Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉

2012-04-29 | 外国映画(は行)
★★★ 2011年/アメリカ 監督/ロブ・マーシャル
(DVDにて鑑賞)


「もうそろそろ終わりにしたらいかがでしょうか」


公開当時に映画館に見に行くぞーというテンションもあがらず、DVDで観賞。
なんかもう、ジョニーデップの海賊姿は飽きたなあ。
この作品でシリーズ打ち止めにした方がいいんじゃないだろうか。
ジョニーデップが別の作品に出ていても、スパロウ船長に見えちゃうんだもん。
今後の彼のキャリアに関わりますよ、これは。

ペネロペ・クルスはセクシーな女海賊として、しっかりキャラは立っていますけど、
人魚と牧師の恋物語というのもとってつけたようなサイドストーリーで、
メインストーリーを引き立てるわけでもなく、
そして肝心のいのちの泉を巡るメインストーリーも大して盛り上がるわけでもなく。

エンターテイメントとして、物語のアップダウンがあまりにもなくてダメです。
海賊エンタメですから、船の上でチャンバラしたり、船が衝突するのは、
大スクリーンで見れば楽しいんですが、それだけです。

SOMEWHERE

2012-04-28 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2010年/アメリカ 監督/ソフィア・コッポラ
(DVDにて鑑賞)


「甘くて切ない」



ハリウッドの映画スター、ジョニー・マルコ。高級ホテルに住み、高級車を乗り回してはパーティーで酒と女に明け暮れる日々。ある日、ジョニーは前妻と同居する11歳の娘クレオを夜まで預かり、親子の短いひとときを過ごす。ところが、それからほどなくして、今度は前妻の都合でしばらくの間クレオの面倒を見るハメに。やがて、授賞式出席のためクレオと一緒にイタリアへと向かうジョニーだったが…。

うーん、好きですねえ、こういうテイスト。
全然退屈じゃないよー。
スケート場で娘がえんえんアイススケーティングしているシーンとか、すっごいいいじゃん。
逆にこういうシーンを「長回し」と評しなければならないっていうのが、なんだかなあって感じ。
これぐらいカメラ回さないとと映画じゃないんじゃないのぉ~とか思ったり。
このスケートシーンはBGMが甘ったるくて最高なんだよね。
ソフィアはエル・ファニングのスケートのシーンで
「自由でエレガント、そして夢幻的な滑りにしてほしい」と
振り付け師に頼んだらしいんだけど、音楽と見事にマッチしている。

いつもそうなんだけど、ソフィア・コッポラの映画は音楽がすっごくいい。
TVゲームのギタープレイをしているシーンはThe Policeの「So Lonely」だもんなあ。しびれるわあ。
So Lonely♪ So Lonely♪のリフレイン、一緒に歌っちゃうよー。
この曲の旋律が切なくてたまらん。

そして、映画祭から帰ってきたふたりがロビーのソファに身を沈めて、
老ホテルマンの弾き語りを聴くシーンも甘くて切ない。
娘がいなくなってしまい、ひとりホテルに残されたジョニーがプールベッドの上でだらだらと寝そべり、
ゆらゆら揺れているうちにジョニーの首から上がスクリーンから見切れてしまう。
こういうカットがたまんないです。

例えば、好きなミュージシャンの好きな曲があるとして、
ここのサビがたまらん、とか、ここのギターリフが泣けるとか、そういうことってあるでしょう?
他の人にはそうじゃないかも知れないけど、自分にとってはこの曲のこの部分が最高なんだっていう。
ソフィア・コッポラの映画を見ていると、それと同じ感覚になるんですよね。



太陽

2012-04-27 | 外国映画(た行)
★★★★☆ 2005年/ロシア 監督/アレクサンドル・ソクーロフ
(DVDにて鑑賞)


「イッセー尾形が創り上げた天皇」



映画なら何でも見ると豪語していながら、やっぱロシア映画って苦手だ。
ソクーロフ監督が巨匠であるのは重々承知なんだけど、これまで手が出ず。
日本の天皇が題材であるこの映画が存在しなかったら、たぶんソクーロフ作品を見るのはもっと先になったと思う。

