Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

運命の女

2011-01-29 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 2002年/アメリカ 監督/エイドリアン・ライン

「女のココロもカラダも映像で魅せる」

いやぁ、これはやられた。さすが、エイドリアン・ライン。官能たるは何かを心得てらっしゃる。わたしゃ感心し過ぎて、思わずうーん、うーんと唸り続けてしまったよ。

初めて浮気した日、帰りの電車で悶えるダイアン・レインのシークエンスが圧巻。つい先ほどの情事を思い出して思わずトイレに駆け込んでしまうんですよね。狭い狭い列車のトイレ内。ぐるぐると引き出されるトイレットペーパー。列車が揺れて、洗面に溜まった水がぐわんぐわんと揺れる。この水面の揺れがいろいろと想像を掻き立てるんですねー。洗面の水がエロいなんて思ったの、これが初めてですよ。

もちろん、その後続くベッドシーンの数々も非常に美しいですが、肌と肌を重ねる映像ではなく、別の方法で官能を表現する才能はピカイチだわ。この人はどういう映像にすればオンナの本能に響くのかとわかっているとしか思えない。これは、鍛えようがなくて、持って生まれたものだと思う。

ダイアン・レインが美しいってことはさておき、むしろ私はこの作品のリチャード・ギアが凄くいいと思った。クライマックス、浮気相手をいざ目の前にした時の困惑した表情。リチャード・ギアのあんな顔は初めて見た気がするなあ。

ストーリーは昼メロみたいなんだけど、溺れる女心、焦らされる女心、戸惑いの女心と中年女の心模様を映像が見事に物語っていてすばらしいのであります。

フィリップ、きみを愛してる!

2011-01-28 | 外国映画(は行)
★★★★ 2009年/アメリカ 監督/グレン・フィカーラ
「ユアンのはにかんだ微笑み」

愛する家族より自分らしく生きることを選んだ警官のスティーヴン(ジム・キャリー)。しかし、ボーイフレンドと派手な生活をするために詐欺師となり、あえなく刑務所行きに。そこで今度はフィリップ(ユアン・マクレガー)に一目ぼれし、自分は弁護士だとうそをつく。釈放後、晴れて幸せを手に入れた二人だったが、スティーヴンはさらなるうそと不正を重ねていき、再び刑務所に入れられるのだが…。

刑務所で初めてスティーブンがフィリップに会った時のユアン・マクレガーのはにかんだ微笑み。そのかわいらしいことと言ったら!実話が元になったドタバタゲイ・コメディーと思って見始めたけど、ユアンのかわいらしさにノックアウトされてしまった。ジム・キャリーの弾けた演技もとっても笑わせてくれるのだけど、ユアンのラブリーさがあまりに期待以上で驚いちゃった。

ただひたすら好きな人のために、詐欺と脱獄を繰り返す。その破天荒ぶりがとことんおかしい。こんなこと、ホントにあったわけ!?とビックリだよ。わたしゃ、事前情報を知らずに観ていて、このスティーブンってヤツは何て頭がいいんだろう!と思ったら、IQ163なんだって!知能が高ければ、勉強してなくても弁護士になれちゃうの?CEOになれちゃうの?ツッコミどころ満載なんだけど、実話だって言うんだもんね。ほんとにあったんだよね?脚色してないの?いや、ホント疑いたくなるくらいスティーブンのやってること無茶苦茶なんだって。

スティーブンって頭はいいけど、この惚れ込みようはちょっとアブナイ。思い込みが激しすぎて、かなりイタイ男だ。このドギツイ愛を受け入れ続ける課程も、ほんとはもっといろんなことあったんじゃないかしら。でも映画では、全編「愛こそ全て」で突っ走っていて、イケイケドンドン。ゲイカップルらしい赤裸々なラブシーンはちょっと引いちゃうんだけど、もうこの勢いに押されっぱなしで、楽しむが勝ちな作品であります。

人生万歳!

