Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

エル ELLE

2017-08-29 | 外国映画(あ行)
★★★★★ 2017年/フランス 監督/ポール・バーホーベン

(映画館)

何があっても悲しまない。全てを決めるのは私の意思。
男たちの暴力にさらされ続けながら屹立と生きるミシェルの美しさ、そして哀しさよ。

本作は登場人物に感情移入するタイプの作品ではない。
人を殺す男、強姦しないと勃たない男、女を肉便器のように考えている男、
それぞれに対してミシェルという孤高の女が対峙することで何かがスパークする。
その関係性のみを見せていくような作品だ。

だから、敢えてミシェルがどんな人生を送ってきたかは描写されない。
ミシェルが苦労してきたなら「可哀想に」となるし、
少々の悪いこともしてのしあがってきてたなら「レイプされても当然」とかなってしまう。
そうした、いわゆる当事者じゃない人間の中途半端な共感や哀れみを一切排除している。

男には女よりも圧倒的に強い力(暴力)が備わっていて、
どんなに強い女であってもねじ伏せられて、殴られ、犯されてしまうという事実がある。
そこに対向するには「泣かない」「落ち込まない」「気にしない」「笑ってスルーする」という態度で
「弱者としての存在アピール」を封印するしかない。そんなミシェルの取った行動にとことんフォーカスさせる。

ミシェルがどのような人生を生きてきたとしても、「どんな女性もレイプされていいはずがない」。
そんなテーマを極端な人物造形で私たちに問いかけている

そして、ミシェルが好きになれないという女性は、同族嫌悪になっていないか試されている。

ありがとう、トニエルドマン

2017-08-24 | 外国映画(あ行)
★★★★ 2016年/ドイツ・オーストリア 監督/マーレン・アーデ

(映画館)

大感動!というわけではないけど、じわじわとくる面白さ。
ウザい父と娘の間に流れる気まずい間に何度も笑う。
手持ちでリアルさを追求した長回しの演出。
一見、即興演技のように見えるが、何度もリハを重ねたとか。
まるでドキュメンタリーのように見えるが、計算された演出ということに驚き。
しかし、全裸には驚いたー。

ルーム

2017-08-15 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2015年/カナダ・アイルランド 監督/レニー・アブラハムソン

(WOWOW)

閉ざされた世界が前半、解放後の苦悩が後半の明確な二部構成。
前半クライマックスの脱出のスリリングさも醍醐味だが、
テーマ的には後半部に重きを置くことで人間ドラマとしての深みが増している。
誘拐され、幽閉されレイプされ続けた主人公を思うとやり切れないが、
彼女の悲惨な境遇をことさら強調して見せない演出がいい。
そこを強調するとどうしても共感深度が強くなり、観客の感情もヒステリックになりがちだ。
しかし、そこをセリフではなく、繊細な演技や演出で見せることで
我々も彼女の7年間の苦悩にしっかりと、深く寄り添えるようになっている。

それにしても、子役の演技がすばらしい。主演男優賞は彼じゃないのか。

追憶の森

2017-08-11 | 外国映画(た行)
★★★☆ 2015年/アメリカ 監督/ガス・ヴァン・サント

(Amazonプライム)

Mマコノヒー、Nワッツ、渡辺謙の演技がすばらしく、
ほぼ樹海で彷徨うシーンと夫婦の回想シーンしかないが、
非常に濃密で惹き付けられる物語となっている。
そして、日本人ながら樹海というものの存在について改めて興味を抱いた。
渡辺謙の存在についてピンと来るのは日本人だからだろうか。
おとぎ話の取ってつけたような「オチ」に関しても、
それが多くの魂がさすらう富士山の麓の樹海であるということで
不思議と違和感を感じることもない。
これまた、日本人のメンタリティゆえか。
カンヌでブーイングを浴びたというが、なかなかの秀作だと思う。


最愛の子

2017-08-10 | 外国映画(さ行)
★★★☆ 2014年/中国 監督/ピーター・チャン

(WOWOW)

一人っ子政策の歪みから来る頻発する子供の誘拐。
現代中国の社会問題を背景に、誘拐された親、誘拐した親それぞれの苦悩を描き出す佳作。
息子を誘拐された両親の悲痛さは見ていても、身にしみるほどつらく、キャストたちの熱演ぶりに心つかまれる。
そして、コントラストの強い豊かな色彩の映像が美しく、その美しさが物語のつらさを和らげてくれるようだ。
ラストの展開もなかなかビターで深く考えさせるが、最後に実際の人物の映像が流れてやや興ざめてしまった。

それにしても、こんなにたくさんの子どもたちが誘拐されているとは。。。
現代中国を描き出す作品は、いつも自分の知らないことばかりだ。

早春

2017-08-09 | 日本映画(さ行)
★★★ 1957年/日本 監督/小津安二郎

(DVD)
小津作品は(個人的に)すばらしい作品、許せる作品、許せない作品の3種に分かれるのだが、
これは、残念ながら許せない作品だ。

許せる許せないという感情的な見方になるのは、
どうしても「そりゃねーよ」というトホホなセリフが頻発するからである。
特にジェンダー論的に。

本作では主人公の友人が妻が妊娠してしまい、
子供を育てていくだけのサラリーがないと嘆くシーンがあるのだが、
なんとまあそこで「土手でカミさんを突き飛ばしちゃったんだけど、腹は大丈夫だよな?」とかなんとか言うシーンがあり、
いつもの小津調繰り返しセリフで「大丈夫だよ」「うん、大丈夫だよな」とか、
「それでダメになったらしょーがねーよな」「うん、しょうがないよ」とか、もうおいおい、とうなだれるばかりである。

