Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ノルウェイの森

2010-12-18 | 日本映画(な行)
★★★★ 2010年/日本 監督/トライ・アン・ユン
<TOHOシネマズ梅田にて観賞>

「月も太陽も輝かない」


同じクヨクヨ男が主人公でも、太宰は大好きなのに、春樹は受け付けない。
なぜだろうとずっと思っていたけど、最近ある結論に達した。
太宰作品のダメ男は自分みたいな男は吐いて捨てるべきだととことん自虐的なのに対して、
春樹作品のダメ男はこんな自分にも何かできることがあると思っているところだ。
そして、太宰作品のダメ男のそうした確信犯的な部分に対しては、
女性よりもはるかに男性の方が嫌悪感を感じるらしい。
私なんて、「俺なんて駄目」と頭を抱えながら、
本当は見えないところで舌を出しているかも知れない、
そんな男を愛おしいと感じてしまう困った性分なんである。
一方、春樹作品の「こんなボクでもなんとかできるはず」という懸命さに対して
男性たちは、身に詰まらされてエールを送りたくなるんであろうか。
私にいわせりゃ、それって傲慢じゃない?身の程知らずっていうか。
あっ、ちょっと言い過ぎましたね。

さて、そんなこんなで「ノルウェイの森」。
原作は2度ほど読んでますけど、やっぱりワタナベのうじうじっぷりが
鬱陶しくてあまり好きではないです。
じゃあ、なんで見に行ったのか…というと、松ケンのラブシーンがみた~い、
というかなり不純な動機です、はい。
あんまり評判もよろしくなかったので期待せずに行きましたけど、 そこそこ面白かったです。
気に入ったのはファッションの作り込み方。
私は60~70年代のファッションが好きなのですけど、
すごくオシャレに再現されてましたね。
エンドロールをじっと見ていたら、突撃洋服店とか下北沢の有名な古着店が出てました。

松ケンを美しく撮ろうというカメラの明確な意図が見て取れ、
それはある程度成功していたと思うのですが、直子を演じる菊地凜子がねえ。。。
申し訳ないけど、ベッドシーンでアップになっても美しくない。
エキセントリックな女性を演じるにあたって、
しゃべり方や動作などはずいぶん役作りしていたんですが、裸になるとダメです。
直子が別の女優だったら、私はもっと楽しめたように感じます。
緑を演じていた女優(モデルさんらしいですね)は、
トライ・アン・ユン監督がいかにも好きそうな感じ。
ちょっとベトナム人にも見えなくもないアジアンビューティー。
映画初出演としてはがんばっていたと思いますけど、
直子の影からワタナベを引きずりだすほどの引力を放っていたかというと難しい。

緑と直子は太陽と月の関係なんですけど、
そのコントラストが映画ではあまり感じられず残念でした。
原作では対称的な女性に挟まれて悩むワタナベですが、
あれだと両天秤にかけてるだけのいいかげん男ですよね。
原作そのまま?とも覚えるセリフが随所にあって、
非常に文学的なテイストにあふれていまして、人によっては
それが受け付けられないかも。私はそういうところが好きでした。
そして、ずいぶんセックスが作品全体の主題テーマとして押し出されているんですよね。
原作ではそこまでではなかったと思うのですけど、
いざ映像化するとそれがぐんと前に出てくるってのは、ちょっと興味深かった。

脇役で細野晴臣と高橋幸宏が出てくるんですけど、
だったら大学教授役を糸井重里じゃなく、“教授(坂本さん)”にやらせれば良かったのに、
と思うYMOファンでした。
あと、玉山鉄二ね。めっちゃかっこよかったー。
整髪料でぴたっと撫でつけた古くさいヘアスタイルなのに、オ・ト・コ・マ・エ。
彼だけ見ていると、ウォン・カーウァイ作品のようにも感じられて。
アジア映画にどんどん進出して欲しいですね。
トニー・レオンと共演して「ブエノスアイレス」の続編なんてぴったり来そうです。



ベンジャミン・バトン 数奇な人生

2010-12-17 | 外国映画(は行)
★★★★ 2008年/アメリカ 監督/デヴィッド・フィンチャー

「時を刻む愛」

1918年、ニューオーリンズ。80歳の老人の姿で産まれた男の子の赤ん坊。老人養護施設に捨てられた彼を施設の女性クイニーが拾い上げ、ベンジャミンと名付けて育てる。やがて彼は、成長するにつれ髪が増え、皺が減り、車椅子から立って歩けるようになるなど、普通の人間とは逆に若返っていくのだった。そしてある日、デイジーという少女と運命の出会いを果たすが…。

たいへん不思議な映画でした。
観賞後のこの感じを何と表現したら良いのか。
老人で生まれ、どんどん若返る男。
その激動の人生に酔いしれたというような感は全くなく、
何ともしみじみとした気分でエンドロールを見つめました。

老いから誕生へと時の流れを逆行する男、そして駅校舎に付けられた時を遡る時計。
これらのモチーフを見れば、“時間"という概念について
あれこれと考察する要素を持った映画のように思えます。
ところが、観賞後胸に迫るのはそうした小難しい考察よりも、
時計の秒針が刻む、一秒一秒の尊さです。

ベンジャミンとデイジーが愛し合うことができるのだとしたら、
きっとその蜜月の日々は短いに違いない。
観客は誰しもその思いを抱きつつ、スクリーンを見つめ、その思いは見事に当たります。
短いというよりも、ふたりが待ち続けた月日を思えば一瞬とも言える愛に満ちた日々。
それは一瞬だからこそ、愛しく切ない。
男と女が出会い、互いに惹かれあい、同じ日を過ごす。
きっと、それは奇跡のような出来事なのかも知れない。
実に丁寧で細やかで物静かな演出。
167分という長尺を使って、“一秒"の尊さを伝える、そんな作品でした。

コミック雑誌なんかいらない!