2011-01-27 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2010年/アメリカ 監督/ウディ・アレン
「恋はアンストッパブル」

<梅田ガーデンシネマにて観賞>

かつて物理学でノーベル賞候補にもなったボリス(ラリー・デヴィッド)は、自殺を図るが失敗。命は助かったものの結局妻とも離婚し、大学教授の地位も失ってしまう。今では古いアパート住まいの彼はある晩、南部の田舎町から家出してきたメロディ(エヴァン・レイチェル・ウッド)という若い女性に同情し、家に上げるが、彼女は住みつき、ボリスを好きだとまで言い始める…


ウディ・アレン、御年75歳。で、どんどん新作発表中。凄いよねー。しかも、お年を召しても、映画の内容がジジ臭くないってのが、凄い。どんどん、人を好きになりなさい。男でも女でもいい。若くても、年寄りでもいい。人生、恋してナンボ。ウディの恋愛布教は死ぬまで続くのだね。うん、ウディ爺さんの教えにアタシもついていくのだ。

主人公ボリスは、もろ今までのウディが演じてきた役そのままなのだけど、ラリー・デヴィッドは滑舌が良く、声も大きくて、逆にそれがかえって仇となり、次から次へと出てくる毒舌が、ちょっとうるさく聞こえてしまった。ウディの情けない小さな声だからこそ、あのシニカルなセリフがトホホ節になると思うんだけどなー。

20歳そこそこの田舎娘がNY住まいの爺さんを好きになってしまう、というスタートから始まり、次から次へと始まる恋模様。おっとっと、アンタの好きな人はこっちでしたかい?人は変わる。住む場所も、仕事も、好きなタイプも変わってゆく。それで、いいんだよ。ウディの「いつもの」展開なのに、テンポの良さもあって、意外なカップル誕生が見抜けなかった、うーん、悔しい。とにかく、いっぱい笑わせてもらいました。


エイリアン

2011-01-27 | 外国映画(あ行)
★★★★ 1979年/アメリカ 監督/リドリー・スコット
「仕事熱心な女は宇宙空間でも嫌われる」

<ブルーレイにて観賞>

静かに船内を移動するカメラ。余計なBGMもなく、何かが起きそうな予兆を感じさせる。すると、真っ白な部屋が現れ、透明のカプセルが次々と花が咲くように開いてゆき、ひとり、またひとりと船員が目覚め始める。

この冒頭部は、とっても「2001年宇宙の旅」を感じさせますね。うまく言葉では表せないんだけど「2001年」への敬意を感じる。ブルーレイだからだと思うんだけど、船内の映像がとても美しい。特典映像でリドリー・スコットが「古びた船のイメージ」と言っていたけど(使わなくなった飛行機の部品を借りてきたらしいね)、その古びた質感、ざらついた手触りが伝わってくるような映像のクオリティ。これはブルーレイで見る価値アリです。

さて、このあまりに有名な傑作を私は初めて見たわけですが、その後のストーリーは予想していたものと違って、実は少々ガッカリ。なーんだ、ひとりまたひとりと殺されていくわけねー。ううむ。よくあるホラーサバイバルじゃんか。次に殺されるのは誰かしらーってヤツですよ。ほら、そこそこ!危ないって!そんなところ、ひとりで行ったらアカンがな!と、息子とわめきまくる(笑)。こういう展開って、好みじゃないの。

さて、シガニー・ウィーバー演じるリプリーと船員たちの不和には、何か意味があるのかしら?何か裏ストーリーでも存在しているの?とつい勘ぐりたくなる。最初に顔面攻撃を食らったクルーに対して「船内に入れるな!」というリプリーの主張を聞き入れずハッチをあけてしまう科学担当のアッシュが「ナニ」だったとしても、どいつもこいつもリプリーの言うこと、聞かない聞かない。

宇宙はすでに商売を行う空間で、この船がどうやら長い旅に出ていて…という状況はよくわかる。マグロの捕鯨で長旅に出かけている漁師たちみたいなもんかな。疲れてるし、さっさと任務を遂行して、帰りたいよな。それにしてもさ、「デキる女」はウザい、という空気が船内にプンプンしていて、同僚の女子もそんな態度で、なんだよー宇宙空間でもまだ女同士で足の引っ張り合いしてんのかよ、と悲しくなった。えーと、そういう映画じゃないんだよな。はは。

ラストカットが凄くいいね。シガニー・ウィーバーの疲れ果てた、しかし安堵した横顔がとても美しいのです。

宇宙戦争

2011-01-23 | 外国映画(あ行)
★★★☆ 2005年/アメリカ 監督/スティーブン・スピルバーグ

「破壊話に中途半端な家族愛はいらない」

宇宙人に襲撃され、ひたすら逃げ回る。ただ、それだけの映画。とりわけ、泣き叫ぶダコタ・ファニングがうざい。うざすぎる。いくらまだ小さいからと言って、この期に及んで狂った暴徒を「車に乗せてあげたら?」なんて言わせる脚本もどうなの?ありえんてぃー。