キスシーン、そして不倫翌日の朝のシーンと、小津にしてはやけに生々しいシーンがあるのは
岸恵子という女優起用のなせる技か。
サラリーマンはつらいよって、ことがテーマだが、
現代人の目から見ても、ジェンダー目線から見ても、
おめーらのんびり喜楽に会社員してるじゃねーか。としか思えないのでR。


レイチェルの結婚

2017-08-08 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2008年/アメリカ 監督/ジョナサン・デミ

(WOWOW)

「マンチェスターバイザシー」にも通じる、取り返すことのできない罪を負った家族の物語。
カメラはほとんど手持ちで、まるで本当の家族喧嘩に立ち会っているような臨場感を感じさせる。
Aハサウェイはもちろん、他のキャストもみなリアルな演技で胸を打つ。
特に父親役の俳優のじたばたしたもどかしい演技が滑稽で
カメラを意識していないリアルさがすばらしい。

友人が企画したパーティが何だか奇妙でそこがまたリアル。
そして、アイリッシュ、フォーク、サンバ、ヒップホップと世界中の音楽がパーティで奏でられる。
あまりに多様なメンバー構成に面食らうが(しかもなぜそういう人達が集まっているのか何の説明もされない。そしてほぼ生バンドだ)
おそらくそこには多様性や共生というメッセージが込められているのだろう。秀作。

団地

2017-08-07 | 日本映画(た行)
★★★★☆ 2016年/日本 監督/阪本順二

(WOWOW)


大阪弁コテコテのテンポの良い悲喜劇にSF要素が加わるウルトラCひねり。
死とは?そして生とは?という哲学的なテーマを
日常の権化とも言える団地と遥かなる宇宙空間を見事につないで紡ぎだす。

団地という日常に非日常が浸食する。
いや、私たちが生きる世界こそが非日常なのだ。
密室での漢方薬作りシーンにも不思議な緊張感が走る。
そして、「そちらはどーですかああ」とくそ真面目に叫ぶ藤山直美に爆笑。
この緩急がすばらしい。
ラストの驚きの展開にも唸る。

2016年にリアルタイムで見てたら間違いなく年間BEST3入りだった。

オーバーフェンス

2017-08-06 | 日本映画(あ行)
★★★☆ 2016年/日本 監督/山下敦弘

(WOWOW)
長年の山下ファンで期待して見たのにノレず。
オダジョーはイケメン過ぎてやさぐれ男に見えない。
もっと太るか痩せるかでもしないと、人生どん詰まり感は出ないよ。
蒼井優のエキセントリックぶりも取って付けたよう。
彼女の辛さの元は何なのさ。
敢えて描かない選択をしているのなら、もっとキャラに感情移入させてほしい。

ダメ男を描いて右に出るモノなしの山下監督ゆえに職業訓練校の風景は凄くいい。
むしろ、こちらの物語をもっと見たいところだ。

そして、人生のどん底を這う2人のSEXシーンがぬるい。
やはり池脇千鶴はエライのだった。

ちはやふる 下の句

2017-08-05 | 日本映画(た行)
★★★ 2016年/日本 監督/ 小泉 徳宏

(WOWOW)

上の句を見たので仕方なく観賞。
松岡茉優の登場により、広瀬すず推しな映像も減っているので、上の句よりも楽しめた。
しかしまあ、主人公がワガママ三昧でうざいね。
おまえはいつも自分のことで忙しいのお。
次作が決まっているらしいのだが、もう見ないのは言わずもがな。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間

2017-08-04 | 外国映画(た行)
★★★★☆ 1992年/アメリカ 監督/デヴィッド・リンチ

(WOWOW)
映画館で見てからしばらく経つ。再見。
TVシリーズのドナを別人が演じているのが何とも痛い。
それだけで世界観がまるで違う。
それにしても、ローラパーマーを演じているシェリルシーは、なかなかの演技派だと再認識。
狂気じみた泣きの演技(それも何度も何度も)を見るに、リンチが彼女をキャスティングしたのも納得。
これのイメージが強すぎたのがキャリアに影響を及ぼしてるなあ。

公開当時はドラマ版の謎がスッキリ解けるわけではないとか酷評されていたようにも思うけど、
それでも、死を覚悟したローラの自暴自棄っぷりと、繰り返しでてくる赤い部屋のシーン、
そして、狂った(みんな狂ってるけど)ローラのパパの怪演を見ているだけで
そりゃもうリンチファンとしてはお腹いっぱいの大満足だ。

残穢 -住んではいけない部屋-

2017-08-03 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2015年/日本 監督/中村義洋

(WOWOW)

中村義洋も竹内結子も苦手だが、思いのほか楽しめた。
短絡な怨念にまとめず、その連鎖の元をたぐり寄せながら調査するという物語(原作の力)が面白い。
また、主人公2人の女性がぎゃあぎゃあわめかず、淡々としているのがさらに怖さを増す。
津山32人殺しから、嬰児遺棄事件など、およそ現代的日本ホラーのモチーフになりそうなものを
てんこ盛りしながら、しっかりとまとめあげた中村監督の力量を見た。
静かにひたひたと恐ろしさが迫り来る。品の良いホラーだ。