からの奇跡

2020-12-19 | 外国映画(か行)
★★★★ 2020年/アメリカ 監督/デスティン・ダニエル・クレットン

アラバマ州、無実の死刑囚を救うため若き弁護士が立ち上がる。映画的には「白人憎し」な演出にした方がドラマチックで溜飲も下がるが、それを極力避けているのがいい。よりフォーカスされるのは人権。誰かの都合や主張のために生きている人など一人もいない。予想外の良作。

黒人間の格差がテーマになっていたブラックパンサーでキルモンガーを演じたマイケルBジョーダンが信念の弁護士を演じているのが味わい深い。そして、こんなにいいジェイミー・フォックス久しぶりに見た。社会に見放された男の孤独と諦念を見事に表現。これ賞レース来るでしょってくらい良かった。

しかし邦題がわけわからんのは、どうにかならなかったのかなあ。原題はJUST MERCY。黒い司法って何だよ。

小悪魔はなぜモテる?!

2020-12-06 | 外国映画(か行)
★★★★ 2010年/アメリカ 監督/ウィル・グラック

大学生の彼とHしたという嘘をついたばかりにビッチの烙印を押されたオリーブ。しかしなぜかSEXしなくていいから「俺とやったことにしてくれ」という男子たちが群がる。「童貞喪失=一人前」という男たちの呪縛。男らしさからの解放が裏テーマ。いま見るべき1本。

原題は「Easy A」。緋文字の主人公へスターのごとくオリーブも胸に「A」の刺繍をつけ、自ら不義の女を誇示する。文学や映画への言及も多く、おバカ青春映画などとは全く侮れない。この邦題の酷さは本当に罪。そして何があってもオリーブを全肯定する両親の存在が効いている。

ガス燈

2020-08-08 | 外国映画(か行)
★★★★★ 1944年/アメリカ 監督/ジョージ・キューカー

実に恐ろしい。ホラーと言ってもいい。 「おかしいのはお前だ」 その刷り込みが妻を狂気に追いやる。現代の家庭内DVと地続きゆえに全く古臭さを感じさせない。夫の一つひとつの言動は今で言うところのソシオパスだが、これほどリアルに緻密に描けている作品があるだろうか。傑作。

精神的に追い詰められるヒロインのイングリット・バーグマンの美しさよ。同様のサスペンスを多く作ったヒッチコックが本作を撮ったらどうなっただろう。 「誰も私を信じない」系には名作が多いが、本作を見ると他が霞んでしまう。ガスライティングという心理学用語が生まれたのも納得の完璧な逸品。

工作 黒金星と呼ばれた男

2020-07-31 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2018年/韓国 監督/ユン・ジョンビン

工作員、諜報部の人間関係を把握しようと終始頭はフルスロットル。北朝鮮と韓国の政治的な駆け引き、ここまで踏み込むかの圧倒的リアリティ。身元がバレたら殺されるかも、のスリリングな展開が続き、終盤まさかアイツとアイツの友情に泣かされるとは。見応え抜群。力作。

小道具がの使い方が上手い。最も印象的なのはピカピカに磨かれた眼鏡だ。主人公のかけた眼鏡に相手の持ち物や部屋の様子が映る。そこに映る物を信じていいのか。緊張感が一気に高まる。そして北朝鮮の風景が圧巻。現地撮影ではないかというクオリティ。自分も潜入員になったように鼓動が早まった。

工作 黒金星と呼ばれた男

2020-07-14 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/ユン・ジョンビン

工作員、諜報部の人間関係を把握しようと終始頭はフルスロットル。北朝鮮と韓国の政治的な駆け引き、ここまで踏み込むかの圧倒的リアリティ。身元がバレたら殺されるかも、のスリリングな展開が続き、終盤まさかアイツとアイツの友情に泣かされるとは。見応え抜群。力作。

小道具がの使い方が上手い。最も印象的なのはピカピカに磨かれた眼鏡だ。主人公のかけた眼鏡に相手の持ち物や部屋の様子が映る。そこに映る物を信じていいのか。緊張感が一気に高まる。そして北朝鮮の風景が圧巻。現地撮影ではないかというクオリティ。自分も潜入員になったように鼓動が早まった。

華氏451

2020-07-05 | 外国映画(か行)
★★★☆ 1966年/フランス 監督/フランソワ・トリュフォー

最近のSFを見慣れていると未来感もしょぼいし洗練されてもいない。 それでも本が燃やされる世界は身の毛がよだつ。命がけで本を守る。その覚悟を共感できぬ時代が来るのではないか。今観るとそんな危機感を覚える。 私はどの本になろうか。そこまでが醍醐味。思いを巡らし余韻が続く。

gifted ギフテッド

2020-06-23 | 外国映画(か行)
★★★☆ 2017年/アメリカ 監督/マーク・ウェブ

子供らしくのびのび育てるべきか、才能を伸ばせる環境で育てるべきか。誰でも感情移入できる話だが残念なのは後者を進める人物たちがいかにも記号的悪人ばかりということ。これではハナから結論は出ている。英才教育にもいいところはある。そこをキチンと見せてこその葛藤だろう。

ただし数学の天才ぶりと7歳らしい無邪気さ。その両方を魅力的に演じるマッケンナ・グレイスの演技には脱帽。「アイトーニャ」では負けん気の強いトーニャの少女時代を演じている。あの反抗的な目力はなかなかのもの。大物の予感。

午後8時の訪問者

2020-05-13 | 外国映画(か行)
★★★★ 2016年/ベルギー・フランス 監督/ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ

