ワンダフルライフ ★★★★ 1998年/日本/118分
監督/是枝裕和 主演/ARATA、内藤剛志
「リアルとファンタジーの気持ちよい融合」
霧に包まれた古い建物に人々が吸い込まれていく。全部で22人。彼らは面接室に案内され、そこで待ち受けていた職員にこう言われる。「あなたは昨日、お亡くなりになりました。ここにいる間にあなたの人生を振り返って大切な思い出をひとつだけ選んで下さい。」彼らはこの施設で天国へ行くまでの7日間を過ごすことになっているのだ。選ばれた思い出は職員たちの手で撮影され、最終日には上映会が開かれる。死者はいちばん大切な思い出を胸に、死の世界へ旅立つのだ…
「誰も知らない」で一躍有名になった是枝裕和監督の1998年の作品。私は「誰も知らない」よりこちらの方が好き。是枝監督の作品を初めて見たのがこれで、ドキュメンタリー出身の監督というのを知らなかったため、その独特のタッチに最初は少々とまどったのだが、設定が面白く、また役者たちの演じているのか、素なのか、何ともわからない演技に妙に引き込まれる。
古い建物は例えて言うなら、生と死の境目。そこに勤務している人々は、大切な思い出をひとつだけ選ぶことができず、スタッフとしてその建物に残っている。死んだ人は面接室で自分のこれまでの人生の中でいちばん大切な思い出を必死にたぐりよせようとする。なかなか答が選べない人、そんないい思い出は一つもないという人、最初に出した答を後から変えてしまう人、と様々だ。さて、果たして自分が今死んだら、いったいどんな思い出を選ぶのだろうと思わず考えてしまう。
そう考えずにいられないのは、この登場人物の中に俳優ではない「素人さん」が多数出演しているからなのだ。「素人さん」はカメラに向かって、自分の人生を語る。このあたりがドキュメンタリー出身の是枝監督らしく、非常にうまく撮られている。兄のために「赤い靴」の踊りを披露した時のことを選んだおばあさん。パイロットを目指してセスナで飛行訓練した時のことを選んだ会社員。どれもが脚本ではなく、本当に彼らが選び出した答なのだ。彼らの話を聞くこと、それは彼らが「生きてきた喜び」を聞くこと。みんな死者である、という設定なのに「生きることのすばらしさ」がじわっと伝わってくるのだ。
淡々としたストーリー展開でこのままで終わるのかな、と思っていたら、最後にちょっとしたどんでん返しも用意されている。しかし、もちろん是枝作品らしく映画全体を覆う雰囲気は、いたって穏やかで、静かに幕を閉じる。そしてその静けさの中で、やはり「果たして私なら…」という思いに浸らずにはいられない。この作品は生きることのすばらしさを伝える、素敵なファンタジー映画です。
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監督/是枝裕和 主演/ARATA、内藤剛志
「リアルとファンタジーの気持ちよい融合」
霧に包まれた古い建物に人々が吸い込まれていく。全部で22人。彼らは面接室に案内され、そこで待ち受けていた職員にこう言われる。「あなたは昨日、お亡くなりになりました。ここにいる間にあなたの人生を振り返って大切な思い出をひとつだけ選んで下さい。」彼らはこの施設で天国へ行くまでの7日間を過ごすことになっているのだ。選ばれた思い出は職員たちの手で撮影され、最終日には上映会が開かれる。死者はいちばん大切な思い出を胸に、死の世界へ旅立つのだ…
「誰も知らない」で一躍有名になった是枝裕和監督の1998年の作品。私は「誰も知らない」よりこちらの方が好き。是枝監督の作品を初めて見たのがこれで、ドキュメンタリー出身の監督というのを知らなかったため、その独特のタッチに最初は少々とまどったのだが、設定が面白く、また役者たちの演じているのか、素なのか、何ともわからない演技に妙に引き込まれる。
古い建物は例えて言うなら、生と死の境目。そこに勤務している人々は、大切な思い出をひとつだけ選ぶことができず、スタッフとしてその建物に残っている。死んだ人は面接室で自分のこれまでの人生の中でいちばん大切な思い出を必死にたぐりよせようとする。なかなか答が選べない人、そんないい思い出は一つもないという人、最初に出した答を後から変えてしまう人、と様々だ。さて、果たして自分が今死んだら、いったいどんな思い出を選ぶのだろうと思わず考えてしまう。
そう考えずにいられないのは、この登場人物の中に俳優ではない「素人さん」が多数出演しているからなのだ。「素人さん」はカメラに向かって、自分の人生を語る。このあたりがドキュメンタリー出身の是枝監督らしく、非常にうまく撮られている。兄のために「赤い靴」の踊りを披露した時のことを選んだおばあさん。パイロットを目指してセスナで飛行訓練した時のことを選んだ会社員。どれもが脚本ではなく、本当に彼らが選び出した答なのだ。彼らの話を聞くこと、それは彼らが「生きてきた喜び」を聞くこと。みんな死者である、という設定なのに「生きることのすばらしさ」がじわっと伝わってくるのだ。
淡々としたストーリー展開でこのままで終わるのかな、と思っていたら、最後にちょっとしたどんでん返しも用意されている。しかし、もちろん是枝作品らしく映画全体を覆う雰囲気は、いたって穏やかで、静かに幕を閉じる。そしてその静けさの中で、やはり「果たして私なら…」という思いに浸らずにはいられない。この作品は生きることのすばらしさを伝える、素敵なファンタジー映画です。
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