Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

嵐電

2019-06-30 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★ 2019年/日本 監督/鈴木卓爾

(映画館)

夜も更けた頃、祇園囃子と共に現れる狸と狐の車掌が乗った嵐電。恋人たちはその不思議な魔力に導かれて列車に乗り込むが…果たして嵐電は縁切り列車か、それとも縁結びの列車なのか。ドキュメンタリー的な演出にファンタジー要素も加わり不思議な手触りとなった作品。

祇園囃子に妖しげなキツネ車掌など、京都ならではのモチーフがファンタジックな雰囲気をさらに醸し出す。3組のカップルは出演するが、主役はもはや嵐電と言ってもよく、人々の生活に根ざす路面電車の存在が時にノスタルジックに映し出される。路面電車のそばで暮らすということがちょっと特別な人生のようにも見え、羨ましく思った。

舞台挨拶付き上映で鑑賞したが、井浦新さんもご参加。「ワンダフルライフ」の頃から出演作の多くを見て来たファンとしては大感激。井浦さん(未だにARATAくんと言ってしまう)はこれまでも自身の出演作では、地方の小さなミニシアターを衷心にあちこちの映画館に挨拶に出向いておられて本当にいい人だな。挨拶時に来ていたのが若松プロのTシャツで、さらにテンションが上がった。


凪待ち

2019-06-29 | 日本映画(な行)
★★★★ 2019年/日本 監督/白石和彌

(映画館)

舞台が海辺の町で主人公が犯した取り返しのつかないやらかしとその欠落を擬似家族の絆で取り戻す物語としてマンチェスター・バイ・ザ・シーを想起させる。香取慎吾もケイシーアフレックに負けない熱演ぶりだ。何をやってもうまくいかない。わかっていても悪い方へ悪い方へ流れてしまう。悪いのは全部俺のせいなんだ。大なり小なり人生でそんな経験をした人は郁男の自暴自棄に共感するだろう。脇を固める役者陣もすばらしいがとりわけ持っていくのは吉澤健。白石作品では「牝猫たち」の演技もすばらしかった。

ラストシーン、郁男はあるものを海に沈める。そこから、エンドロールに映し出されるものがあまりに不意打ちで胸を締め付けられた。津波は新しい海を作った。ようやく郁男に訪れた凪を3人で穏やかに航行していくのだろうか。余韻の残るラストシークエンスだ。

ただ、ポスターキャッチにもなっている「誰が殺したのか なぜ殺したのか」については消化不良感が残る。犯人の動機についてはもっと描き込んでも良かったんじゃないだろうか。また、他の白石作品と比べるとエロも暴力もそれほど突き抜けてはいない。郁男と亜弓の夜のシーンはもっと突っ込めなかったか。やはりそこは香取慎吾主演の限界なんだろうか。

RBG 最強の85才

2019-06-26 | 外国映画(あ行)
★★★☆ 2018年/アメリカ 監督/ベッツィ・ウェスト、ジュリー・コーエン

(映画館)

物議を醸した日本ポスターのキャッチ「妻として 母として 働く女性として」。続きを付けるとしたら、「妻として失格、母としても失格、働く女性としては過労死レベルの働き過ぎ」と言ったところ。
すべてにおいて「〜として」という枠組みを超えた女性の話だから、まずもってこのキャッチは全く意味をなさない。本当に映画を見た人が考えたんだろうかと首を傾げるばかりだよ。

さて、ドキュメンタリーとしては、彼女がこれまで携わった案件の一つひとつがどれも画期的な判決ばかりなのに、割と淡々と紹介されるのでちょっと退屈になってしまう。しかも、最高裁判事という日本では馴染みのない職業だけに彼女の偉大さがなかなか伝わりづらい。むしろ、80歳を過ぎた彼女がNotoriousという冠を付けてSNSで一気に有名人になる現象がとても面白くて、ここを切り口にもっと面白く見せられたんじゃないかと言う気もする。編集が単調なんだよね。

とにかく働き方が無茶苦茶で子どもが寝たら朝まで仕事。こんなの誰も真似できない。でも、世の中には驚くほど仕事が好きで有能な人というのがいる。それが女性であることも往々にしてある。彼女が仕事を追究することを夫はとやかく言わない。彼女にとって最高の理解者は夫。彼のおかげで愚直にとことん突き進み最高裁判事まで上り詰める。でも、85歳になっても最高裁判事を辞めることができない。いや、辞められない。女性やマイノリティのために長年尽力してきた彼女が後は頼んだと次世代にバトンを渡すことができないという現実。でも、彼女が撒いた種は確実に多くの若者達の中で育っているのは間違いない。

町田くんの世界

2019-06-25 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 2019年/日本 監督/石井裕也

(映画館)

すべての人にやさしい善き人町田くん。彼といるとすべての人が自分の悪意やエゴに気づかされ、自身の存在を恥じてしまう。彼は鏡のような存在。悪意に満ちたこの世界で、なぜ町田くんはそんなにいい人でいられるの?と周囲の人々は問う。人は誰しも好きこのんで誰かを貶めて生きる人生なんて送りたくないのだ。ところが恋をした町田くんは誰にでもやさしいことが好きな人を苦しめてしまうことを知る。どうする?町田!