というのが、初めて本作を見た時の感想。

で、テレビで二回目の鑑賞。
うん、同じなんだわ。これは、こういう映画なんだね。私は好んでパニック映画は見ないけど、何者かに襲来されて人類が命の危険に襲われるっていうストーリーはごまんとあるよね。「鳥」もそうだし、「ミスト」もそうだし、新旧いろいろあるわけ。人間は木っ端みじんに吹き飛ばされ灰になり、建物はぶっ壊され、列車は火をつけられ、舟はひっくり返される。人間そのものと人間の創造物が次々と破壊されていくのを空しく眺めるという、非常にブラックな映画なんだよね。そうならそうでいいんだけど、見ていてツマラン、と思わされるのは「壊れかけた家族」が主人公だってことね。

もし、これがリストラされた失業者が主人公で逃げて逃げて逃げ回ったあげく、周りは焼け野原で誰もおらんかったってな話の方がなんぼかすっきりと腑に落ちるよ。

でも、このざらついた独特の映像と圧倒的なメカの存在感はさすがスピルバーグって、ことなんでしょうな。

うるさいダコタ・ファニングだけど、そういえば「ジュラシック・パーク」でも逃げ回るお姉ちゃんがキャーキャーわめいて、やたらとうるさかったのを思い出した。ただ、あれはあれで子供の恐怖感がホラー映画としての重要な要素として生かされていたのは確か。でも、本作ではイライラさせるだけなんだもんなあ。もしかして、スピルバーグは子供が嫌いなのかも?






王の男

2011-01-22 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 2006年/韓国 監督/イ・ジュニク

「生命感あふれる旅芸人たちをとらえるカメラがすばらしい」

韓国史上最悪の暴君と言われる実在の王、燕山君(ヨンサングン)をモチーフに、その暴君に気に入られたことで運命を狂わされていく2人の芸人の姿をドラマティックかつ絢爛豪華に綴る歴史巨編。時は16世紀初頭。旅芸人一座の花形チャンセンと女形のコンギルは、国一番の芸人になろうと誓い合い、一座を抜け出し漢陽の都にやって来る。そこで時の王、ヨンサングンの悪評を耳にした2人は、宮廷を皮肉る芝居を思いつく。たちまち民衆の人気を博した2人だったが、噂を聞きつけた王の重臣によって捕らえられ、王が芝居を見て笑わなければ死刑にすると言い渡されてしまう…。

女形のコンギルを演じるイ・ジュンギがとっても美しいから見て!と、友人に勧められていたのですけど、韓流イケメンに全く興味がないので、棚の隅においやってました。
で、何となく取り出して見てみたら、すごく良かった。

旅芸人たちの躍動感が伝わるカメラワークがすばらしいんです。冒頭、帽子の先に白いリボンをくくり付けてぐるんぐるんと弧を描く舞踏が出てきますけど、あのリボンの動きをとらえるカメラでこの作品の虜になってしまいました。大地のエネルギーが感じられる生命感、そして芸人たちの生き生きとした表情。当時の韓国文化を知らないだけに、彼らの繰り広げる大道芸の数々が面白くて面白くて。クレーンも多用していますが、これがとても効果的です。

王を揶揄した芝居で大衆に大ウケするのだが、それが重臣の目に触れあやうく打ち首になりそうになる。そこで、主人公チャンセンが提案する。「この芸を王の前でやらせてくれ。そして、もし王が笑ったらそれは王を侮辱したことにはならないだろう?」と。すると、王は芝居を気に入ったどころか、彼らを宮中に住まわせるようになる。

もう、この展開で芸人たちの行く末が哀しい顛末になることは想像に難くない。だから、彼らの芸を王が気に入れば気に入るほど、切なさがこみ上げてくる。
そして、コンギルが王に見せる人形劇や影絵のシーンに心がじいんとなる。

後で予告編なんかを見ると、男たちの愛憎劇みたいな風に紹介されてるんだけど、全然違うよね。
自らの芸と自らの意思で人生を切り開いてきた旅芸人たちの哀しい運命。
ヨンサングンのつらさも伝わってきて、ほんといい映画だった。