終戦間近の日本で、いったいどのようなことが進行していたのか私には全くわからない。
もちろん、ソクーロフは確かな資料や証言をもとに作っているんだろうけど、
私は天皇を取り巻く人たちがどのような表情で、どのような心情であの頃を過ごしていたのか、
想像することが全くできない。
だから、これはもう、ひとつのファンタジー作品としてとらえるしかありません、私には。

映像は暗いのですが、どんよりした色調ではなく重厚感があります。
まるで銀の粒子が散りばめられたようなざらつき感が美しい。
クリムトの金粉を散らした絵画のような手触りを感じます。

そして、天皇を演じるイッセー尾形。
これはもう、彼のひとり芝居そのものです。
実に個性的な演技で独壇場ですね。
「あ、そう」と答えて、口をもぐもぐ。
昭和天皇が本当にこういう人だったのかどうかは関係なく、
ここにはイッセー尾形が創り出した昭和天皇があるのみです。
日本が製作したらここまで自由には演じられなかったでしょう。

人間と神の間で揺れ動くつかみどころのない人間性。
ハリウッドスターたちのポートレートを眺める様子は
アメリカに憧れるごく普通の日本人のようにも見えます。
しかし、その後取り出されるヒトラーの写真。
敗戦を決めた彼の脳裏に何がよぎっているのか。

そして、常に人々から敬われ、腫れ物に触るように接して来られた天皇。
そんな彼が新しいモノや人に出会うシーンはどれも非常にコミカルです。
人々は常に天皇と距離を取ろうとするのですが、
それがふとしたことで近づいたり、急に離れたりする。
こんなに不安定な人間関係の中で生きるのは相当にストレスが溜まることでしょう。

空襲下の街並みを魚たちが泳ぎまわる天皇の夢など幻想的な映像がとても印象的。
そして、桃井かおり演ずる皇后のラストショットから浮かび上がる焼け野原の東京の街。
ソクーロフの創り出す映像世界は、唯一無二のものですね。
他の作品も見たいと思わせられました。







サブウェイ123 激突

2012-04-26 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2009年/アメリカ 監督/トニー・スコット
(DVDにて鑑賞)


「普通の男を巧く演じるデンゼル・ワシントン」



デンゼル・ワシントンとジョン・トラボルタ競演で贈るクライムアクション。ニューヨークの地下鉄をハイジャックした凶悪犯グループと、交渉相手に選ばれた地下鉄職員との間で繰り広げられる緊迫の頭脳戦を描く。

日本公開時に「デジャブ」が面白かったトニー・スコットだし見に行くぞーと思っていたら、
思いの外評判が悪かったんですよね。で、映画館はパスしてDVDで見たわけですが、面白かった。
やっぱり、他人の評価はアテにはならんです。私はこれ好きですよ。
サブウェイ・ジャックを行うトラボルタのツメが甘いとか、
知能犯のくせに○○ができてきないとか、言い出したらキリがないわけですね。
で、それが気になる人は最後までひっかかるでしょう。
この手の映画はそういうツボにはまったら、しょうがありません。

私はマイクひとつでやり通すデンゼル・ワシントンの演技に感心しました。
なんだかんだ言って、デンゼル・ワシントンが重宝されるワケがこの映画を見て納得って感じ。
管制室にずっと座りっぱなしで、体の演技はほぼ封印された状態。
それで、よくぞここまで見せられるよなあ。
犯人役ののトラボルタと丁々発止のやりとりがあるかというとそんなでもないですし。
激高するわけでもなく、粘り強く説得するわけでもなく、やけに淡々としてるんだけど、おもしろい。
収賄事件に関わっていることが交渉中にあらわになってしまうんですけど、
「いい人」一辺倒にしていないところも好感が持てます。

心理戦とか、脱出劇とか、そういうスリルを求めて見るとイマイチなのかも知れませんが私は楽しめました。

リメンバー・ミー

2012-04-25 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2010年/アメリカ 監督/アレン・コールター
(DVDにて鑑賞)


