Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

乱れる

2019-10-31 | 外国映画(ま行)

★★★★★ 1964年/日本 監督/成瀬巳喜男

結婚後たった半年で夫が戦死。その後18年間も夫家族のために働き続けるが、スーパー経営を機に家族から追い出される女の話。現代女性が見るとしんどすぎる話である。マジでしんどい。結婚して半年って、たぶんろくに夫婦生活も送ってない。

そして、究極のバッドエンディング。あの後、礼子はどうするのか。それを観客に想像させるために全てがあるように感じる。礼子の表情が最高だ。

こんなクソみたいな話に惹かれてしまうのは高峰秀子の抑えた演技がすばらしいのはもちろん、彼女を取り巻くどうしようもない家族が淡々と描かれているから。対象者に入り込まず、引いて描く人間ドラマが好きだから。自分で意思決定できない義母、いけずな妹、ぼんくらなくせに好きとか言う弟。みんなほんっとうに口ばっかり。いるよ、こういう人。悲しいぐらいにリアル。



時計じかけのオレンジ

2019-10-28 | 外国映画(た行)

午前十時の映画祭にて鑑賞

暴力と権力について描いた史上最強のウルトラブラックコメディ。おぞましくて、恐ろしくて、美しくて、圧倒的。DVDで何度も見た本作を映画館で見られてもう思い残すことはない。近年何度も映画館で鑑賞する機会に恵まれた2001年と比べると長い道のりだった。

スクリーンで見ると脇役陣のオーバーアクトな怪演が本作を支えているのがよくわかる。顔芸のオンパレードじゃんね。笑っちゃイカンのに笑っちゃうよ、これは。本作のイッちゃってる感を見ると、ジョーカーなんてもの凄く真面目な映画だなあと思わされる。建築やアートにおいても洗練されている事もありこんな非人道的な主人公の作品ながら何度も見たいと人々に思わせてしまう。これから何十年も何百年もキューブリックは本作を通じ観客に快楽と苦痛、内省を与え続けるのだと思うと映画の力と怖さを痛感する。そしてそれこそが、映画のすばらしさでもあるんだよね。


ロッキー・ホラー・ショー

2019-10-27 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 1975年/イギリス 監督/ジム・シャーマン

マサラ上映in塚口サンサン劇場

いやあ、楽しかった!歌って踊って見るのは最高だね。スクリーンに紙吹雪の影が舞うのがこんなに美しいとは。そして観客(コスプレーヤーズ)の手慣れたツッコミとダンスが素晴らし過ぎた。タンバリン鳴らしまくってストレスも発散!

映画オタとしては恥ずかしい限りだが本作は応援上映の形でないと見たことにならないのではないかと自宅で見るのをためらい、これまで未見。ようやくこの機会に巡り会えて良かった。

いわゆる、フランケンシュタイン+ドラキュラの古典ホラーのB級味付けなわけですね。ほかにも様々な映画のオマージュがあって楽しい。やはり主演のティム・カリーの豪快なドラアグクイーンっぷりが最大の魅力だね。スーザンサランドンもかわいかった。

女は二度決断する

2019-10-25 | 外国映画(あ行)

★★★★ 2017年/ドイツ 監督/ファティ・アキン

「二度」の意味を探りつつ迎える衝撃のラスト。胸をえぐられるようなエンディングで実に余韻が残る作品だ。夫と息子を奪われた一個人が法でも裁けぬテロ犯にどう立ち向かえるというのか。悲しみと絶望の果てに行き着く彼女の決断を誰が非難できよう。絶望シネマの秀作。

テロにより家族を失い、その後精神不安定で接種したドラッグのため警察からも信用されなくなり、あげくの果てには裁判も…という負の連鎖でどん底まっしぐらな展開だが、ダイアン・クルーガーの演技は必見。四面楚歌の状況で己を奮い立たせ、挫折し、また立ち上がる。その姿がとても感動的だった。