若い高校生の恋バナ映画と思っていたのにさにあらず。悪意、そして無関心にあふれた社会でどう生きるればよいのかをと問うてくる秀作。主演ふたりのみずみずしい演技はもちろんなのだが、それを際立たせているのが周囲の演技派役者陣。同級生演じる大賀がいい。高畑光希がいい。しかし、やはり前田敦子が最高なんである(知ってた)。その他、松嶋菜々子や池松壮亮など、脇を固める役者陣が豪華で、一人ひとりがリアルに演じている。

個人的には石井裕也作品とはあまり相性が良くないと思っているのだけど、本作はいちばん好きな作品になった。ギスギスした世の中だからこそ、本作に監督が込めたメッセージの意義はとても大きいと感じた。

ブリグズビー・ベア

2019-06-21 | 外国映画(は行)
★★★☆ 2017年/アメリカ・イギリス 監督/デイブ・マッカリー

(WOWOW録画)

「ルーム」みたいな隔離されてた子どもが世の中と折り合いをつけていく話かと思ったら違うのよね。映画愛についての作品。友情物語と言ってもいい。

最近つくづく思うのですよ。人生に必要なのは理解者だと。自分の好きなものを理解してくれる人、共感してくれる人が1人でもいれば人生は満たされる。本作で言うと、パーティーで知り合った男の子スペンサー。作中ではあまりクローズアップされないけどこの子が最高。ずっと監禁されてた子が自分のためだけに作られたビデオを渡されたら普通ギョッとするもんだけどね。ジェームズを好奇の目で見ることなく、サラリと映画作りに誘うのがいい。自分の息子もこういう人であって欲しいと強く思った。 
     
ほとんど悪い人が出てこない。だから、癒されたいときに見るのにピッタリの作品。しかし、あんな見てくれでも(失礼)、ホームパーティに行けば素敵な女の子と知り合えるのはちょっと出来過ぎだけど。そこも含めて、どんな悲惨なことがあった人も人生をやり直せるし、どんな人も自分の人生を楽しく生きる権利があるということを実に優しい語り口で伝えてくれる作品。誘拐した夫婦の動機や彼らがどういう意図で「ブリグズビーベア」という映像作品を作り、ジェームズに見せていたのかが明かされずそこに少し物足りなさを感じた。

愛がなんだ

2019-06-20 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2019年/日本 監督/今泉力哉

(映画館)

「愛がなんだ」をたくさんの若い女性に囲まれて鑑賞。原作にはないというラストシーンがとてもいい。これは自己消失の物語か、それとも自己実現の物語か。ハッピーエンドか、アンハッピーエンドか。鑑賞者の恋愛観、人生観によって180度反対の解釈ができるのがすばらしい。とはいえ、女性の自立について悩みもがき苦しんできたアラフィフとしては見ててしんどくなったのも事実。テルコ、あんたの自我はどこにある?と悲しくなる。

マモちゃんに愛されたいでも、振り向かれたいでもなく、マモちゃんになりたいってのは、あれかね?推しが来てる服を買って来たりするのと同じ心境?この究極の自己完結型恋愛をそれで良しと思うか、哀れと思うか。私がテルコの母親ならあまりに哀れでつっぷして泣く。

語り合いたくなるということでも話題だが、重々気をつけた方がいいと思う。何度も言うように本作を語ることは自己のこれまでの生き方や価値観を晒すことになり、そういう意味でとても危険な映画だと思う。本作の感想を語り合うことで、友人を失う可能性も否定できない。

テルコの突然ラップがおもしろかったね。「勝手にふるえてろ」のヨシカの突然ミュージカルを想起させる。若い女性の生き様を描いた邦画が豊作になっていく予感。若葉竜也は相変わらず最高だった。

氷上の王、ジョン・カリー

2019-06-18 | 外国映画(は行)
★★★★ 2018年/イギリス 監督/ジェームズ・エルスキン

恥ずかしながらジョンカリーというスケーターについてほとんど知らなかったのですが、本当に滑りが美しくて驚きました。残された映像の質は決して良くないけど、そんなこと全く気にならないほど魅了されました。特にすばらしかったのはプロ転向後の「牧神の午後」。あんなにうっとりするプログラムはないですね。ゲイであることへの社会の無理解、カンパニー立ち上げ後の運営難など、様々な問題に直面するカリーの苦難の人生。本当に見て良かったです。上映後には長光コーチのトークが20分程度。もう少し質疑応答などあれば良かったなあ。高橋選手がビートルズメドレーのプログラムを練習中、ジョンカリーの「After All」というプログラムをYouTubeで見て参考にしたとのこと。私も帰って早速見たけど、本当に優雅な滑りで見とれてしまう。スケートにしか表現できない美と芸術というものが存在するんだということを改めて思い出させてくれる映画でした。スケートファンの方はもちろんだけど、芸術家の孤独を描くという点においてもとても優れた映画だと思う。