「別れはある朝突然に」



ニューヨークの安アパートに暮らす青年、タイラー・ホーキンス。6年前の兄の自殺が未だに心に深い傷として残る彼は、以来、家族よりも仕事を優先する弁護士の父との溝が深まるばかり。ある日、ささいな行き違いから警官のクレイグに逮捕されてしまったタイラー。その復讐で彼の娘アリーを誘惑するが…。

自殺未遂した兄を持つテイラー。目の前で母を殺された経験を持つアリー。
親しい人の死により、自分の無力さに打ちのめされ、人生を謳歌することを避けている。
そんなふたりが惹かれ合うのは、運命的にも思える。
それにしても、ふたりともあまりに繊細。
その繊細さがていねいな演出と寂しげなBGMで終始貫かれており、
私は最初の地下鉄で母親が殺されるショッキングなシーンから最後までずっとハラハラし通しだった。

主人公のふたりがあまりにナイーブ過ぎて、
何か悲劇的なことが起こるに違いない。
きっとハーピーエンドじゃないんだろう。
そんな想いばかりが頭をよぎり、見ていて胸がきりきりと痛い。
実はこういう切ない気持ちが持続する映画は苦手だ。
だってどこにも、息抜きする場面がなくて、見ていてつらくなるんだもん。

様々なすれ違いを乗り越えて、ようやくテイラーは父と和解し、
アリーの愛を確かめたかに思われた頃に訪れる衝撃的な結末。
きゅうと締め付けられていた胸がさらにぎゅうっと痛くなる。
こりゃあ、たまらん。
見終わって、ふうと大きなため息が漏れる。

人はどんな悲劇的なことがあっても、
時が経てばまた誰かを愛するようになる。
自分の無力をとことん思い知っても、
時が経てば誰かを支えたいと思うようになる。
そんな人間の宿命、業を感じさせてくれる映画。
今この瞬間を大切に生きなければ、と思わせられた。


山猫

2012-04-24 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★★ 1963年/イタリア 監督/ルキノ・ヴィスコンティ
(NHK-BSにて鑑賞)



「圧倒されるとはこのこと」

1860年春。イタリア全土はブルボン王朝から、国王ビクトル・エマニュエルの統治下に入った。
シシリー島の名門を誇っていたサリナ公爵(バート・ランカスター)。
彼は貴族の終焉を悟りつつあるのだった…。


むかし、むかーし、大阪の大毎地下劇場で見たことがあるのだが、それ以来か。
いやはや、デジタル技術の進歩はすごい。
今更言うまでもないが、ヴィスコンティ作品の本気度、作り込み具合はすさまじいんだけども、
こうしてクリアな画面を見ていると、画面の中の情報量に圧倒される。
貴族の屋敷、調度品、絵画、役者たちがまとっているドレス、アクセサリー。
何もかもが、一流で、ゴージャスで、きらびやかで、
スクリーンの隅々までぎっしり詰まっている感じ。
画面に映し出されるモノたちの情報量がハンパじゃない。
出てくるもの、出てくるものが凄すぎて、息を止めて見つめてしまう。

私自身はしがない商売人の娘で、現在もせっせと日銭を稼ぐ自営業なんだけど、
なぜか貴族の没落とか、セレブのアンニュイな気分を描いた映画が大好きである。
持つ者の憂いっていうのかなあ。消えゆく運命のものを想い、しがみつこうとする、その切なさ。

アラン・ドロンのカッコ良さったら、ないです。
どんな女性もメロメロですね。
絶世の美女とも言われるクラウディア・カルディナーレですが、
わたしはあんまり美しいと思わないです。好みの問題だろうけど。
例えばアヌーク・エーメなんかの方が何十倍も美人だと思うんだけどなあ。

まあ、それはさておき、全編の3分の1を占めるとも言われる、後半の大舞踏会は圧巻。
もうこんなシーンを再現することは二度と不可能でしょう。




シザーハンズ

2012-04-23 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 1990年/アメリカ 監督/ティム・バートン
(DVDにて鑑賞)