サスペリア

2019-10-24 | 外国映画(さ行)
★★★☆ 2018年/イタリア・アメリカ 監督/ルカ・グァダニーノ

前衛舞踏とかバーダーマインホフとか自分の嗜好にドンピシャだったのでそれなりに楽しめた。薄暗いどんよりとしたベルリンの空、薄気味悪い舞踏団のオバさんたちなど、不穏感も十分。なんだけども。このエキセントリックな映像美がどうもデビッドリンチと重なる。特にTPリターンズ。赤いイメージで怖いオバハン出てきたらリンチだもん。悪夢のシーンはリングっぽいし。オリジナリティのあるホラー表現の難しさをすごく感じた。あと、ドイツ左翼とか、ティルダが三役やってるとか、いろんな意味をつめ込め過ぎで物語を咀嚼するのが実に難しい。映画の内容より、よくこんな複雑な企画の映画が通ったなとそっちに感心。

蜜蜂と遠雷

2019-10-21 | 日本映画(ま行)
★★★★★ 2019年/日本 監督/石川慶

編集が最高!通常、演奏シーンはいかに音楽が凄いかを見せる事が多いが本作はそれをしない。演奏シーンに別のピアニストの過去や心情のシークエンスをかぶせてくる。ゆえに演奏シーンで物語が止まることがなく、別の演奏者の苦悩や気づき、希望を同時進行で描き出すのだ。

またその演奏中に挿入されるシークエンスの美しいことよ!時に叙情的に時に幻想的に。ある意味コンペ曲が劇伴の役割を担っているのだ。そして、ラストの演奏者、松岡茉優のシーンだけはそれをしない。完璧に彼女の演奏しか見せず、彼女が紡ぎだす音楽に集中させる。これはもう、やられた!

斉藤由貴、片桐はいりなどの脇陣も全員がまさに音楽業界にいそうな人物を好演。中でも平田満が最高…栄伝を見送るあの小さな頷きで涙腺が決壊した…。松岡茉優は全てにすばらしいのだけど、予想外だったのは森崎ウィン。こんな繊細な演技をするんだと唸った。本年度暫定No.1。映画館の音響で見るべし。

禁じられた遊び

2019-10-20 | 外国映画(か行)
★★★★★ 1952年/フランス 監督/ルネ・クレマン

鑑賞後にえげつないくらい落ち込むが、2人の子役の演技が実にすばらしく、むしろあの感傷的なギターの調べが邪魔に感じられるほどである。特にポーレットを演じた少女の微細な目の動きが奇跡的で一体どのように演技指導したのだろうかと思う。

幼い子供なりに死を弔いたいという思いは芽生えるのだ。必死に十字架を捧げる姿の何と痛々しいことか。冒頭、パリ育ちのポーレットが祈りの言葉を唱えられないことを農家の人々は訝しむが、その時からポーレットの救済は実行されない事が決まっていたのだろうか。神は何と無慈悲なことをするのだろう。

オー・ルーシー!

2019-10-19 | 外国映画(あ行)
★★★★ 2017年/日本・アメリカ 監督/平柳敦子

かく言う私も某英会話教室で「ジェニファー」と呼ばれていた経験があるので、このむずがゆさはマジで人ごとじゃない。私は常々英語を話すことを「アメリカスイッチを入れる」と言っているのだけど、まさしく異なる言語を話す事=人格の入れ替わりなんよね。だからジョンにハマる節子の気持ちは痛いほどわかる。まあ、痛い女を演じたら右に出る者なしの寺島しのぶに南果歩と役所広司という豪華な布陣。そして久々に見た
ジョシュ・ハートネットが期待通りちょっと情けないでもイケメンのアメリカ人を好演。何とも不思議な手触りの映画なんだけど、それがいい感じの個性になってて面白かった。

ジョーカー JOKER

2019-10-17 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2019年/アメリカ 監督/トッド・フィリップス

(映画館)
偶発的な殺人事件を一つの契機として大した思想もないアーサーを反逆のアイコンとし、暴動に突き進む。その社会の有り様の方がジョーカーの成り立ちよりも興味深かった。地下鉄の演出がキレキレなの痺れた。トンネルで光が明滅するところ。あとホアキンの肩甲骨の出っ張りがすごかった。

それとあの太極拳みたいな舞踏。気味悪くていいよね。土方巽かな。

ヴィランの誕生潭としてはとっても見応えがあったけど、アーサーの周囲に些細な日常に幸福を見いだせるような良き人も配置してほしかった。そういう人たち殺すのか、無視するのか、取り込むのか。彼らとどう対峙するのか見たかったな。だって、殺される人、みんなアーサーにとってちょっと嫌なヤツばっかでどうしてもアーサーに同情しちゃう展開なのね。ちょっとそこが歯がゆかったな。