ゴールデンスランバー

2011-01-22 | 日本映画(か行)
★★★★ 2009年/日本 監督/中村義洋

「原作そのままの映像化。だから?」

好評レビューが多いので、ちょっと気が引けるだけど。

原作の世界観をそのまま表現できているのかも知れない。だけど、映画としてのトキメキを感じない。見ていて、キュンとなる瞬間はある。でも、それは原作が持っているものだ。と、私は感じる。原作の世界観を損なわないよう完成できるというのも、それはそれで大したスキルなんだろう。だけど、ショットやシークエンスで、ドキッとさせてくれないと、私は物足りない。だって、素材がもともといいんだもの。

「重力ピエロ」を見た時のこと。春が教室が飛び降りるシーンがあるのだが、カメラはジャンプする岡田くんを下から捉え(その飛び降りる姿がやけにカッコいい)桜散る青空がその向こうに広がっていた。小説内の印象的なシーンを映像化するとこうなるんだなあとじぃんとしてしまった。「ゴールデンスランバー」には、そうした目が喜ぶシーンが少なくて残念だった。ちょっと期待しすぎたってこともあるんだけど、やっぱり中村監督と相性が悪いです。

でも、堺雅人はハマリ役だし、暗殺犯に仕立て上げられた男の逃亡劇そのものは面白いし、最後にはあっと驚くどんでん返し。見て損はない作品だと思います。

蟲師

2011-01-21 | 日本映画(ま行)
★★ 2006年/日本 監督/大友克洋

「何が言いたい。何がしたい」

原作マンガにも大友克洋にも全く興味なし。
大森クンが出ているから、と見てみたわけだが、こいつあ酷い映画だった。
始まって、5分で日本語字幕付けました。
だって、意味の通じない言葉が次から次へと出てくるんだもん。
でね、結果的にはこれが大正解。
字幕なかったら、絶対何の話かわかんなかったと思う。

不思議な生命体“蟲”。
自然の中に存在し、その能力を持つ者だけが見ることができる。
こういうモチーフって外国人にはウケるのかも知れないけど、
日本人にはむしろ生きとし生けるものには魂や精霊が宿っている
という観念がそもそも備わっているよね。
だからこそ、この「蟲」なるものが何なのか、困惑させられる。

時に人間を脅かし、時に人間を癒す、聖なる存在。
別に蟲とはこうであるという答を出す必要はないけど、
結局“蟲”を通して人間を描く、
というのがこの手のモチーフの行き着くところだと思うんだよね。

でも、何にもサッパリつたわってこん。
まずもって、セリフの意味がわからないんじゃ、どうしようもないよ。
大友なんとかって、その筋ではカリスマなんかしらんけど、
映画はダメダメだなあ。

ソルト

2011-01-20 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2010年/アメリカ 監督/フィリップ・ノイス

「淫らに輝くアンジー」

こいつぁ、最高に面白かったです。映画館で見るんだった。

銃撃戦や爆撃戦のシーンが出てくると「ちっ、火薬頼みかよ」と思ってしまうアクション映画には不向き体質の私。しかし、何たって本作、アンジーがエロい。それが溜まらなく魅力的でした。

それは、始まってすぐの冒頭シーンから炸裂。下着姿で北朝鮮軍に拷問を受けるアンジー。薄汚れた下着も十分にエロいのですが、なぜかカメラはわざわざ仰向けに転がされた状態の彼女のパンティを柱を陰にして隠してしまう。えっ、もしかしてパンティ脱がされた?と思ったのは私だけでしょうか。その後も、スリット入りのピッチピチのタイトスカートが張り裂けんばかりに動きまくるアンジーですが、絶句したのがオフィス脱走後のタクシー乗車シーン。なんと彼女はパンティなどどこ吹く風で無造作に脚をぽーんと放り投げ、後部シートに深く沈み込むように座る。この沈み込みがまるでドライバーにルームミラーで覗かせるためのポーズのようなのです。私はお金を持ってない代わりに、それで代金を払ったということなのか!?と巻き戻して見てしまったよ。しかも、このシーンでのアンジーの表情が恍惚感たっぷりで、私の妄想はさらに加速してしまったのである。

ややもすれば、下品ではしたない、いかにもポルノ的男性目線を満足させるような序盤の演出。しかし、そんなの承知よ!と言わんばかりに堂々と立ち回るアンジー。惚れました。黒髪ストレートの変身がサービスは終了の合図だったのでしょう。後半はアンジー一大アクション祭へと変貌します。