「のめり込める世界観」



愛する人を抱きしめられない。これ以上悲しいことはないですね。
手がハサミになっているから、とんでもなくクリエイティブなことはできるんだけど、
普通の日常生活では凶器になってしまうこともある。
自分を生み出した博士が死んでしまったことを考えると、
エドワードは親の愛を受けずに育った子どものようである。
愛を知らない人間が初めて愛を知り、それを表そうとするけれども、
どう表していいのかわからない。
大人のファンタジー作品として非常に良くできた作品だと思います。

目のくぼんだ不気味な形相。
この異形のキャラクターをジョニー・デップは見事に演じていて、
誰もがエドワードの哀しみを共有します。
私が気に入ったのは、カラフルな街の様子です。
様々なビビッドな色で壁を塗られた家たち。
これらの見た目は一目でこの世界がファンタジーであることを示しているのですが、
おとぎ話としての世界観が実に完璧に仕上げられているため、
観客はすっかりこの世界の住人となり、まるで我が家の隣にエドワードが引っ越してきたかのごとく、
物語に入り込めてしまうんですね。

ファンタジー作品は、なかなかその世界に入り込めないためあまり好きなジャンルではないのですが、
ティム・バートンは観客をファンタジーの世界に引き込むチカラを持った人だと思う。

猿の惑星:創世記(ジェネシス)

2012-04-22 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2011年/アメリカ 監督/ルパート・ワイアット
(映画館にて鑑賞)


「猿に襲われる恐怖」

SFの古典「猿の惑星」のエピソード1とも言うべき構成。
なぜ、猿が突然人間と同等に進化し、人類を征服せんとするようになったのかを描く。

とても怖かったです。猿の群れがビルのガラスをたたき割って、一斉に押し寄せる様子は、
もし本当にこんなことが起こったらと思うとぞっとします。
その余韻は映画館を出てからもしばらく消えませんでした。
でも、よくよく考えてみると、それは非常に直接的な暴力に対する恐怖なんですね。

話、ちょっと横道に反れますが、
以前猿がいることで有名な観光地に行った時、使い捨てカメラを売店で買いました。
購入後、そのカメラが入った白いビニール袋をぶらぶらとぶらさげて歩いていると、
前にいた猿がジャンプして、私の手から白い袋を奪っていったんです。
たったそれだけのことでしたが、すごく怖かったなあ。
予測のしようがない機敏な動き。ぐいっと袋を引っ張られた時の驚き。
猿たちがビルに乗り込んでくる恐怖は、その昔の記憶を思い出させました。

対して、オリジナルの「猿の惑星」は、人間が猿に支配されることの恐怖を描く。
人間が「猿ごとき」に支配されてしまう、得も言われぬ嫌悪感と屈辱。
それを想像することが恐怖となる。
テーマ性は断然オリジナルの方が好き。
本作は完全にパニック映画としてのエンターテイメントを強調している。
いかにも、今のハリウッド映画だと思う。

パイレーツロック

2012-04-21 | 外国映画(は行)
★★★ 2009年/アメリカ 監督/リチャード・カーティス
(DVDにて観賞)

「あんまロックしてなくない?」


NO MUSIC NO LIFEな人間なんですけど、どうもこれはノレなかったなあ。
大海原に漂う海賊船のロック局を政府がたたきつぶす、なんてストーリーからも
もっと盛り上がってもいいんじゃないかと思うんだけど、
私のテンションは最後まで上がらず、残念。

全体的に散漫なんですよね。
ストーリーの軸は海賊局と政府の対立なんだけど、ここのコントラストが効いていないくせに、
DJにのぼせあがるグルーピーの話とか、Djの誰かの息子らしき青年の父親探しだとか、
それぞれのエピソードがうまく絡み合ってないの。
ラジオから流れてくるロックに耳を傾ける人々のシーンがあちこちでインサートされるんだけど、
これがねえ、どれもこれもベタっていうか、ひねりがなくてしらじらしい。
例えば、新入りの青年がようやく童貞喪失したってのをラジオ中継していて、
それに対してリスナーが「やった!」みたいなリアクションしててさあ、ホントかよー?みたいな。