時間外で応対しなかった患者が翌日変死体で見つかる。責任を感じた女医は彼女の身元を割り出すために奔走するが。
地味な社会派に見えがちだけど、ダルデンヌ作品はどれもサスペンスとして凄く優秀。サンドラの週末然り、結末がどうなるかハラハラしつつ最後まで見入ってしまう。

女医のジェニーは自分に誠実であるために行動する。恐ろしい目にも遭うが意思を曲げない。それは取り立てて正義感が強いわけではなく、単純に言うと筋を通す、ごまかさない生き方を選ぶということだが、それがいかに難しいかを私たちは知っている。だから自分ならどうすると問うてしまうのだ。

足取りを追うごとに徐々に露わになる社会の闇。犯人が明らかになる瞬間も全くドラマティックではなく、却ってそれがとてつもなくリアル。そして、意外な人物の証言による悲しいエンディング。社会の陰に隠れた人々を浮き彫りにする、さすがダルデンヌという作品。

顔たち、ところどころ

2020-05-11 | 外国映画(か行)
★★★★ 2017年/フランス 監督/アニエス・バルダ・JR

めちゃくちゃ良かった。田舎町を旅し、現地の人々を撮影して様々な場所に貼り付けていく。その芸術活動が市井の人々に自身の誇りを自覚させる。アートってすばらしい。それにしても、スタジオ付き移動カメラトラックすごい!これ発明!出力までできちゃうんだから。そりゃこんなの自分の街に来たらウキウキしちゃうよねえ。

年の離れたアーティストの友情物語のように帰結するんだけども、そのラストの展開を招いたのは、「あの」ゴダールの行動。このエンディングを予測してのあれかと思うと、若干腹が立つ。なんなんだよ、ゴダール。



グエムル 漢江の怪物

2020-04-22 | 外国映画(か行)
再見。本作の白眉はダメ家族一人ひとりが極限状態で腹をくくった時のカット。ポンジュノはそこに命賭けてると断言したいくらい。ペドゥナの弓を引くカットも痺れるけど私はピョン・ヒボン演じるダメ親父が最期を悟りお前らは逃げろとするあのカットが最高に好き。

いわゆる負け組と言われる人たちが最後に見せる尊い精神性。その瞬間をこれでもかとカッコよく見せる。そこにポンジュノの映画作家としての気概が現れていると思う。それにしてもコンテイジョン同様コロナ禍に見ると感慨深い。前者は感染拡大の恐怖に迫る1本ならこちらは徹底的な政治風刺として傑作。

本作は在韓米軍を下敷きにしているが(しかもウィルスは●●だったというオチ)、今の日本政府の施策を見れば、本作に匹敵するブラックコメディを日本でも作れるはずだ。アフターコロナ時代に日本人監督にこういう骨身にしみるエンタメを作って欲しいと切に願う。

コンテイジョン

2020-04-18 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2011年/アメリカ 監督/スティーブン・ソダーバーグ

本当に怖かった。予見していたと言われるのも納得。発生からパンデミックに至るまで悉く現状と一致。ウィルスの発生源が「コウモリ〜」と出た時には鳥肌立った。DAY2に始まりDAY1で終わる構成も見事。コロナ禍の今見るとリアルホラーなので、腹くくって見た方がいい。

なにせ潜伏期間や感性経路の話がわかりすぎて悲しい。公開時に見たら今ほど理解できなかっただろう。前半部があまりに今をなぞらえているので、ワクチン開発以降の世界の混沌とした状況も「きっとこうなるんだろう」と思えてしまう。情報を持っている人間がむき出しにするエゴに寒気がした。

豪華俳優陣、誰一人突出せず見事なアンサンブル。一人ひとりの出演時間は決して長くないが、パンデミック下のそれぞれの立場の代表として、どの人物にも気持ちを重ねられる。一人のクズを除いて、みんな助かって…と思うがそうは問屋がおろさない。。まあそのクズの発言にも一理あるのがまた恐ろしい。



家族を想うとき

2019-12-25 | 外国映画(か行)
★★★★★☆ 2019年/イギリス・フランス・ベルギー 監督/ケン・ローチ

妻の車を売って請負業を始める冒頭から「何か違うのでは」というモヤモヤが渦巻き最後まで心は晴れない。俺が何とかしなければと思い込んでいるリッキーの頑さは一体どこから来るのか。夫婦で乗り切る発想がまるでない。貧困と搾取の話だが家族をどう構築するかという話だとも思う。

もちろん多忙を極めると、周囲に目を向ける余裕が全くなくなり負のスパイラルになるだろう。しかし家族と一緒にいる時間さえあれば、家族はうまくいくのか?本当にそうか?忙しいことを言い訳にしているだけではないのか。どこが間違ってる?どこから間違えた?そんなことばかり鑑賞後考えてしまった。

キング・オブ・コメディ

2019-11-12 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 1983年/アメリカ 監督/マーティン・スコセッシ

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普通のオッサンが最初から狂ってるから怖い。部屋にスタジオセットが出現してさらに震撼。「お帰り下さい」に「わかりました」とニコニコ居座る話の通じない人をスターにしてしまう社会も狂気。俺たちの社会狂ってるよな?イェーイ。その辺のホラーよりよっぽど怖い。彼の狂気の一因であろう母親が一度も姿を見せないというのも良かった。

キング・オブ・コメディ を見るとジョーカーのなぜ悪人になったかのプロセスを見せるってすげえ野暮だなと思う訳です。だからやはりジョーカーという映画は全編ジョークなんだろうと思う。キング〜の影響を受けた映画だと堂々と示しているし。「アーサー可哀想」って見てる観客も彼のジョークの構成要素。その方が凄いジョーカーっぽいし腑に落ちる。