ソルトが二重スパイなのかという事実そのものよりも、ソルトの行動は善か悪か、誰が味方で誰が敵か、というストーリーの揺さぶりが大変に面白く、最後の最後まで飽きさせない。脇を固める役者も有名俳優が少なく、まさにアンジーを輝かせるための作品と言っていい。アンジーは、エロティックだけではなく、次々とこなす体を張ったアクションも非常にキレがあって、見ていて痛快。「ソルト3」くらいまで、やっちゃってちょうだい。

音符と昆布

2011-01-18 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2007年/日本 監督/井上春生

「何はともあれ池脇千鶴」


この女優がこんな役をやるんなら見てみたい。そう思わせる女優なんて、今の日本にどれだけいるかしら?池脇千鶴はそう思わせてくれる数少ない女優のひとり。後は寺島しのぶくらいしか、浮かばないや。

池脇千鶴がアスペルガーの女の子を演じる。それだけで興味がそそられて見てしまったのだけど、彼女を見ていると演技が上手ということとは違った発見や驚きがある。例えば、白いワンピースからのぞく彼女の二の腕。たるんたるんしていて、お世辞にも引き締まって美しいとは言えない。しかし、このたるたる二の腕が、無垢で無防備でスローテンポな役柄と見事にマッチしている。まさか二の腕が演技しているとは言わないけれども、その存在がアスペルガーのかりんという人間像をより観る側に明確に感じさせてくれることに間違いはないのだ。

そんなことを観賞後思いながら、何気に映像特典の監督インタビューを見ていた。そうしたら、監督が「手をパチパチと叩く仕草は池脇さんが考えたんです」と答えていてびっくり。そうなの、いろいろ印を付けたり、数えたりした後に、できたできたといった表情でかりんが手を叩くんだけど、そこで例のたるたる二の腕がぷるぷると震えてかわいいの。本能でわかってるのかなあ。

で、池脇一方的リードかと思いきや、相手役の市川由衣も予想以上。演技派に演技で対抗するというよりも、サラリと受け止めるような演技で応えているのが良かったんだろう。映像と音楽の融合ってのが本作のテーマらしく、そこはあまりうまくいってるとは思えないんだけど、シーンのほとんどが妹のアパートという場面展開の少ないドラマで、最後まで見せられるのはなかなかだと思いました。

アブラクサスの祭

2011-01-15 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 2010年/日本 監督/加藤直輝
<梅田シネ・リーブルにて観賞>

「シンクロニシティ」


かつてロック・ミュージシャンだった鬱病の僧侶・浄念(スネオヘアー)は、福島の小さな町で妻子と共に暮らしていた。何事にも不器用で、法事や説法すら思い通りにいかない彼が、ある日この町でライブを行うと言い出す。応援する人もいれば罰あたりだと怒り出す人も現れ、彼を温かく見守っていた妻の多恵(ともさかりえ)や住職の玄宗(小林薫)は困惑するのだが…。


ノイズに悩まされる主人公は、今も薬が手放せない。
そんな死にたい願望の鬱病患者が、常に「死」と隣り合わせの坊主になる。
それは、実に耐え難くつらいことなんだろうけど、こんな理想的な療法もないだろう。
修業=治療。

今いるここから始めなければいけない。
それが浄念が得た最初の悟り。
「From here to eternityですよ」と住職に語るシーンはかなり笑える。
本作、かなり暗い作品だが、こうした笑いのシーンがそこかしこでとても効いている。
このシーン、スネオヘアーをアップで真正面でとらえ、絶妙な間を醸し出していて、
ちょっと北野映画を思い浮かべたりするのだけど、
調べてみるとなるほどこの監督、東京藝術大学大学院で北野武、黒沢清らに学んだ人らしい。

そして、ライブを行うことを決意し、
全ては順調かに思えた矢先に思わぬ事件が起きてしまう。

現在日本での自殺は年間3万人を超える。
「なぜ気づけなかったのか」と苦しんだ経験を持つ当事者の友人も多いはずだろう。

そんな人は、ろくにお経も読めなかった浄念が変わってゆく後半にとても惹きつけられるはずだ。
「シンクロしないと、ライブをやる意味がない」
というセリフが出てきますけど、私もシンクロするってことに
とても重きをおいてる人間なもんで、ひどく共感。