ロックのくせに映画の作りはハートフルだし、オーソドックスだし、反骨精神がないわけよ。
やっぱ、これはアメリカ映画だからか?って言ったら言い過ぎ?
これがロンドンメイドだったら、もっと音楽の使い方はカッコ良かったと思う。
「キンキー・ブーツ」とか「THIS IS ENGLAND」の方がもっとロックしてたぜ。
私には内輪ノリの映画に感じられました。












THIS IS ENGLAND

恋愛小説家

2012-04-20 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★ 1997年/アメリカ 監督/ジェームズ・L.ブルックス
(DVDにて観賞)

「日常の細やかな描写」


書いた本はすべてベストセラーという恋愛小説家メルビン。しかし実際の本人は、異常なまでに潔癖性で神経質の嫌われ者。周囲に毒舌をまき散らし、友人は誰もいない。。そんな彼がある日、ウェイトレスのキャロルに淡い恋心を抱くが・・・。

まあ、王道と言っちゃあ王道の展開なんですけど、ものすごく安心して見られるよね。
そういう気分の時に応えてくれる映画ってのは、それはそれでいい映画なんだと思う。
偏屈の作家が恋心を抱くウェイトレスのキャロル。
このキャロルが適度な具合に枯れているっていうのが、いいよね。
病気の息子がいて、毎日の生活にいっぱいいっぱいで、着飾ることもない中年女。
そんな女性に惹かれるってことからして、すでにメルビンいいヤツじゃんとか思ってしまうもん。

好きな人に素直になれないっていうのも、誰にでも共通するところで、
メルビンというキャラクターは特異でも、内容は非常に普遍的なラブストーリーでしょう。

そうした普遍性を持ちながらも魅力的な映画になっているのは
メルビンとキャロルの人物設定が実に細やかに描かれていることだと思う。
これって当たり前のことなんだけど、この肝心な部分が抜け落ちている映画の多いこと。
舗道の敷石をまたいで歩くメルビン、子どもの病院への送り迎えで疲れはてた姿のキャロル。
こうしたふたりの日常の描写の積み重ねがあるから、
ラストシーンでふたりが「一緒にパンを買いに行く」というシークエンスが
「ひとりの日常」から「ふたりの日常」になるわけだね、としみじみさせてくれるんだと思う。

猿の惑星

2012-04-19 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 1968年/アメリカ 監督/フランクリン・J.シャフナー
(DVDにて観賞)


「色あせることのないテーマ」


久しぶりにオリジナルを再鑑賞。
何度も見ているのだけど、おもしろい。
こんなに面白かったっけ?と思うほど、新鮮。

昨年、エピソード1とも言える猿の惑星の最新作が公開され、
本作と比べるにメイクの技術もCGの技術も格段に違うのですが、
それを見た上でもなお、このオリジナル版には大変引きつけられるものがあります

主人公のテイラーを演じるチャールトン・ヘストンは、
私の中ではすっかり全米ライフル協会会長のイメージが強くて、
なーんかヤなヤツって印象で、ちょっとフィルタをかけて見てしまったんだが、
この映画の中でもやっぱイヤなヤツだった。
妙に自信満々で、せっかく手をさしのべてくれた博士にも態度が尊大だし、
どこまで言っても、「こいつらサルだろ!?」って態度が変わんないワケ。
見ててすっごいイライラする。

でも、このイライラした気分って、
人間が猿にこき使われているのを見ている私自身の不快感も一つの原因なんだと思う。
人間が人間でいる、というただそれだけのことで、こんなに人としてのプライドを持っているもんなんだな
なんてことを再認識させられる。
この作品が示す舞台装置の中で、我々はおそらくひとりとして猿たちの立場に立って見ることはないだろう。
およそ物語に共感して作品を見る、ということであれば、みな不時着した宇宙飛行士に寄り添うしかないんである。
ああ、それなのにテイラーのイヤな奴具合と言ったら…。