2010-12-14 | 日本映画(か行)
★★★★★ 1986年/日本 監督/滝田洋二郎

「渾然一体のパワー」


テレビの人気突撃レポーターの取材活動を追う中で実際に85年に起こった有名人のスキャンダルや社会的事件をはさみ入れ、ワイドショーに踊らされる大衆への皮肉も込めて描いた衝撃の問題作。ワイドショーの人気レポーター、キナメリは有名人のスキャンダルをハイエナのごとく嗅ぎ回る男。今日も事件を求めて街へ繰り出す。ロス疑惑の三浦和義にマイクを向け、神田正輝との結婚を控えた松田聖子の家に張り込み、ヤクザの抗争を取材する…。


二度目の観賞。やっぱ何度見ても傑作。
日航機事故からおにゃん子クラブ、
風俗に至るまでいろんな社会問題がてんこ盛り。
「恐縮です」が売り文句の内田裕也演じる突撃リポーター、
キナメリ(ヘンな名前だよなー)を通して、当時の日本の世相を斬りまくる。
棒読みのどう見ても演技ヘタクソな内田裕也が、
後半マスコミの在り方に疑問を持ち始め、変容していく様が超カッコイイ。
いや私は、「水のないプール」も「十階のモスキート」も大好きでして、
昔から俳優内田裕也のファンです。

豊田商事の社長殺害事件をそのまま再現したラストシークエンスが圧巻。
殺し屋を演じるビートたけしの狂気がスクリーンを満たし、背筋がぞくそく。
この後、たけしは映画と同じように襲撃事件を起こしたし、
出演者のひとりであるロス疑惑の三浦容疑者も、この作品の撮影中に逮捕されるし。
こういう驚くべき偶然性を生み出す映画は今風に言えば「もってる」ってやつだよね。
語り継がれる映画ってのは、こうした想像を超えた何かを持っている。

で、これは滝田監督のデビュー作なんだけど、
元々内田裕也の持ち込み企画なんだよね。で、ふと思い出す。
あれれ、「おくりびと」も本木雅弘の持ち込み企画だよなー。
なんだ、親戚繋がりじゃん。
モックンはこの作品が念頭にあって、
滝田監督にお願いしたのかもと思うのであります。


50回目のファーストキス

2010-12-13 | 外国映画(か行)
★★★★ 2004年/アメリカ 監督/ピーター・シーガル

「毎日、愛を噛みしめる」

常夏の島ハワイ。水族館で獣医として働くプレイボーイのヘンリーは、ある日カフェでルーシーという女性と出会い、一目惚れ。意気投合した2人だったが、翌日また同じカフェで再会すると、彼女は冷たく他人行儀になっていた。実はルーシーは1年前に交通事故に遭い、その後遺症から一晩で前日の記憶を全てなくしてしまう短期記憶喪失障害を抱えていたのだった。ヘンリーは毎日、初対面から始め、愛を告白する…。



コメディ映画では結構有名な俳優、アダム・サンドラー。
どうも私はこのジャンルをあまり見ないこともあって、
ピンと来ない俳優なんだけど、この作品は良かったです。
一日たったら記憶を忘れる彼女に毎日毎日違うアプローチをするって、
こりゃあロマンチックな話ですねえ。
その方法が毎度毎度笑わせてくれる。
その1日の努力でも日本人男性に真似してもらいたいもんですよ。
そんな「彼の努力=どんなに自分を愛しているのか」、
を毎日噛みしめることができるこの女の子は世界一の幸せ者じゃないかしら。

記憶障害を持つ女性を演じるドリュー・バリモアも、
障害をネガティブに感じさせない突き抜けたキャラクターでとても愛らしい。
素直に誰もがいい映画と言える作品。
すんごい、ほっこりしました。


シャッターアイランド

2010-12-03 | 外国映画(さ行)
★★★☆ 2010年/アメリカ 監督/マーティン・スコセッシ

「既視感」


私は何でも騙されるクチ、という実に扱いやすい観客なんですけど、そんな私でもオチが読めた。トホホ。「インセプション」にも似ているし、幻想場面の少女のシークエンスなんかは、キューブリックの「シャイニング」じゃないでしょうかねえ。どうも、どこかで見たような感じです。オレにもホラーは撮れる!ってスコセッシが示したかったんでしょうか。精神病棟を要するシャッターアイランドそのものの描写は悪くないです。禍々しいムードに満ちていて、大きなスクリーンで見ると迫力あるだろうなと思う。でも、ディカプリオの暑苦しさにちょっと疲れた。延々苦しみもがき続けるディカプリオにおまえは役所広司か!と突っ込んじゃったよ。

そして、意味深なエンディング。まあ、いいんですけどね。最後にあれ?と観客に思わせるというね。うん、これまた「インセプション」に酷似。このラストに別の意味や作品の深さを感じる人もいるだろうし、それはそれでいいと思う。でも、私はひねくれ者なので、ラストのセリフは途中で見破っちゃった観客を再び煙に巻いてやろうってな、せこい作戦に見えてしまうんだな。どうも、スコセッシと相性悪いんかな。「タクシードライバー」は大好きなんだけど。