なかなかノイジーなサウンドもてんこ盛りで観る人を選ぶかも知れないけど、
あらすじで惹かれる人は観て損はないと思う。
ともさかりえと本上まなみもいいです。


酔拳

2011-01-14 | 外国映画(さ行)
★★★★ 1978年/香港 監督/ユエン・ウーピン


ジャッキーが若くて、めっちゃキレてる!
蛇拳、猿拳、虎拳などなど、種々のマーシャルアーツがてんこ盛りで、大サービス。
ハリウッドアニメの「カンフーパンダ」なんて、もろにこちらが元ネタかあ。
なんて思ったりもするけど、そもそも本作を元ネタにした映画なんて
ごまんとあるに違いなく、私がアクション映画に疎いだけだろう。

最後の対決シーンなんて、場所がただの砂場なんだよね。
遠くに木立が見えるだけの荒れ地。
背景もクソもなくて、広場で黙々と戦ってるだけ。
壁も階段もなくて、視点の動きもほとんどない。
ただ、ひたすらにジャッキーの1対1のカンフー対決が続くのに凄く面白い。

映像特典にマーシャルアーツのライターというアメリカ人(いわゆるカンフーオタク)と
ジャッキーに近い映画関係者のコメンタリーってのがあるんだけど、
これがとても面白い。
私みたいなカンフー映画初心者には知らない話がいっぱいで、これを聞きながら、
もう一回最後まで見ちゃった。
彼らの話によると、本作でジャッキーが演じているフェイフォンという人物は実在の有名人で
誰もこんなにコミカルに演じたことはなかったらしい。
フェイフォンは香港人にとっては敬うべきスター。
それをジャッキーは、ふざけたお調子者のように演じた。
それがすごくチャレンジングなことで、かつ、ウケたことは
香港ではエポックメイキングな出来事だったと。なるほどねー。
それでジャッキーは一躍スターダムをかけあがったんだね。
そういういろんな事情を知っているとまた見る目も変わりそう。
カンフー映画の古典名作巡り、してみよっかなーと思ってしまいました。
だって、ブルース・リーも見たことないんだもん。





アンストッパブル

2011-01-13 | 外国映画(あ行)
★★★★ 2010年/アメリカ 監督/トニー・スコット
<TOHOシネマズ梅田にて観賞>

「暴走列車の走りっぷりに酔う」

とにもかくにも、列車、列車、列車。
スピード感抜群の迫力ある映像はスクリーンで見るべきと思います。
操車場の無骨なビジュアルも新鮮。
銃撃戦や爆破シーン、カーチェイスといったハリウッドアクションの定番とは
ひと味違った面白さがありますね。
猛スピードの列車がキキーっと轟音を立てて走るシークエンスの迫力。
エンジンオイルやら、線路から摩擦で飛び散る火の粉やらの匂いが漂ってきそうです。

リストラ寸前のベテラン操縦者と今日赴任してきたばかりの若い車掌。
この反発し合うふたりの人間模様もあるわけですが、
あまりそこには期待しない方がいいです。
あくまでもそれは味付け程度で、主役は暴走列車。
それくらい割り切って見れば、後半の展開もホロリとするかも知れません。

99分という短さも見やすくてとてもいいのですが、ひとつ大きな難点が。
とにかくカット割が多すぎます。
一秒ごとにカットが変わるといっても過言ではないくらい。
シークエンスはおろか、シーンと呼べる部分もないくらいですよ。
カメラもぐるんぐるん回るし。あれはやり過ぎ。 とても目が疲れました。
もう少し、じっくりカメラを回すシーンを入れてくれれば良かったな。




キャピタリズム~マネーは踊る

2011-01-10 | 外国映画(か行)
★★★★ 2009年/アメリカ 監督/マイケル・ムーア


さあ、アメリカ人よ立ち上がろう!なんて、あまりにもストレートな愛国魂炸裂のエンディングにちょっと面食らう。ムーアがアメリカの不正や腐敗を暴き続けてきたのは、アメリカ人に目を覚まして欲しいから、というのはこれまでの作品でも重々理解はしていたけれども、ここまでおおっぴらにされると引いてしまうよな。とはいえ、ムーア作品は毎度毎度勉強になる。彼の映画は観る人の視点によって、様々な受け止め方ができると思うのだが、私がもっぱら参考にしているのは金融施策とか政治活動とかよりも、アメリカ人のメンタリティ。