しかし、それこそがこの作品の不朽の名作たるゆえんだろう。
テイラーは支配される側の人間達の先頭に立って革命を起こすヒーローなんかではないのだ。
テイラーに象徴される人間の成れの果てがこの世界なんである、と示されることの絶望感。
何度見ても発見のある作品。





ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~

2012-04-18 | 外国映画(さ行)
★★★ 2006年/アメリカ 監督/ハイディ・ユーイング/レイチェル・グラディ
(DVDにて観賞)


「子どもは何にでも染まる」

ブッシュ政権下のアメリカ。フィッシャー女史が主催するキリスト教福音宣教会では、子どもたちのサマーキャンプに向けての準備が始まっていた。福音派は“キリスト教原理主義”とも呼ばれ、聖書に書いてあることを“すべて真実”としている。だから地球や人類が誕生したのはたかだか六千年ほど前で、「人は神が創ったもので、進化論はウソ」と子どもたちに教えている。福音派の子どもたちが行くサマーキャンプでは、子どもたちが神を称え、トランス状態に…。

最近、「ふしぎなキリスト教」という本を読みまして。
日頃からこのうさんくさい宗教に疑問を持つ人間としては
ずいぶん納得させられることが多かったです。

それはさておき、この映画では「キリスト教原理主義」のカルト的な側面がこれでもかと描かれており、
日本人なら誰でもオウム真理教を思い出さずにはいられないでしょう。
とりわけ、スポットを当てられているのは、入信を決める子どもたちの様子です。
教団の幹部であるフィッシャー女史が、人口の3分の1いる子どもを狙うのは当たり前と言っていて完全に戦略なワケです。
子どもを手名付けるのは簡単だということで、大人よりも子どもを狙って入信を促す。

ゴッド万歳!みたいなロックバンドがいたりして、それも入信させるための手段のひとつ。
手を変え、品を変え、子どもたちを入信させて、キャンプに来させる。
そして、明けても暮れても、日々マインドコントロールに打ち込むんですよ。
すっかり洗脳された子どもたちが神を叫んで涙を流す様子が本当に怖い。

教団のやってることが憎々しいのはもちろんだけど、
子どもって、本当に何にでも染まるんだなって、つくづく思わされる。
大人の言うことに見事に誘導されてしまう。
教団の存在よりも、むしろそのことが心に残った。
彼らの未来はどんな風になってしまうんだろう。

Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち

2012-04-05 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 2011年/ドイツ 監督/ヴィム・ベンダース
(映画館にて鑑賞)


「3Dはこういう映画のためにある」


ド派手なアクションやカーチェイスの迫力を出すために3Dは存在しているかのようだった昨今。
そうか、こういうことだったのか、と目から鱗がおちるような体験だった。
3D効果によって、まるで本物の舞台を見ているよう。
自分のすぐ目の前で踊ってくれているかのよう。

この映画の噂を聞いた時にダンス映画でなんで3D?などと疑問を感じた私が馬鹿だった。
3Dはこういう映画のためにあるのだ。

ピナのダンスは非常に観念的なので、興味のない方にはつまらないかも知れない。
しかし、3D効果により、ダンサーたちの僅かな動きまでも
観客にビビッドに伝わってくるかつてない体験は、映画館でしか味わえないもので、
後からDVDをレンタルして見るものはまるで別物と言っていい。

ヴェンダース監督は「映画館で3D映画を見る」ことの新たな境地を切り開いたんだと思う。
今後はドキュメンタリー映画などにも、3Dが進出してくるだろう。

さすがに、ほとんどセリフなしで踊り続けるもんで、ちょっと睡魔が襲ってきたのは否めないのだけど。

そんでも、あの独創的なピナのダンスは、どれもこれも印象的だった。
私が好きなのは、振り子のように倒れる女性を男性が支えながら、静かに歩いて行くダンスだなあ。
崩壊寸前、死のぎりぎり手前。そんな危うくて、もろい人間の心を表しているように感じた。









八日目の蝉

2012-04-03 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2011年/日本 監督/成島出
(DVDにて鑑賞)(原作は既読)