我が家を担保にお金を借りる、いわゆるサブプライム問題のくだりになった時、白人の両親と子供2人がソファに座って嬉しそうにリズムに乗りながら、お金を借りよう~~♪みたいなごっきげんのCMが出てくるんだけども、あれは凄い。日本でも武富士のダンシングガール編ってのがあったけど、金貸しCMに小さい子まで駆り出されることはそうそうないでしょう?こんなCMでどんどんお金を借りちゃう国民性ってのはさ、逆にわかりやすいっていうか。案外、日本人がアメリカ人を手なずけるのは簡単なんじゃ?なんてブラックな考えが頭をよぎる(笑)。

大手企業のCEOにしても、メジャーリーガーやゴルフ選手にしても、何十億なんておかしな世界だよ、と前々から思ってはいたけれど、それを支えていたのはアメリカン・ドリームへの憧れなんだね。わかっちゃいたけど、やっぱり日本人のアタシには理解できない。俺だって、一発あてりゃ億万長者になれる。そんな気持ちで生きてる日本人はやっぱ少ないと思うからさ。ただ、到達ラインには雲泥の差があるのだけど、いい大学に入って、いい会社に入れば一生安泰。それが崩れ来ている。という構造は日本も同じなわけで、金を稼ぐために人生のあれやこれやを費やすという生き方でいいのか、という問いかけは十分日本人にも伝わるわけですよ。やっぱ、ムーア作品は面白いね。

大阪ハムレット

2011-01-09 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 2008年/日本 監督/光石富士朗

「大阪ファンタジー」

邦画には「大阪物」というジャンルがあると思うのだが、私はこのジャンルでハズレだと思ったことがほとんどない。私自身大阪人だけに見る目は厳しいつもりなのだが、いざ大阪人情まったりワールドが始まるとそれだけに引き込まれてしまう。マイ・ベスト大阪ムービーは市川準監督の「大阪物語」で、この1位の座はそうそう揺るがないと思う。次点は阪本順治監督の「どついたるねん」か「王手」か。市川監督の「細雪」や「ぼんち」などの船場シリーズもいいねえ。というわけで、本作も見る前からそこそこ期待値があがってしまったのだが、なかなかどうして、楽しめました。

下町の肝っ玉オカンを松坂慶子。オトンが死んでから赤ん坊を身籠もる。子供たちは思う。誰の子やねん、と。それでも、家族は逞しく生きていく。どないする?まあ、どないかなるやろ。これぞ、大阪精神。考えても、しゃーないわな。どないかなりまっせ。

次男坊を演じる森田直幸が光っている。「きみの友だち」「色即ぜねれいしょん」もとても良かったし、いい味出してるなあと思ってたら、現在NHK朝ドラ「てっぱん」にも出演中。きっとこの子、これから注目されると思う。「女の子になりたい」と悩む三男坊のサイドストーリーは、ベルギー映画の秀作「ぼくのバラ色の人生」を彷彿とさせるのだが(この子自身、主人公のリュドビックに非常に似ている)、案外保守的だったベルギーの大人たちに対して、大阪のおっちゃんやおばちゃんは、温かく寛容だ。同級生もいじめたりしない。「お姫様やりたいんやったら、やったらええやんか。」みーんな、それぞれ違ってええんやで。

だけど、醒めたアタシは考える。ホンマかいな?大阪人は、かくも広い心を持ち、弱者を包み込む包容力を持っているのか。現実は、そんなに甘くないぞ。つまり、本作の後半は「大阪ファンタジー」だ。その最も象徴的なシーンが、三男坊が念願のお姫様を演じる学芸会。後ろでぺちゃくちゃしゃべる父兄に「だまってみんかいな!」と一括するおばちゃん。ああ、これは希望やね。こんな風景がまだ大阪にあって欲しい。大阪のおばちゃんはこうあって欲しいというファンタジー。

このファンタジーが成立しているのは、前半部における大阪の風景の細やかな描写あってこそ。子供部屋に貼られた「今岡」「赤星」タオル。(2人ともタイガースにいないというのが無性に悲しい)タイガースユニ来たスナックの客。「大阪一は日本一」の張り紙。「玉出商店街」を行き交うチャリンコの買い物客。あまりにベタ過ぎるのだが、やっぱり「アリ」な風景に大阪人の私の心は揺り動かされる。逞しくて、おもしろくて、大阪人はこうやないとアカンやろと思わされる秀作。元気もらいました。