「一日一日をこどもと生きる」


全くその権威など信用していない日本アカデミー賞でありますが、
昨年は「悪人」、今年はこの作品が受賞してましたね。
こういう社会派に賞をあげときゃいいやって、風潮なんでしょうか。
ベストセラー小説が元ネタってことで、いろんなところを巻き込んで二次利益が出るんでしょう。
そして、井上真央は熱演ですけど、最優秀主演女優かと言われると、
主演はむしろ永作博美では?と思ってしまいました。
しかし「悪人」よりは、良かったです。

この映画で示されるのは、手垢のついたテーマの「母性」。
子供を産めない女性が、ひとたびその手に赤ん坊を抱いた瞬間に母になってしまった、
というもので、永作博美演じる希和子が「毎日、毎日この子と生きられますように」と願うその様には
全ての女性が胸を締め付けられるのではないでしょうか。
そこに、子供を産んだ経験があるかないかは関係ない。

もちろん私は全ての女性は母性を持っている、などと言う
男社会の押しつけ幻想などこれっぽっちも持っていません。

母性とは、子どもを産もうと産もうまいと全ての女性が持っているということでは決してなく、
目の前にある小さな命の一日一日の輝きに目をこらし、一瞬一瞬の営みに寄り添うことで生まれるものだ、と。
誘拐犯の永作博美の演技を見ていて、そう思わされました。

いつ逮捕されるかも知れない日々の中で刹那的に生きる女ですが、
だからこそ、ささやかな幸せの価値を誰よりも知っている。
そんな希和子を演じる永作博美がとても良かった。

エンジェルホームや写真館の描写は、気に入りませんでした。
敢えて、異空間のように見せることで、希和子と薫の世界を際立たせたかったのかも知れませんが、
私はエンジェルホームも写真館も特別な場所ではなく、
ふたりが通過した場所として配置してくれた方がすんなり溶け込めました。

あとは、やっぱり小池栄子。内股の小刻みな歩き方まで役作りしてて、この人はいい。
そして、劇団ひとり。この人、いつもおいしい役過ぎませんか。なんだかなあ。




エディット・ピアフ 愛の賛歌

2012-04-02 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 2007年/フランス/チェコ/イギリス 監督/オリヴィエ・ダアン
(NHK-BSにて鑑賞)


「激しく生きるしかない」

マリオン・コティヤールがアカデミー賞主演女優賞を獲った話題作なのですが、
アカデミー賞ではここのところ、実在の人物の物真似演技が主演賞を獲るという事態が続いているので
ちょっと見るのをためらっていたんです。
でも、とても良かった。

何がいいって、撮影です。
カメラマンが日本人の永田鉄男ですが、この作品でセザール賞撮影賞を受賞しているんですよね。
ピアフの幼少期の売春宿でのシーンや、晩年期のベッドに横たわるシーンなど、
薄暗い中での撮影が本当に美しい。
陰影の付け方がうまいんですよね。そして、柔らかな光。
私は本作を昼間にテレビ画面で見てしまって、ちょっと後悔。
まだNHK-BSだっただけに、クリアな映像だったと思いますが、
真っ暗な映画館で見たらこの陰影はもっと美しかったんだろうな。

フランス映画ではエリック・ロメールを筆頭に暗いシーンを美しく撮るのが実にうまいんだけど、
しかもこの美しい映像を日本人が撮ってるんだと思うと嬉しい。
「大停電の夜に」もすごく良かったしね。

マリオン・コティヤールも大熱演ですね。
物真似とか言ってごめんなさいと素直に謝ります。

ピアフって、性格のいい女とはとても言えなくて、どうしてそうなるの!?
ってくらい破滅的な方向へ自らを導いてしまうんだけど、私は憎めないです、この人。
同性からしたら好き嫌いの別れるタイプっかも知れませんが。
やっぱり、ピアフの歌がいいし。ズタボロになった体から絞り出すように歌い上げる「水に流して」。
背筋がゾクゾクして、涙が出てくる。
ピアフって人は神様がどんなに傷ついても歌を歌うようにこの世に送り出したんだろうなと思ってしまった。